薄桜鬼
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珍しく屯所の中で行われた幹部たちだけの酒盛り。
さらにめずらしい事に、その場には山南さんもいた。
「おめでたい席なのに、あんたがいなくてどうするんだ!」
そう叫んだのは誰だったか。もう思い出せないのだけれど、その一言が、山南さんをお酒の席に引っ張り出したのだ。
そして私はこっそりと自然を装って、彼の隣の席に腰を下ろしていた。
ゆるやかにあけられる猪口にお酒をつぐたびに、山南さんがふわりと優しく笑ってお礼を言ってくれるから、私はそれだけで、夢心地で嬉しくなっていた。
宴もたけなわをこえたころから、三々五々、皆さん少しずつ席を立って部屋に戻っていった。あるいは、夜風にあたりに庭にふらりと出て行ってしまったり。
最後まで山南さんを引き止め続けていたのはいつもの元気な三人だったけれど、ついに永倉さんは飲み過ぎでひっくりかえり、平助くんと原田さんが重い重いと叫びながら部屋まで引きずって行っていた。
ふと気がつくと、あれだけうるさかった宴会の席だったはずなのに、私と山南さん、二人きりになっていた。
ちらりと山南さんの方を見る。
わたしの視線に気付いてくれたのか、こちらを向いてくれた山南さんはじっと私の顔を見つめていた。メガネの奥、酔いからか黒目がちに細められた目が、とても綺麗だ。
「……触れても?」
彼にそう優しく聞かれて不思議にも思わず、頷きながら酒気で赤みが濃くなったてのひらを山南さんに差し出したら、まっすぐ彼に向けられた手のひらは無視されて、彼の手は私の頰に伸びてきた。
指の背でそっと触れられて思わず体がびくんと跳ねる。
けれど、私はそれが、嫌じゃなかった。
「見た目より、熱くないんですね。……こんなに赤いのに」
静かに、でもいたずらっぽくささやきながら、目元がうっすらと赤みをおびたお顔で微笑まれると、それだけで心臓の音がばくばくうるさくなって、止まらなくなってしまう。胸が苦しくなって、彼を見つめたまま声も出せず、一歩も動けない。
「……あなた、あまりお酒に強くないのに、無理して飲んだんじゃないでしょうね?」
さっきまであんなに優しく、そしてどこか妖しく響く声をくれたのに、今はどこか咎めるような色がのった声になっていて、ハッとなる。
これは……。
「だいたい君はお酒を断るということが全然できていないのではないですか? 永倉君あたりは止めなければ無限に飲ませ続けるような人なんですよ」
「え、えと……」
どう答えれば良いか、迷っている間にも山南さんは神妙な顔つきで呟き続ける。
「お酒をきちんと飲みたい分だけ飲む、それも大人のたしなみですよ、量が多ければ多いほどいいなんてことないんですからね!」
「は、はい……」
決して飲み過ぎた訳ではないとおもう、強くないのは知っているから、本当に少しずつにしていたし、
そんな事を思っても、口に出来る様な雰囲気ではなくて、肯定して頷く事しか出来ない。
「しかも、ずっと私に手酌なんかして。ありがたいですけれど、別に楽しいものじゃなかったでしょう? はやく言えばよかったでしょうに」
「それは違います!」
そればかりは頷いていられなくて、咄嗟に山南さんの言葉を遮るように大声が出た。
酔いのせいか叫んだ声の音量がうまく調節できなくて、自分でも驚くくらいうるさくなってしまって、思わずぱっと口を押さえてから、言った。
「……わたしが山南さんのお隣にいたかったのです」
「……そういう事にしておきましょうか」
山南さんは言いながら自分でお酒をついでしまう。ちょっと寂しい、そう思った瞬間に、どうやって復活したのかひっくり返ったはずの永倉さんが部屋に飛び込む様に戻ってきた。
「永倉君、良い所に。ちょっとこちらへ」
山南さんが狙うのが永倉さんになったタイミングで、彼を追って戻ってきていた平助くんが、今だ逃げろ、こっちだ、小さく呟いて手招きしてくる。
半分苦笑しながら、私は立ち上がる。お小言を貰って、正座になってしまっている永倉さんを、少しだけうらやましいと思いながら。
さらにめずらしい事に、その場には山南さんもいた。
「おめでたい席なのに、あんたがいなくてどうするんだ!」
そう叫んだのは誰だったか。もう思い出せないのだけれど、その一言が、山南さんをお酒の席に引っ張り出したのだ。
そして私はこっそりと自然を装って、彼の隣の席に腰を下ろしていた。
ゆるやかにあけられる猪口にお酒をつぐたびに、山南さんがふわりと優しく笑ってお礼を言ってくれるから、私はそれだけで、夢心地で嬉しくなっていた。
宴もたけなわをこえたころから、三々五々、皆さん少しずつ席を立って部屋に戻っていった。あるいは、夜風にあたりに庭にふらりと出て行ってしまったり。
最後まで山南さんを引き止め続けていたのはいつもの元気な三人だったけれど、ついに永倉さんは飲み過ぎでひっくりかえり、平助くんと原田さんが重い重いと叫びながら部屋まで引きずって行っていた。
ふと気がつくと、あれだけうるさかった宴会の席だったはずなのに、私と山南さん、二人きりになっていた。
ちらりと山南さんの方を見る。
わたしの視線に気付いてくれたのか、こちらを向いてくれた山南さんはじっと私の顔を見つめていた。メガネの奥、酔いからか黒目がちに細められた目が、とても綺麗だ。
「……触れても?」
彼にそう優しく聞かれて不思議にも思わず、頷きながら酒気で赤みが濃くなったてのひらを山南さんに差し出したら、まっすぐ彼に向けられた手のひらは無視されて、彼の手は私の頰に伸びてきた。
指の背でそっと触れられて思わず体がびくんと跳ねる。
けれど、私はそれが、嫌じゃなかった。
「見た目より、熱くないんですね。……こんなに赤いのに」
静かに、でもいたずらっぽくささやきながら、目元がうっすらと赤みをおびたお顔で微笑まれると、それだけで心臓の音がばくばくうるさくなって、止まらなくなってしまう。胸が苦しくなって、彼を見つめたまま声も出せず、一歩も動けない。
「……あなた、あまりお酒に強くないのに、無理して飲んだんじゃないでしょうね?」
さっきまであんなに優しく、そしてどこか妖しく響く声をくれたのに、今はどこか咎めるような色がのった声になっていて、ハッとなる。
これは……。
「だいたい君はお酒を断るということが全然できていないのではないですか? 永倉君あたりは止めなければ無限に飲ませ続けるような人なんですよ」
「え、えと……」
どう答えれば良いか、迷っている間にも山南さんは神妙な顔つきで呟き続ける。
「お酒をきちんと飲みたい分だけ飲む、それも大人のたしなみですよ、量が多ければ多いほどいいなんてことないんですからね!」
「は、はい……」
決して飲み過ぎた訳ではないとおもう、強くないのは知っているから、本当に少しずつにしていたし、
そんな事を思っても、口に出来る様な雰囲気ではなくて、肯定して頷く事しか出来ない。
「しかも、ずっと私に手酌なんかして。ありがたいですけれど、別に楽しいものじゃなかったでしょう? はやく言えばよかったでしょうに」
「それは違います!」
そればかりは頷いていられなくて、咄嗟に山南さんの言葉を遮るように大声が出た。
酔いのせいか叫んだ声の音量がうまく調節できなくて、自分でも驚くくらいうるさくなってしまって、思わずぱっと口を押さえてから、言った。
「……わたしが山南さんのお隣にいたかったのです」
「……そういう事にしておきましょうか」
山南さんは言いながら自分でお酒をついでしまう。ちょっと寂しい、そう思った瞬間に、どうやって復活したのかひっくり返ったはずの永倉さんが部屋に飛び込む様に戻ってきた。
「永倉君、良い所に。ちょっとこちらへ」
山南さんが狙うのが永倉さんになったタイミングで、彼を追って戻ってきていた平助くんが、今だ逃げろ、こっちだ、小さく呟いて手招きしてくる。
半分苦笑しながら、私は立ち上がる。お小言を貰って、正座になってしまっている永倉さんを、少しだけうらやましいと思いながら。