番外編
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段々とハロウィンパーティーにも慣れてきた頃、ずっと姿が見えなかった焦凍くんが、途中で様子を見てくると言って別れた百ちゃんと透ちゃんと共にヴァンパイア姿で共有スペースに現れた。
「あ!焦凍くーん!遅かったね、何かあったの?」
「あぁ、悪ぃ。ミッドナイト先生から用事頼まれたのと、衣装着るのに手間取って遅れた。」
「そうだったんだ。ミッドナイト先生から用事なんて珍しいね、お疲れ様!...それにしても焦凍くんの仮装気合い入ってるね〜。」
百ちゃん作のヴァンパイア衣装の出来は言わずもがな、それを完璧に着こなす焦凍くんは流石クラス屈指のイケメンと言われているだけある。更に焦凍くんは普段のサラサラヘアを右側の白髪部分だけオールバックに固めていた。
焦凍くんは普段からカッコイイけれど、普段と違う姿はいつも以上にカッコ良く思えてなんだか照れてしまう。
「治烏ちゃんどうどう?轟くんの髪の毛は私とヤオモモでやってあげたんだよ!」
「うん、すごい。とってもカッコイイよ!」
「...治烏もシスター服似合ってるな。可愛い。」
焦凍くんは少し照れ臭そうにしながらも、微笑みながら私の頭をそっと撫で、ストレートに褒めてくれた。
社交辞令だってわかっているけれども!わかっているけども...!!頬に熱が集まるのを感じる。
私も氷の個性が使えたらこの熱を誤魔化すことが出来たかもしれない。しかし残念ながら私の風の個性ではそんな芸当出来るはずもなかった。
真っ赤に染まる顔を俯くことで隠しながら「....あ、ありがとう....」と小さくお礼を返すことしか出来ない私を周りのクラスメイト達はニヤニヤしながら眺めていた。
「そ、そうだ焦凍くん!ハロウィンパーティーはもう始まってるんですよ!!トリックオアトリート!!!」
気恥ずかしさに耐えきれなくなって無理やり話題を変える。
しかし焦凍くんは不思議そうな顔をした。
「『トリックオアトリート』ってなんだ?」
「ありゃ、焦凍くんもハロウィン知らなかった感じか。なんかね、ハロウィンは仮装して『トリックオアトリート』って魔法の呪文を言うと皆からお菓子が貰える日なんだって。だからね、お菓子ちょーだい!」
「そうだったのか。悪ぃ、俺お菓子持ってねぇ。」
シュン...と申し訳なさそうに謝る焦凍くん。
私と同じくハロウィンを知らなかったんだからお菓子を用意してなくて当然か...。
焦凍くんがどんなお菓子をくれるのか楽しみだったからちょっと残念だけど、持っていないのならば仕方がない。
「いやいや、謝らなくて大丈夫だよ...!知らなかったんだからしょうがないよ」と慌ててフォローすると、今までニヤニヤと私たちを眺めているだけだった三奈ちゃんが待ってました!と言わんばかりにキラキラと瞳を輝かせ「ちょーっと待った!!」と叫んだ。
「治烏ちゃんにはちゃんと教えてなかったけど『トリックオアトリート』っていうのはただお菓子を貰う為の呪文では無いのだよ...!」
「『トリック』とは悪戯、そして『トリート』がお菓子。
つまり『お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ!』って意味の呪文なのさ!!」
「えぇええ?!そ、そんな...私は知らず知らずのうちにお友達を脅迫して回ってたってこと?!」
三奈ちゃんと透ちゃんによる息の合った衝撃の真実の告白に「ヒーローとしてもシスターとしてもアウトなのでは?!」とショックを受けていると「いや、真面目か」と冷静に突っ込まれた。
「ハロウィンはそういうお祭りだから脅迫とかそんな気にしなくていいんだよぉ。
重要なのはそこじゃなくって!お菓子を持ってない人には悪戯をするってこと!!」
「悪戯って...スカートめくりとか??」
「発想が小学生か?!轟スカート履いてないでしょ!」
「むぅ、たしかに...。じゃあ何すればいいの?」
「それはねぇ〜」
ちょいちょいと手招きをされたので三奈ちゃん達に近づく。すると『悪戯』の内容を耳打ちされた。
そんなことが悪戯になるのか?と疑問の眼差しを三奈ちゃんに送ると「いいから行っておいで!」とサムズアップを返されてしまった。
仕方がないので渋々焦凍くんの元へ戻る。
教えられた悪戯は「そんな悪戯というほどのものか?」という内容だった。
まぁ確かに不意打ちでやるのはビックリするかもだから悪戯と言えるのかな...?
「焦凍くん。聞いてのとおりお菓子を持っていない人には悪戯をしなきゃいけないルールらしいので悪戯するけど、ごめんね...?」
「あぁ、そういうルールなら仕方ねぇ。...こい。」
「じゃあ...いきます...!」
覚悟を決め焦凍くんに更に一歩近づく。
そして少し背伸びをして......
ちゅっ
ほっぺにキスをした。
焦凍くんは無言でピシリと固まってしまった。
ギャラリーからは歓声が上がる。
「いやぁ本当にやるとは!さっすが治烏ちゃん期待を裏切らないね!!....ってあれ?思ったより照れてないね...?」
「さっきは可愛いって褒められただけで照れてたのになんでほっぺにちゅーするのは照れないのさ!」
ついさっきまで大興奮だった三奈ちゃん達は私の反応が予想していたものと違ったらしく、不満をあらわにした。
「いや、なんでと言われましても...」
正直私にとってキスは医療行為みたいなものなので自分からする分にはあまり恥ずかしくない。
まぁ治癒の為では無いキスは初めてだったからなんか変な感じではあるけども.......あれ、そう思うとちょっと恥ずかしくなってきたぞ?
深く考えたら彼女達の思うツボのような気がするのでなるべく考えないようにしよう。うん。
「期待に応えられなくてごめんね...?さぁ、焦凍くんへの悪戯は終わったし、気を取り直して」
「次の人のところへ行こう」と続けようとしていた言葉は、先ほどまで私の悪戯によって固まっていた焦凍くんに腕を掴まれたことで遮られてしまった。
「....ハロウィンは仮装して魔法の呪文を言うとお菓子を貰える日だったよな?」
「う、うん、そうだよ。そしてお菓子を持ってない人には悪戯しなきゃいけないんだよ。」
「そうか...じゃあ........『トリックオアトリート』」
「!?」
予想だにしない展開に今度は私が固まった。
焦凍くんはたしかに私に向かって魔法の呪文を言ったのだ。
『ハロウィンは魔法の言葉を唱えると皆からお菓子を貰える日。お菓子をくれない人には悪戯をしなきゃいけない日。』
そう、私は今の今まで『皆から』に自分も含まれることをすっかり失念していた。
ギャラリーが「おぉ!」と歓声をあげ、再び色めき立つ。
「ま、待った!えっと、お菓子はその.......あ!このバケツにいっぱい入ってるから好きなの取っていいよ!!」
「それは他の奴らから貰ったものじゃねーのか?人から貰ったものを人にやっていいのか?」
うぐっ。正論すぎてぐうの音も出ない。
皆からお菓子を貰えるだけのお祭りだと思っていた私はもちろん人にあげる為のお菓子など用意しているはずもなく....
「お菓子、持ってないんだな?」と念を押すように聞いてくる焦凍くんに無言で頷くしかなかった。
「...じゃあ悪戯しなきゃな」
ヴァンパイア衣装のせいだろうか。怪しく笑う焦凍くんの瞳は完全に捕食者の目をしていた。
蛇に睨まれた蛙の気持ちってこんな感じかなぁと、身体中の筋肉が固まるのを感じながら他人事のように考える。完全なる現実逃避ってやつだ。
先ほどの流れ的にほっぺにちゅーがくるのかとキュッと目を瞑って身構えていたけどいつまで経ってもほっぺに何の感触も来ない。チラッと様子を伺うと焦凍くんは何故か私の背後へ回っていた。
一瞬「ん?これはスカートめくりのパターン??」とも考えたけれど焦凍くんが手をかけたのはスカートではなく頭に被っているベールの方だったのでますます意味がわからない。
焦凍くんはベールと髪の毛を横にズラすと「いただきます」と小さく呟いて、露わになった私の首筋にカプっと噛みついた。
「ひゃっ」
首元の擽ったさに身体がビクッと反応しそのまま身体の全機能が停止した。
噛みつかれた箇所をチュッと吸われて、最後にペロリとひと舐めされたところでようやく脳が働きだす。が、理解が追いつかない。待って、私はいったい何をされた?????
「吸血鬼ならこっちのが良いと思った。ご馳走さま。」
大混乱を極めている脳内は、してやったり顔の焦凍くんを見て徐々に状況を理解し始めたようで、頬に...いや、身体全体にすごい勢いで血が巡り一気に体温が上がっていくのを感じた。
今なら焦凍くんやエンデヴァーさんのように炎を出せるかもしれないと錯覚するほど熱を持った身体は、やがてその熱を少しでも逃がそうと頭からボフンと湯気を放った。
ギャラリーはすごい歓声に包まれていた。
いつの間にか一緒に居た三奈ちゃん達だけでなく、クラス中の注目を浴びていたらしく、あちこちから「まさかここまでやるとは...!」だの「さすがイケメンのやることは違ぇ...」だの「くそ羨ましい俺も治烏ちゃんに悪戯してぇ」だのなんかもう色々言われていた。
ただでさえ恥ずかしい状況なのにギャラリーからの煽りによって更に羞恥心が刺激されてしまい完全にキャパオーバーとなった私は羞恥心から込み上げてくる涙を瞳にためながら「お、お菓子取ってきますぅうううう」と言い残しその場から逃げ出したのであった。
ーーーーーーーーーーーーー
「...ってことがあったんだよ!皆グルになって私達の反応見て楽しんでたの。酷いよね、まったく!」
プンスカ怒りながら目の前の爆豪くんに今日あったことを愚痴る。
あの後ほとぼりが冷めるまでしばらく自室に引きこもるつもりでいた私の部屋に「泣くほど嫌がられるとは思わなかった...悪りぃ」と焦凍くんが謝りに来た。
まるでこの世の終わりと言わんばかりの声色で謝られてしまい無視することも出来ず、いまだ騒がしい心臓を深呼吸を繰り返すことで無理矢理鎮めて部屋から渋々顔を出した。
別に嫌だったわけではない。ただただビックリしただけだ。だってまさかあんな悪戯されると思わなかったもん。
でも泣きながら逃げて来てしまったことは流石に申し訳なかったので「ビックリしちゃっただけで嫌だったわけじゃないよ。こっちこそいきなり逃げてきちゃってごめんね」と伝えた。
心底安心したように表情を緩めてくれた焦凍くんに私も一安心していると「じゃあ共有スペースに戻るぞ。芦戸たちからお前を呼んでくるように言われてるんだ」と腕を引かれ強制的にパーティー会場となっている共有スペースへ連行された。
パーティー会場に戻った私達は三奈ちゃんから衝撃のカミングアウトをされた。
なんと、このハロウィンパーティーの裏では「ただのお菓子交換会じゃつまんなーい。ラブ的な刺激が欲しい〜!」と嘆いた三奈ちゃんとそれに悪ノリした透ちゃんによって世間知らずな私と焦凍くんを揶揄う為の計画が企てられていたのだ。
お互いに悪戯をさせる為に敢えて悪戯の部分のルールは最初に教えず、悪戯をしなきゃいけない状況になったらほっぺにちゅーをさせるように誘導し、恥ずかしがる様を写真に撮ってやろうという算段だったらしい。
しかもこの計画には撮影役として百ちゃんと足止め役にミッドナイト先生も一枚噛んでいたらしく、焦凍くんが先生に呼び出されて遅れたのも計画のうちだったという。
しかし焦凍くんの悪戯が想定していた以上に過激なものになってしまい、私が泣いて逃げたことで流石にやり過ぎたと反省したようで事の真相を話し謝ってきた次第だ。
百ちゃんなんかは特に反省の色が濃く、「お二人の仲睦まじい姿を写真におさめるという誘惑に勝てず、騙すようなことをしてしまい本当に申し訳ありませんでした...」と捨てられた子犬のような顔をしていたので許すしかなかった。
3人からキチンと謝罪をいただいて許したわけだけど...本当に恥ずかしい思いをしたのでこうして人に愚痴ることくらいは許してほしい。
「っていうかなんでテメェが俺の部屋に居るんだ...」
先ほどから私の長い愚痴を聞かされてイライラが募っていたらしい爆豪くんはその怒りを隠そうともせず地獄の鬼のように低い声色で呟いた。これだけ怒っているにも関わらず私の愚痴を遮らず最後まで話させてくれた爆豪くんはなんだかんだ優しい。
「あ、そうそう、爆豪くんが仮装を着替えないうちに一緒に写真撮ろうと思って!」
3人と和解した後もハロウィンパーティーは続いた。
しばらく経った後、切島くんや瀬呂くんに引きずられて爆豪くんが狼男姿で登場したのだけど、本人は仮装するつもりもハロウィンパーティーを楽しむつもりもなかったらしく、早々に「寝る!」と言って部屋に戻ってしまった。
せっかく(切島くんと瀬呂くんが無理やり着替えさせて)仮装してくれたんだし、写真だけでも一緒に撮りたくて追いかけてきたのだけど、途中で「テメェ...轟となんかあったんだってな?」と聞いてきた爆豪くんの一言がキッカケで私のマシンガン愚痴トークが始まってしまい今に至る。
「写真撮ったらすぐ帰るからちょっと待ってね、えっと携帯は...」とお菓子が入っているバケツの中に一緒に入れてしまった携帯を探していると爆豪くんはポツリと意外なことを呟いた。
「.....俺には言わねぇのかよ。...魔法の呪文。」
まさか爆豪くんがハロウィンに参加する意思があったとは驚いた。爆豪くんは一体どんなお菓子をくれるのだろうとワクワクしてしまう。
「爆豪くんお菓子くれるの?!ではでは、トリックオアトリート!!」
満面の笑みでお菓子を受け取りやすいように手のひらを差し出し、魔法の呪文を唱える。しかし
「菓子なんか持ってるわけねぇだろ!」
漫画だったら「ドーン」と効果音が付いてそうな感じに腕を組みながら踏ん反り返ってお菓子を持っていないと主張してきた爆豪くん。じゃあなんで「俺には言わねぇのかよ」なんて思わせぶりなこと言ってきたんだよもう!
「爆豪くんちゃんと私のお話聞いてた?!お菓子持ってないと悪戯されちゃうんだよ?」
「るせぇ!なら悪戯してこいや!!」
爆豪くんは腕を組んだままプイッとそっぽを向いてしまった。
マジでどうしちゃったんだ爆豪くん...悪戯されたかったの?なんで??峰田くんが言ってたマゾってタイプの人だったの???
いや、爆豪くんに限って悪戯されたがるわけがない.......そうだ、きっと私の話を聞いて少しだけでもハロウィンに興味を持ってくれたのだろう。でも「寝る!」と言って出てきてしまった手前、今更パーティー会場に戻って皆と一緒にハロウィンを楽しむことなんて出来ないから私とハロウィン気分を少しでも味わおうということかもしれない...!!
チラリと爆豪くんの様子を伺うと仄かに頬が染まっているような気がする。素直にハロウィンしたいって言えないのを必死で隠しているのかもしれない。ふふふ、爆豪くんも可愛いところがあるなぁ。
ならば私はその期待に全力で応えるまで...!
「じゃあ、悪戯するからね...?」
「...おう。」
キチンと了承を得たのでゆっくりと近づくと爆豪くんはキュッと瞳を閉じた。
目を瞑っている爆豪くんってなかなかレアだなと思いつつ更に距離を詰める。
そしてそっぽを向いていた爆豪くんの顔の正面まで来るとゆっくりと手を伸ばして....
額にデコピンをお見舞いした。
「....は?」
爆豪くんは目を見開き、一瞬ポカンと無防備な表情になった。そして見る見るうちに般若のような表情へと変わる。
「おい...どういう了見だコラ........。」
至近距離に居た私の頭をガシッと片手で掴む爆豪くん。
痛たたたた私の頭はバスケットボールじゃないよ?!
「どういうって爆豪くんが悪戯してこいって言ったから悪戯したんだよ?!」
痛みに耐えながら必死に自分の無罪を主張する。
ちなみにこの悪戯は、焦凍くんとのアレコレのあと、上鳴くんに「トリックオアトリート!」と言ったところ「オレお菓子持ってないんだよねぇ〜。だから治烏ちゃん悪戯していいよ」と言われ、オロオロしていたところ響香ちゃんから「悪戯なんておでこにデコピン一発くらわせてやるだけでいいんだよ」とアドバイスをもらったのでそれ以来、お菓子を持っていないと言う人にはこの方法を実践していた。
ほっぺにちゅーより恥ずかしくないし、簡単なので気に入っていたのだけど爆豪くんにはお気に召さなかったらしい。悪戯にお気に召す、召さないも無いかもしれないけども。
「テメェがそのつもりならこっちにだって考えがある....。トリックオア....」
マジで怒り爆発5秒前と言うような超低音ボイスのままハロウィンは続行するつもりらしい爆豪くん。
このまま爆豪くんに悪戯されることになってしまったら恐ろしいことになりそうだと身の危険を感じ取った私は焦凍くんとのアレコレの反省を活かし、キチンと用意したお菓子を素早く取り出す。
このお菓子 でなんとかお怒りを鎮めてもらわねば...!
「ちゃんと私はお菓子持ってるからね!これ食べてちょっと落ち着こう....?」
「るせぇ!!菓子なんかいるかぁ!!!トリックオアトリック!!!!100倍返しの刑だぁあああああ!!!!!」
「そんなのありーーーー?!?!?!」
見事怒りが爆発した爆豪くんによってデコピン100連発の刑に処され、焦凍くんとは別の意味で泣かされた。
その日ハイツアライアンスには私の断末魔の叫びが響き渡ったのであった...。
「あ!焦凍くーん!遅かったね、何かあったの?」
「あぁ、悪ぃ。ミッドナイト先生から用事頼まれたのと、衣装着るのに手間取って遅れた。」
「そうだったんだ。ミッドナイト先生から用事なんて珍しいね、お疲れ様!...それにしても焦凍くんの仮装気合い入ってるね〜。」
百ちゃん作のヴァンパイア衣装の出来は言わずもがな、それを完璧に着こなす焦凍くんは流石クラス屈指のイケメンと言われているだけある。更に焦凍くんは普段のサラサラヘアを右側の白髪部分だけオールバックに固めていた。
焦凍くんは普段からカッコイイけれど、普段と違う姿はいつも以上にカッコ良く思えてなんだか照れてしまう。
「治烏ちゃんどうどう?轟くんの髪の毛は私とヤオモモでやってあげたんだよ!」
「うん、すごい。とってもカッコイイよ!」
「...治烏もシスター服似合ってるな。可愛い。」
焦凍くんは少し照れ臭そうにしながらも、微笑みながら私の頭をそっと撫で、ストレートに褒めてくれた。
社交辞令だってわかっているけれども!わかっているけども...!!頬に熱が集まるのを感じる。
私も氷の個性が使えたらこの熱を誤魔化すことが出来たかもしれない。しかし残念ながら私の風の個性ではそんな芸当出来るはずもなかった。
真っ赤に染まる顔を俯くことで隠しながら「....あ、ありがとう....」と小さくお礼を返すことしか出来ない私を周りのクラスメイト達はニヤニヤしながら眺めていた。
「そ、そうだ焦凍くん!ハロウィンパーティーはもう始まってるんですよ!!トリックオアトリート!!!」
気恥ずかしさに耐えきれなくなって無理やり話題を変える。
しかし焦凍くんは不思議そうな顔をした。
「『トリックオアトリート』ってなんだ?」
「ありゃ、焦凍くんもハロウィン知らなかった感じか。なんかね、ハロウィンは仮装して『トリックオアトリート』って魔法の呪文を言うと皆からお菓子が貰える日なんだって。だからね、お菓子ちょーだい!」
「そうだったのか。悪ぃ、俺お菓子持ってねぇ。」
シュン...と申し訳なさそうに謝る焦凍くん。
私と同じくハロウィンを知らなかったんだからお菓子を用意してなくて当然か...。
焦凍くんがどんなお菓子をくれるのか楽しみだったからちょっと残念だけど、持っていないのならば仕方がない。
「いやいや、謝らなくて大丈夫だよ...!知らなかったんだからしょうがないよ」と慌ててフォローすると、今までニヤニヤと私たちを眺めているだけだった三奈ちゃんが待ってました!と言わんばかりにキラキラと瞳を輝かせ「ちょーっと待った!!」と叫んだ。
「治烏ちゃんにはちゃんと教えてなかったけど『トリックオアトリート』っていうのはただお菓子を貰う為の呪文では無いのだよ...!」
「『トリック』とは悪戯、そして『トリート』がお菓子。
つまり『お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ!』って意味の呪文なのさ!!」
「えぇええ?!そ、そんな...私は知らず知らずのうちにお友達を脅迫して回ってたってこと?!」
三奈ちゃんと透ちゃんによる息の合った衝撃の真実の告白に「ヒーローとしてもシスターとしてもアウトなのでは?!」とショックを受けていると「いや、真面目か」と冷静に突っ込まれた。
「ハロウィンはそういうお祭りだから脅迫とかそんな気にしなくていいんだよぉ。
重要なのはそこじゃなくって!お菓子を持ってない人には悪戯をするってこと!!」
「悪戯って...スカートめくりとか??」
「発想が小学生か?!轟スカート履いてないでしょ!」
「むぅ、たしかに...。じゃあ何すればいいの?」
「それはねぇ〜」
ちょいちょいと手招きをされたので三奈ちゃん達に近づく。すると『悪戯』の内容を耳打ちされた。
そんなことが悪戯になるのか?と疑問の眼差しを三奈ちゃんに送ると「いいから行っておいで!」とサムズアップを返されてしまった。
仕方がないので渋々焦凍くんの元へ戻る。
教えられた悪戯は「そんな悪戯というほどのものか?」という内容だった。
まぁ確かに不意打ちでやるのはビックリするかもだから悪戯と言えるのかな...?
「焦凍くん。聞いてのとおりお菓子を持っていない人には悪戯をしなきゃいけないルールらしいので悪戯するけど、ごめんね...?」
「あぁ、そういうルールなら仕方ねぇ。...こい。」
「じゃあ...いきます...!」
覚悟を決め焦凍くんに更に一歩近づく。
そして少し背伸びをして......
ちゅっ
ほっぺにキスをした。
焦凍くんは無言でピシリと固まってしまった。
ギャラリーからは歓声が上がる。
「いやぁ本当にやるとは!さっすが治烏ちゃん期待を裏切らないね!!....ってあれ?思ったより照れてないね...?」
「さっきは可愛いって褒められただけで照れてたのになんでほっぺにちゅーするのは照れないのさ!」
ついさっきまで大興奮だった三奈ちゃん達は私の反応が予想していたものと違ったらしく、不満をあらわにした。
「いや、なんでと言われましても...」
正直私にとってキスは医療行為みたいなものなので自分からする分にはあまり恥ずかしくない。
まぁ治癒の為では無いキスは初めてだったからなんか変な感じではあるけども.......あれ、そう思うとちょっと恥ずかしくなってきたぞ?
深く考えたら彼女達の思うツボのような気がするのでなるべく考えないようにしよう。うん。
「期待に応えられなくてごめんね...?さぁ、焦凍くんへの悪戯は終わったし、気を取り直して」
「次の人のところへ行こう」と続けようとしていた言葉は、先ほどまで私の悪戯によって固まっていた焦凍くんに腕を掴まれたことで遮られてしまった。
「....ハロウィンは仮装して魔法の呪文を言うとお菓子を貰える日だったよな?」
「う、うん、そうだよ。そしてお菓子を持ってない人には悪戯しなきゃいけないんだよ。」
「そうか...じゃあ........『トリックオアトリート』」
「!?」
予想だにしない展開に今度は私が固まった。
焦凍くんはたしかに私に向かって魔法の呪文を言ったのだ。
『ハロウィンは魔法の言葉を唱えると皆からお菓子を貰える日。お菓子をくれない人には悪戯をしなきゃいけない日。』
そう、私は今の今まで『皆から』に自分も含まれることをすっかり失念していた。
ギャラリーが「おぉ!」と歓声をあげ、再び色めき立つ。
「ま、待った!えっと、お菓子はその.......あ!このバケツにいっぱい入ってるから好きなの取っていいよ!!」
「それは他の奴らから貰ったものじゃねーのか?人から貰ったものを人にやっていいのか?」
うぐっ。正論すぎてぐうの音も出ない。
皆からお菓子を貰えるだけのお祭りだと思っていた私はもちろん人にあげる為のお菓子など用意しているはずもなく....
「お菓子、持ってないんだな?」と念を押すように聞いてくる焦凍くんに無言で頷くしかなかった。
「...じゃあ悪戯しなきゃな」
ヴァンパイア衣装のせいだろうか。怪しく笑う焦凍くんの瞳は完全に捕食者の目をしていた。
蛇に睨まれた蛙の気持ちってこんな感じかなぁと、身体中の筋肉が固まるのを感じながら他人事のように考える。完全なる現実逃避ってやつだ。
先ほどの流れ的にほっぺにちゅーがくるのかとキュッと目を瞑って身構えていたけどいつまで経ってもほっぺに何の感触も来ない。チラッと様子を伺うと焦凍くんは何故か私の背後へ回っていた。
一瞬「ん?これはスカートめくりのパターン??」とも考えたけれど焦凍くんが手をかけたのはスカートではなく頭に被っているベールの方だったのでますます意味がわからない。
焦凍くんはベールと髪の毛を横にズラすと「いただきます」と小さく呟いて、露わになった私の首筋にカプっと噛みついた。
「ひゃっ」
首元の擽ったさに身体がビクッと反応しそのまま身体の全機能が停止した。
噛みつかれた箇所をチュッと吸われて、最後にペロリとひと舐めされたところでようやく脳が働きだす。が、理解が追いつかない。待って、私はいったい何をされた?????
「吸血鬼ならこっちのが良いと思った。ご馳走さま。」
大混乱を極めている脳内は、してやったり顔の焦凍くんを見て徐々に状況を理解し始めたようで、頬に...いや、身体全体にすごい勢いで血が巡り一気に体温が上がっていくのを感じた。
今なら焦凍くんやエンデヴァーさんのように炎を出せるかもしれないと錯覚するほど熱を持った身体は、やがてその熱を少しでも逃がそうと頭からボフンと湯気を放った。
ギャラリーはすごい歓声に包まれていた。
いつの間にか一緒に居た三奈ちゃん達だけでなく、クラス中の注目を浴びていたらしく、あちこちから「まさかここまでやるとは...!」だの「さすがイケメンのやることは違ぇ...」だの「くそ羨ましい俺も治烏ちゃんに悪戯してぇ」だのなんかもう色々言われていた。
ただでさえ恥ずかしい状況なのにギャラリーからの煽りによって更に羞恥心が刺激されてしまい完全にキャパオーバーとなった私は羞恥心から込み上げてくる涙を瞳にためながら「お、お菓子取ってきますぅうううう」と言い残しその場から逃げ出したのであった。
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「...ってことがあったんだよ!皆グルになって私達の反応見て楽しんでたの。酷いよね、まったく!」
プンスカ怒りながら目の前の爆豪くんに今日あったことを愚痴る。
あの後ほとぼりが冷めるまでしばらく自室に引きこもるつもりでいた私の部屋に「泣くほど嫌がられるとは思わなかった...悪りぃ」と焦凍くんが謝りに来た。
まるでこの世の終わりと言わんばかりの声色で謝られてしまい無視することも出来ず、いまだ騒がしい心臓を深呼吸を繰り返すことで無理矢理鎮めて部屋から渋々顔を出した。
別に嫌だったわけではない。ただただビックリしただけだ。だってまさかあんな悪戯されると思わなかったもん。
でも泣きながら逃げて来てしまったことは流石に申し訳なかったので「ビックリしちゃっただけで嫌だったわけじゃないよ。こっちこそいきなり逃げてきちゃってごめんね」と伝えた。
心底安心したように表情を緩めてくれた焦凍くんに私も一安心していると「じゃあ共有スペースに戻るぞ。芦戸たちからお前を呼んでくるように言われてるんだ」と腕を引かれ強制的にパーティー会場となっている共有スペースへ連行された。
パーティー会場に戻った私達は三奈ちゃんから衝撃のカミングアウトをされた。
なんと、このハロウィンパーティーの裏では「ただのお菓子交換会じゃつまんなーい。ラブ的な刺激が欲しい〜!」と嘆いた三奈ちゃんとそれに悪ノリした透ちゃんによって世間知らずな私と焦凍くんを揶揄う為の計画が企てられていたのだ。
お互いに悪戯をさせる為に敢えて悪戯の部分のルールは最初に教えず、悪戯をしなきゃいけない状況になったらほっぺにちゅーをさせるように誘導し、恥ずかしがる様を写真に撮ってやろうという算段だったらしい。
しかもこの計画には撮影役として百ちゃんと足止め役にミッドナイト先生も一枚噛んでいたらしく、焦凍くんが先生に呼び出されて遅れたのも計画のうちだったという。
しかし焦凍くんの悪戯が想定していた以上に過激なものになってしまい、私が泣いて逃げたことで流石にやり過ぎたと反省したようで事の真相を話し謝ってきた次第だ。
百ちゃんなんかは特に反省の色が濃く、「お二人の仲睦まじい姿を写真におさめるという誘惑に勝てず、騙すようなことをしてしまい本当に申し訳ありませんでした...」と捨てられた子犬のような顔をしていたので許すしかなかった。
3人からキチンと謝罪をいただいて許したわけだけど...本当に恥ずかしい思いをしたのでこうして人に愚痴ることくらいは許してほしい。
「っていうかなんでテメェが俺の部屋に居るんだ...」
先ほどから私の長い愚痴を聞かされてイライラが募っていたらしい爆豪くんはその怒りを隠そうともせず地獄の鬼のように低い声色で呟いた。これだけ怒っているにも関わらず私の愚痴を遮らず最後まで話させてくれた爆豪くんはなんだかんだ優しい。
「あ、そうそう、爆豪くんが仮装を着替えないうちに一緒に写真撮ろうと思って!」
3人と和解した後もハロウィンパーティーは続いた。
しばらく経った後、切島くんや瀬呂くんに引きずられて爆豪くんが狼男姿で登場したのだけど、本人は仮装するつもりもハロウィンパーティーを楽しむつもりもなかったらしく、早々に「寝る!」と言って部屋に戻ってしまった。
せっかく(切島くんと瀬呂くんが無理やり着替えさせて)仮装してくれたんだし、写真だけでも一緒に撮りたくて追いかけてきたのだけど、途中で「テメェ...轟となんかあったんだってな?」と聞いてきた爆豪くんの一言がキッカケで私のマシンガン愚痴トークが始まってしまい今に至る。
「写真撮ったらすぐ帰るからちょっと待ってね、えっと携帯は...」とお菓子が入っているバケツの中に一緒に入れてしまった携帯を探していると爆豪くんはポツリと意外なことを呟いた。
「.....俺には言わねぇのかよ。...魔法の呪文。」
まさか爆豪くんがハロウィンに参加する意思があったとは驚いた。爆豪くんは一体どんなお菓子をくれるのだろうとワクワクしてしまう。
「爆豪くんお菓子くれるの?!ではでは、トリックオアトリート!!」
満面の笑みでお菓子を受け取りやすいように手のひらを差し出し、魔法の呪文を唱える。しかし
「菓子なんか持ってるわけねぇだろ!」
漫画だったら「ドーン」と効果音が付いてそうな感じに腕を組みながら踏ん反り返ってお菓子を持っていないと主張してきた爆豪くん。じゃあなんで「俺には言わねぇのかよ」なんて思わせぶりなこと言ってきたんだよもう!
「爆豪くんちゃんと私のお話聞いてた?!お菓子持ってないと悪戯されちゃうんだよ?」
「るせぇ!なら悪戯してこいや!!」
爆豪くんは腕を組んだままプイッとそっぽを向いてしまった。
マジでどうしちゃったんだ爆豪くん...悪戯されたかったの?なんで??峰田くんが言ってたマゾってタイプの人だったの???
いや、爆豪くんに限って悪戯されたがるわけがない.......そうだ、きっと私の話を聞いて少しだけでもハロウィンに興味を持ってくれたのだろう。でも「寝る!」と言って出てきてしまった手前、今更パーティー会場に戻って皆と一緒にハロウィンを楽しむことなんて出来ないから私とハロウィン気分を少しでも味わおうということかもしれない...!!
チラリと爆豪くんの様子を伺うと仄かに頬が染まっているような気がする。素直にハロウィンしたいって言えないのを必死で隠しているのかもしれない。ふふふ、爆豪くんも可愛いところがあるなぁ。
ならば私はその期待に全力で応えるまで...!
「じゃあ、悪戯するからね...?」
「...おう。」
キチンと了承を得たのでゆっくりと近づくと爆豪くんはキュッと瞳を閉じた。
目を瞑っている爆豪くんってなかなかレアだなと思いつつ更に距離を詰める。
そしてそっぽを向いていた爆豪くんの顔の正面まで来るとゆっくりと手を伸ばして....
額にデコピンをお見舞いした。
「....は?」
爆豪くんは目を見開き、一瞬ポカンと無防備な表情になった。そして見る見るうちに般若のような表情へと変わる。
「おい...どういう了見だコラ........。」
至近距離に居た私の頭をガシッと片手で掴む爆豪くん。
痛たたたた私の頭はバスケットボールじゃないよ?!
「どういうって爆豪くんが悪戯してこいって言ったから悪戯したんだよ?!」
痛みに耐えながら必死に自分の無罪を主張する。
ちなみにこの悪戯は、焦凍くんとのアレコレのあと、上鳴くんに「トリックオアトリート!」と言ったところ「オレお菓子持ってないんだよねぇ〜。だから治烏ちゃん悪戯していいよ」と言われ、オロオロしていたところ響香ちゃんから「悪戯なんておでこにデコピン一発くらわせてやるだけでいいんだよ」とアドバイスをもらったのでそれ以来、お菓子を持っていないと言う人にはこの方法を実践していた。
ほっぺにちゅーより恥ずかしくないし、簡単なので気に入っていたのだけど爆豪くんにはお気に召さなかったらしい。悪戯にお気に召す、召さないも無いかもしれないけども。
「テメェがそのつもりならこっちにだって考えがある....。トリックオア....」
マジで怒り爆発5秒前と言うような超低音ボイスのままハロウィンは続行するつもりらしい爆豪くん。
このまま爆豪くんに悪戯されることになってしまったら恐ろしいことになりそうだと身の危険を感じ取った私は焦凍くんとのアレコレの反省を活かし、キチンと用意したお菓子を素早く取り出す。
この
「ちゃんと私はお菓子持ってるからね!これ食べてちょっと落ち着こう....?」
「るせぇ!!菓子なんかいるかぁ!!!トリックオアトリック!!!!100倍返しの刑だぁあああああ!!!!!」
「そんなのありーーーー?!?!?!」
見事怒りが爆発した爆豪くんによってデコピン100連発の刑に処され、焦凍くんとは別の意味で泣かされた。
その日ハイツアライアンスには私の断末魔の叫びが響き渡ったのであった...。