OTHER
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シトシトシト。
鉛色の空から降り注ぐ雨は爆豪の身体を静かに濡らしていく。しかし髪の毛や服が濡れて張りつく不快感も、身体から熱が奪われていく寒さも不思議と感じなかった。
眼前には何の変哲もない住宅街が広がっているが通常よりも目線が低い。更に下に目線を移してみると何故か体操座りで段ボール箱に収まっていた。
『捨てばくごう』
箱にはデカデカとそんなふざけた文字が書かれていて更に小さく『ひろえるもんならひろってあげてください。』と続いている。
意味がわからない状況にこれは夢だと理解すると同時にイラッと体温が上昇したような気がした。
爆豪はいずれオールマイトをも超えてナンバーワンヒーローになる...予定の男だ。たとえ夢であろうとこんなところで捨てられていて良いはずがない。ナンバーワンヒーローとして敵 共をなぎ倒しまくるような痛快な夢こそ自分には似合っている。仕切り直しだ、と爆豪は夢から覚める為に瞼に力を込めようとしたところで数m離れたところからこちらを見つめている視線に気が付いた。
その人物はよく見知ったやつだった。何かと釈に触る女ークラスメイトの苗字名前だ。
レインコートにドット柄の傘をさしキョトンとこちらを見つめる名前の姿は、元々の低身長も相まって小学生のように見える。
爆豪がハッと小馬鹿にするように鼻で笑うと名前は少しだけムッと口を結び爆豪の方へと近づいてきた。
手が届くほど目の前まで近づいてきた名前は無言でただジッと爆豪を見つめるので爆豪も負けじと下唇を突き出しながらメンチを切る。
静かな睨み合いがしばらく続いていたが、そんな冷戦を崩したのは名前の方だった。
名前は無言のまま爆豪に向かって右手を伸ばした。
「(まさかコイツ、俺を拾おうってか?)」
何しろ爆豪が収まっている段ボールにはデカデカと『捨てばくごう』と書いてあるのだ。拾うつもりなのかもしれない。
しかし、爆豪もそう易々と拾われてやるつもりはない。手を差し伸べられたくらいで着いていくと思うな、という思いを込めながら舌打ちをし、眉間のシワを増やす。
こちらに拾われてやる気が無いとわかれば諦めて帰るだろう。そうすればオレの勝ちだ、と爆豪は一方的に対抗心を燃やした。
名前が伸ばした手はどんどんと近づいてくる。
手を叩き落とすことも出来るが、こちらが動くのはなんだか負けな気がする。目だけで殺す、と眼力を強める爆豪の顔は最早修羅のようだった。
並大抵の人間なら「ヒィッ」と情けない声を出して震えていただろう。
しかし名前は爆豪の威嚇に臆することなく更に手を伸ばし......
爆豪の下唇を摘んだ。
「なんでだぁああああああ!!!!!」
思わず大声でツッコミながらガバッと勢いよく上半身を起き上がらせた。
遠くで「勝己!朝っぱらから叫ばないの!ご近所迷惑でしょ!?」と人のことを言えない近所迷惑な母親の怒号が聞こえる。
無視してカーテンを開けてみるとどんよりとした鉛色の空ではなく、青々とした晴天が広がっていた。
日の光を浴びたことによって段々と頭が覚醒してくる。
最初から最後まで全くもって意味のわからない夢だった。夢から覚めた今でも思い出すだけで苛つく。
いつも起きている時間にはまだ早いが、もう一度寝直す気にもなれず爆豪は洗面所へと向かった。
***
その日の爆豪はとにかくツいていなかった。
日課のロードワーク中に水やりをしていた老翁にタイミング悪くズボンと靴を濡らされたり、犬の散歩中にリードをうっかり手放してしまった老婆に「ゴン太を捕まえとくれ〜」と泣き付かれ、住宅街から雑木林に至るまで犬と全力の追いかけっこをすることになったり、無事ゴン太を老婆に受け渡し(全力追いかけっこが出来たゴン太は大層ご機嫌な様子で尻尾を振っていた)満身創痍で目付きが鋭くなっていたところを通園バスを待っていた幼稚園児達に泣かれたり......などなど、様々なトラブルに見舞われた爆豪は結局いつもよりもだいぶ遅い電車に乗る羽目になった。
そこで偶然にも、よりにもよってムカつく幼馴染と同じ車両に乗ってしまい、しかもそれなりに人が多かった為すぐに車両を変えることも出来ず鳥肌の絶えない時間をしばらく過ごし、何か言いたげなデクを射殺さん勢いで睨みつけ威嚇し、次の駅で車両を変えるなどして学校に着く頃にはイライラと疲労を通常の数十倍感じていた。
それもこれも全てあんな意味がわからない夢を見たせいだ、と爆豪はちょうど隣の席の耳郎とそのまた隣の上鳴と歓談をしていた名前に理不尽な怒りの視線を送る。当の本人よりも先に上鳴がその視線に気付き「ウェ?!」と情けない鳴き声をあげた。
突然の上鳴の鳴き声に名前と耳郎は不思議そうに顔を見合わせ、上鳴の視線を辿り爆豪に視線を向ける。
爆豪と名前の視線がパチっと交わった。
名前は爆豪から一方的に睨まれている理由がわかる筈もなく瞳をパチパチと大きく2回瞬きさせたが、何かに気付いたように爆豪の目の前まで近寄ってきた。
見るからに機嫌が悪い爆豪に自ら向かって行くなんて、猛獣の檻の中に丸腰で入るも同然だ。
名前の奇行に上鳴は慌てた様子で「ちょ、苗字!危ねぇぞ!?」と静止の声をかけるが名前は何食わぬ顔で爆豪に向かって手を伸ばした。
その光景に爆豪はとても既視感を覚えた。
言うまでもなく、今朝見たあの意味不明な夢である。
「(このままいくとこのクソチビに唇を摘ままれる...!)」
爆豪は咄嗟に自分の口を掌で勢いよく覆った。
しかし名前の伸ばした手は口元を通り過ぎ、右耳の少し上辺りを掠めた。
「葉っぱ、付いてましたよ」
名前が伸ばした手には小さな枯れ葉が摘まれていた。薄黄色のその葉は、爆豪の薄い金の髪色に似ており、くっついていてもぱっと見では気付かないだろう。
掌で口元を覆ったまま唖然と固まる爆豪と、少し得意げな表情の名前との間に数瞬沈黙の時間が流れる。
その沈黙を崩したのはすぐ近くで一部始終を目撃していた上鳴と耳郎の笑い声だった。
「ぶふっ爆豪いつから葉っぱ付いてたの?まさか通学中ずっと...ぷははっ!」
「めっちゃ同化してて気付かなかったw苗字よく気付いたな!」
「このあたりが少し緑だったのでわかりました!」
全力で爆豪を笑う耳郎と上鳴も、得意気な様子の名前も、どちらも爆豪の神経を逆撫でる要因にしかならなかった。怒りのあまりプルプルと小刻みに身体が震え始めた。
「ってか爆豪なんで口元押さえてるん?」
調子に乗った上鳴は更に追い討ちをかけ、ついに爆豪の怒りは頂点に達し、カッと目を見開きながら怒鳴った。
「っるせぇな!笑ってんじゃねェ!!そいつが今日夢で変なことしてきたのが全て悪い!!!」
爆豪は理不尽な怒りだと理解しつつも名前に文句の一つでも言わなければ気が済まなかった。
名前は「何言ってんだコイツ」とでも言いたげに首を傾げて爆豪の怒りを余計に煽ったが、それ以上に怒りを煽る存在が1人......言うまでもなく上鳴である。
「変なことって何?もしかして爆豪、苗字とちゅーする夢でも見たの??それで朝から機嫌悪かったん?w」
爆豪の釣り上がった目の角度が更に鋭利になり、禍々しいオーラを放っていることに調子にのった上鳴は気付かない。
爆豪の怒りを間近で感じ取った耳郎は「ちょ、そろそろヤバいって上鳴」と小声で諭す、が、もう手遅れだった。
「気色悪ぃ勘違いしてんじゃねェぞアホ面!!!!」
BOOM!!と激しい爆発が上鳴を襲い、上鳴は既の所でその攻撃をかわす。
「あっぶね!教室でいきなり爆破はやめろよ!」
「テメェが売ってきた喧嘩だろうが...大人しく死ね!!」
わーぎゃーと言い合いをしながら教室を駆け回る傍迷惑な2人を名前は元気だなぁと他人事のように見ていた。
2人の言い合いはHRの為に教室を訪れた相澤に捕縛布で締め上げられるまで続いたと言う。
鉛色の空から降り注ぐ雨は爆豪の身体を静かに濡らしていく。しかし髪の毛や服が濡れて張りつく不快感も、身体から熱が奪われていく寒さも不思議と感じなかった。
眼前には何の変哲もない住宅街が広がっているが通常よりも目線が低い。更に下に目線を移してみると何故か体操座りで段ボール箱に収まっていた。
『捨てばくごう』
箱にはデカデカとそんなふざけた文字が書かれていて更に小さく『ひろえるもんならひろってあげてください。』と続いている。
意味がわからない状況にこれは夢だと理解すると同時にイラッと体温が上昇したような気がした。
爆豪はいずれオールマイトをも超えてナンバーワンヒーローになる...予定の男だ。たとえ夢であろうとこんなところで捨てられていて良いはずがない。ナンバーワンヒーローとして
その人物はよく見知ったやつだった。何かと釈に触る女ークラスメイトの苗字名前だ。
レインコートにドット柄の傘をさしキョトンとこちらを見つめる名前の姿は、元々の低身長も相まって小学生のように見える。
爆豪がハッと小馬鹿にするように鼻で笑うと名前は少しだけムッと口を結び爆豪の方へと近づいてきた。
手が届くほど目の前まで近づいてきた名前は無言でただジッと爆豪を見つめるので爆豪も負けじと下唇を突き出しながらメンチを切る。
静かな睨み合いがしばらく続いていたが、そんな冷戦を崩したのは名前の方だった。
名前は無言のまま爆豪に向かって右手を伸ばした。
「(まさかコイツ、俺を拾おうってか?)」
何しろ爆豪が収まっている段ボールにはデカデカと『捨てばくごう』と書いてあるのだ。拾うつもりなのかもしれない。
しかし、爆豪もそう易々と拾われてやるつもりはない。手を差し伸べられたくらいで着いていくと思うな、という思いを込めながら舌打ちをし、眉間のシワを増やす。
こちらに拾われてやる気が無いとわかれば諦めて帰るだろう。そうすればオレの勝ちだ、と爆豪は一方的に対抗心を燃やした。
名前が伸ばした手はどんどんと近づいてくる。
手を叩き落とすことも出来るが、こちらが動くのはなんだか負けな気がする。目だけで殺す、と眼力を強める爆豪の顔は最早修羅のようだった。
並大抵の人間なら「ヒィッ」と情けない声を出して震えていただろう。
しかし名前は爆豪の威嚇に臆することなく更に手を伸ばし......
爆豪の下唇を摘んだ。
「なんでだぁああああああ!!!!!」
思わず大声でツッコミながらガバッと勢いよく上半身を起き上がらせた。
遠くで「勝己!朝っぱらから叫ばないの!ご近所迷惑でしょ!?」と人のことを言えない近所迷惑な母親の怒号が聞こえる。
無視してカーテンを開けてみるとどんよりとした鉛色の空ではなく、青々とした晴天が広がっていた。
日の光を浴びたことによって段々と頭が覚醒してくる。
最初から最後まで全くもって意味のわからない夢だった。夢から覚めた今でも思い出すだけで苛つく。
いつも起きている時間にはまだ早いが、もう一度寝直す気にもなれず爆豪は洗面所へと向かった。
***
その日の爆豪はとにかくツいていなかった。
日課のロードワーク中に水やりをしていた老翁にタイミング悪くズボンと靴を濡らされたり、犬の散歩中にリードをうっかり手放してしまった老婆に「ゴン太を捕まえとくれ〜」と泣き付かれ、住宅街から雑木林に至るまで犬と全力の追いかけっこをすることになったり、無事ゴン太を老婆に受け渡し(全力追いかけっこが出来たゴン太は大層ご機嫌な様子で尻尾を振っていた)満身創痍で目付きが鋭くなっていたところを通園バスを待っていた幼稚園児達に泣かれたり......などなど、様々なトラブルに見舞われた爆豪は結局いつもよりもだいぶ遅い電車に乗る羽目になった。
そこで偶然にも、よりにもよってムカつく幼馴染と同じ車両に乗ってしまい、しかもそれなりに人が多かった為すぐに車両を変えることも出来ず鳥肌の絶えない時間をしばらく過ごし、何か言いたげなデクを射殺さん勢いで睨みつけ威嚇し、次の駅で車両を変えるなどして学校に着く頃にはイライラと疲労を通常の数十倍感じていた。
それもこれも全てあんな意味がわからない夢を見たせいだ、と爆豪はちょうど隣の席の耳郎とそのまた隣の上鳴と歓談をしていた名前に理不尽な怒りの視線を送る。当の本人よりも先に上鳴がその視線に気付き「ウェ?!」と情けない鳴き声をあげた。
突然の上鳴の鳴き声に名前と耳郎は不思議そうに顔を見合わせ、上鳴の視線を辿り爆豪に視線を向ける。
爆豪と名前の視線がパチっと交わった。
名前は爆豪から一方的に睨まれている理由がわかる筈もなく瞳をパチパチと大きく2回瞬きさせたが、何かに気付いたように爆豪の目の前まで近寄ってきた。
見るからに機嫌が悪い爆豪に自ら向かって行くなんて、猛獣の檻の中に丸腰で入るも同然だ。
名前の奇行に上鳴は慌てた様子で「ちょ、苗字!危ねぇぞ!?」と静止の声をかけるが名前は何食わぬ顔で爆豪に向かって手を伸ばした。
その光景に爆豪はとても既視感を覚えた。
言うまでもなく、今朝見たあの意味不明な夢である。
「(このままいくとこのクソチビに唇を摘ままれる...!)」
爆豪は咄嗟に自分の口を掌で勢いよく覆った。
しかし名前の伸ばした手は口元を通り過ぎ、右耳の少し上辺りを掠めた。
「葉っぱ、付いてましたよ」
名前が伸ばした手には小さな枯れ葉が摘まれていた。薄黄色のその葉は、爆豪の薄い金の髪色に似ており、くっついていてもぱっと見では気付かないだろう。
掌で口元を覆ったまま唖然と固まる爆豪と、少し得意げな表情の名前との間に数瞬沈黙の時間が流れる。
その沈黙を崩したのはすぐ近くで一部始終を目撃していた上鳴と耳郎の笑い声だった。
「ぶふっ爆豪いつから葉っぱ付いてたの?まさか通学中ずっと...ぷははっ!」
「めっちゃ同化してて気付かなかったw苗字よく気付いたな!」
「このあたりが少し緑だったのでわかりました!」
全力で爆豪を笑う耳郎と上鳴も、得意気な様子の名前も、どちらも爆豪の神経を逆撫でる要因にしかならなかった。怒りのあまりプルプルと小刻みに身体が震え始めた。
「ってか爆豪なんで口元押さえてるん?」
調子に乗った上鳴は更に追い討ちをかけ、ついに爆豪の怒りは頂点に達し、カッと目を見開きながら怒鳴った。
「っるせぇな!笑ってんじゃねェ!!そいつが今日夢で変なことしてきたのが全て悪い!!!」
爆豪は理不尽な怒りだと理解しつつも名前に文句の一つでも言わなければ気が済まなかった。
名前は「何言ってんだコイツ」とでも言いたげに首を傾げて爆豪の怒りを余計に煽ったが、それ以上に怒りを煽る存在が1人......言うまでもなく上鳴である。
「変なことって何?もしかして爆豪、苗字とちゅーする夢でも見たの??それで朝から機嫌悪かったん?w」
爆豪の釣り上がった目の角度が更に鋭利になり、禍々しいオーラを放っていることに調子にのった上鳴は気付かない。
爆豪の怒りを間近で感じ取った耳郎は「ちょ、そろそろヤバいって上鳴」と小声で諭す、が、もう手遅れだった。
「気色悪ぃ勘違いしてんじゃねェぞアホ面!!!!」
BOOM!!と激しい爆発が上鳴を襲い、上鳴は既の所でその攻撃をかわす。
「あっぶね!教室でいきなり爆破はやめろよ!」
「テメェが売ってきた喧嘩だろうが...大人しく死ね!!」
わーぎゃーと言い合いをしながら教室を駆け回る傍迷惑な2人を名前は元気だなぁと他人事のように見ていた。
2人の言い合いはHRの為に教室を訪れた相澤に捕縛布で締め上げられるまで続いたと言う。
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