アスキラ集
膝まづく己に差し出された、乳白色の片脚。つるりと輝かしい艶めきを放つそれは女にしては硬く、男にしては柔くひ弱で頼りない。アスランは無言のまま眼前に現れた中性的な脚の脹脛に指先を這わせ、その肉付きの悪さに眉を顰めた。
まるで骨と皮、鶏ガラと形容するに相応しいほど不健康だ。
こんなものを支えに地に足をつけて立ち続けていたとは考えたくもなかったが、アスランはこの細脚の持ち主がいかに崩れ落ちぬよう耐え続けてきたか────全てでは無いが─────知っていた。
キラ・ヤマト、己の大事な幼馴染である。
甘ったれで、物臭で、天然な、自分と同じ年齢の少年。アスランは外気に冷やされじゃっかん温度を失っている目の前のそれから、此方を見下ろす二対の菫の瞳へと視線を移した。
「つかれちゃった」
戦場を駆けても尚、幼い風貌の幼馴染がぽつりとこぼす。やや投げやりに言われても、アスランはキラの小さな口を見ると怒れなかった。
下唇はぷっくり膨らんで、いやに赤みを帯びているから、きっとアスランが来るまで噛んでいたのだろう。
爪ですこし押し込んだだけで、そこから血が滲んできそうなほど危ういものだったから。
とはいえ、ここまで気を張りつめて頑張り、頑なに隠していた気持ちを自分に曝け出してくれたのだ。アスランはぷらぷらと揺れるキラの足裏を手でそっと支え、少し青白いその爪先に体温を分け与えるように優しく、唇で触れる。
「アスラン? 」
「疲れたなら睡眠とるなりして休めよ、キラ」
「足、冷たくて寝れないから呼んだのに……。そんなキスだけじゃ、暖まれないじゃない」
むぅ、と唇を尖らせたキラの声色は甘い。
ただの幼馴染に向けるには不相応なほど水気を含んだそれに、アスランは嘗て課題を手伝わされた時と同じように、しょうがないなと苦笑した。
仮眠室のベッドに腰かけ項垂れるキラの顔を見るため、冷たい床に膝まづいたのは自分だけれど。 そんな自分に奉仕をお強請りするとは、今のキラは随分と甘えたな気分のようだった。
「いいけど、キラはどこまでして欲しいんだ? 流石に、今はいつ出撃要請が来てもおかしくないから最後まではできないが……」
「うぅん……じゃあ────」
ゆっくりと弧を描くキラの、柔らかな唇が言葉を紡ぐ。最後までしないと言いながら、それが逆に苦しくなるような刺激的なキラのお願いにアスランは「分かった」と頷いてやる。
すると現金なことに、今までの暗い表情が嘘のようにご機嫌に微笑むものだから堪らなかった。
「やさしいアスラン……大好き」
調子のいいことを。そう呆れながらも、どこか嬉しがっている自分が確かにいる。どうやってもこの幼馴染には好きにされるのだ。
自らの運命を悟るアスランに、一方のキラは期待に頬を朱に染め、腕を広げて「ねぇはやく」なんてうっとりと呟いた。
その中に顔を寄せれば、きっと自分の好きな匂いがたっぷりと味わえるだろう。アスランの好きな、手のかかる幼馴染の匂いが。
「覚えてる? 初めは……」
「キス。それも触れるだけの、だろ」
「さすがアスラン。覚えてなかったらどうしようかと思ったよ」
「一生忘れないさ」
むしろ、忘れられないだろう。こんな決まり事は。慎ましく瞼を閉じたキラに、アスランは約束通り、重ね合わせるだけの口付けをした。
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