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となりの部屋


いつもの通学路を全速力で駆け抜ける。
頭の中は真っ白で、ついさっき自分の身に起きたことを忘れさろうと必死だった。
どうして、こんなことに。
幼なじみのような、家族のような、友人に。今日。告白されました。


おひさま園の門をくぐれば、小さな弟や妹たちの「ヒロトお兄ちゃんおかえりなさい!」って声が聞こえるけれど、今日だけは構ってあげる暇がなかった。
バタバタと園の2階ににある自室へと逃げ込む。
誰も追いかけてきているわけではないけれど、慌ただしく鍵を閉めた。
がチャリという音、今この部屋には自分以外誰も居ないんだという事実。
それに妙な安心感を覚えたからか、ドアを背にしその場にズルズルとへたりこんでしまった。
走ったからなのか、はたまた別の理由なのか分からないが、酷く顔が熱い。
先程のことを思い出し、羞恥でさらに熱が上がったような気がして手で顔を覆った。
「…晴矢の、ばか。」


「もしもし、ヒロトくん?」
「ふ、吹雪くん、ごめんね夜中に…。」
「ううん、平気だよ。それにしても君がこんな時間に電話なんて、何かあったのかい?」
「実は、その、困ったことになっちゃって…。あはは…。」

寝巻きの上に上着を羽織ってベランダにでる。
硝子のドアをあけると、からりと網戸が揺れる音と、耳に押し当てた端末から聞こえる友人の声だけが、優しく鼓膜を震わせた。
つい最近まで聞こえていた虫の声はどこにもなく、見上げた夜空には変わらず星々が輝いているだけで。
ただ、ほんの少し冷たい風が頬を撫でた。

結局、基山がドタバタと施設に帰ってからは何もなかった。
隣の部屋から幼なじみの彼が帰ってきたとを知らせるように物音がしていた。
それだけ。それだけだ。
基山自身の部屋に誰かが押しかける様なこともなかったし(瞳子からご飯の心配はされた)、就寝時間になれば、隣、南雲晴矢の部屋からしていた生活音も次第になくなっていったのだ。

学校か終わって、部活が終わって、同じ部活動をしているおひさま園のメンバーを校門の前で待つのが、基山の日課だった。
少しずつ肌寒くなってきたな、なんて考えながら、クールダウンを済ませ、練習着から制服に着替えて部室を出る。
夜の8時、空には既に星が瞬く時間。
基山は瞳子にもうすぐ学校を出ることをメールで伝えた後、ぼーっと星空を眺めていた。

「おい。」
「あっ、晴矢、お疲れ。」
「お疲れ、相変わらずアンタは支度が早いんだな。」
「そうかな?ほら、部室って何ともいえない臭いするだろ?あれ、あんまり得意じゃないんだ。」
「あっそ。」

話しかけてきた割には雑に扱われてしまった。
基山が待つ校門の前に一番のりをした南雲は、気だるそうに欠伸をひとつ吐く。
そのまま、基山の横にスクールバッグと、部活動用のエナメルバッグを降ろして座り込んだ。
その時はなんとなく、珍しいなぁと思っていた。
南雲は大体いつも涼野と共に部室から出てくるものだし、基山の待つ校門に一番最初に来ることなんて今まで無かったのだ。
ずっと一緒に暮らしてきたから、彼が多少ズボラなところがあることを知っている。
明日はもしかしたら、星でも降るんじゃないかなぁなんて考えは、彼、南雲の言葉によって、頭から吹っ飛ぶこととなったが。

「俺さ、アンタのこと、好きなんだけど、恋愛的な意味で。」



「それで?逃げちゃったの?」
「うん…聞き間違いとか、気の迷いじゃないかって思って、晴矢の顔みたら、冗談じゃないってことはしっかりわかっちゃって…パニックで…。」
「そっか。」
「明日からどうしよう…。」
「ちょっと気まずいよね、それ。南雲もおひさま園にいるし。」
「部屋隣なんだ。」
「わぁ…。」

逃げ出した自分自身が悪いのはわかっているのだけれど、逃げ出すしかなかったんだ、なんて言い訳をする。
電話越しの友達は、なんとなく楽しそうに、うんうんと相槌を打ってくれた。
正直、同級生たちに比べて自分がいろんなものに疎いことを基山は自覚している。
ぼんやりと思い出す、敗れ去った父さんの悲願。
宇宙人、グラン、エイリア石、復讐、ハイソルジャー。
幼少期からその事ばかりで、まともに感情を育てたことなんてないのだと今になって突きつけられた様で、下手くそな笑顔しか浮かべられなかった。
電話の相手には勿論そんなものは伝わらないのだけれど。

上着を羽織っているからといって長時間外に出ていると段々身体が冷えてくる。
ふるりと身体を震わせた辺りで、なんとなく話も終わった。
吹雪にお礼を言うと、また聞かせてよなんて言葉が返ってくるものだから、明るめに勿論と返事をした。



星空はすっかり太陽と代わり、朝日が部屋に入ってくる。
基山は昨日、なんとなく星を眺めながら寝たために遮光カーテンを開けっ放しにしていた自分に腹が立った。
眩しさに意識が浮上するが、いかんせん朝が弱いために、もぞもぞとベッドの中に引きこもる。
自らの体温で温まったそこは、基山を2度寝に引きずり込むのは簡単だった。

とんとん、という階段を登る足音。
そのまま足音は基山の部屋の前で止まる。
と、思えば、けたたましく部屋のドアが叩かれた。
「っおい!おい起きろ!!ヒロト!!アンタ今何時だと思ってんだ!!いい加減にしろよ…!」
「……っ!?!は、…はる、や?」
「ぁあ!?俺以外に誰がいるんだよ!!ってか起きてんなら降りてこいっつーの!!」
「ご、ごめん…今起きたから、、。」

そーかよ。
その言葉を最後に、基山の部屋のドア前から彼はいなくなった。
ひゅっと喉から空気の盛れる音がする。
南雲晴矢の態度はまるでいつもと変わらなかった。
朝に弱い基山を起こしに来て、部屋のドアを物凄い勢いで叩き、大声で怒鳴って帰っていく。
全く代わり映えのない朝に基山自信が拍子抜けした程に。
昨日のあれは夢なのか?と思ったが、携帯に残った友達への着信履歴がそんな都合のいい思い込みを嘲笑った。

「…えっ、もう8時…!?はっ、ちょっ、遅刻…!晴矢待って!!!」
「ばーか。」


それからバタバタ支度をして、お日さま園を飛び出す。
弁当や部活の道具は何故か南雲が用意してくれており、お日さま園の門の横で待ってくれていた。
早くしろ!!と怒鳴る幼なじみに駆け寄ると、ほら行くぞと言う声と共に2人で駆け出した。

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