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慶應四年一月、薩長対旧幕府軍の戦いが幕を開けた。
「ねえ怜央ちゃん、僕まだ戦えるからね」
「…まだそんなこと言ってるんですか?病人だから、大好きな近藤さんと一緒にいれるんでしょ?」
沖田は深くため息をつくとやれやれ、と言うように首を振った。
「本当に、なんでそんなに思いやりがないのかな?」
切なげな顔で見つめる沖田を真剣に見つめ返す。顔は青白く前に比べて幾らか痩せたその頬がそう長くはないことを告げているようだ。
「…死なないでくださいね」
「生意気に同情してくれてるの?殺すよ」
ああ言えばこう言う水掛け論のような頭の調子に思わず頬が緩む。
その日の朝、じゃあねと大阪へ向かう沖田の背中をただ眺めているしかなかった。
薩長の大砲はよく伸び、よく当たる。京の街はもう安全なものではない。
「悪かったな怜央、駆り出したうえにこんな戦果でよ」
「気にしないでください。千鶴が医療班で安全なら構いはしませんよ」
近藤に変わり、新選組の総大将となった土方は隊を分け、自身は敵の本陣である御香宮神社への襲撃を試みた。人数では遅れをとってはいないはずだが、敵の圧倒的な武器を目の前に断念せざるを得なかった。新選組からも死傷者を多数出し、土方の言うように、戦果としては振るわしいものではない。
千鶴のいる奉行所へ戻るなり、怪我人の手当てに加勢する怜央を労る余裕などなかった。怜央が一息ついたのは随分と時間が経ってのことである。
陽の落ちかけた頃に新選組全体は将軍のいる大阪城への移動を決断した。
「怜央、お前寝てねえだろ。移動まで時間がある。寝とけ」
「…」
救護をひと段落させた怜央は土方の傍に座るや否や、はぁ…と深くため息をついた。
「この際、千鶴が生きてるならなんでもいい。でも、土方さんが苦しいのも嫌だ」
は、と何かを言いかける土方に被せるようにまた言葉を紡いだ。
「飲んだんですよね、変若水。月に目を細める仕草、鼓動の速さ、全部違う。発作はどうするつもりなんですか…」
怜央自身、何に腹を立てているか分からなかった。自分の知らないところで死にかけたのか、何かを決意したのか、劇薬である変若水を飲んだ土方が無性に許せなかった。怒りで湧いて出てくる涙を拭って土方があぐらをかいている膝へ頭を置く。
ずびずびと言いながら目を瞑ると「悪い…」と呟く声が頭上で聞こえる。頭に触れた手はついさっきまで刀を握り人を殺していた手とは思えないほどに優しく温かい。
「怜央…」
いつのまにか眠ってしまった怜央の名を呼ぶ。頬を触れば年頃の女性を感じる柔らかさであるが、戦に駆り出し、先ほどまで不休で救護を行っていたせいか、少しカサついていた。
背中を深く折り曲げてしっかりと顔を見るなり目尻と目頭に溜まった涙に深く深呼吸をした。
「はぁぁ…。何やろうとしてんだ、俺」
生存本能か、ただの欲望か、不覚にも抱いた邪な想いを堪えて今しようとした自分の行動に呆れて頭を抱えた。
幼さの残るあどけない怜央、今日の姿が脳裏にも焼き付いている。彼女のおかげで打てなくなった鉄砲がたくさんあった。彼女のおかげで救われた命がたくさんあった。彼女のおかげで先頭で死ぬものは誰もいなかった。
新選組としても、土方としても、怜央の存在というものはすでに、なくてはならない存在にある。
「どうやってお前のこと手放せばいい…」
答えの出ない問いが口から溢れては消えた。
「ねえ怜央ちゃん、僕まだ戦えるからね」
「…まだそんなこと言ってるんですか?病人だから、大好きな近藤さんと一緒にいれるんでしょ?」
沖田は深くため息をつくとやれやれ、と言うように首を振った。
「本当に、なんでそんなに思いやりがないのかな?」
切なげな顔で見つめる沖田を真剣に見つめ返す。顔は青白く前に比べて幾らか痩せたその頬がそう長くはないことを告げているようだ。
「…死なないでくださいね」
「生意気に同情してくれてるの?殺すよ」
ああ言えばこう言う水掛け論のような頭の調子に思わず頬が緩む。
その日の朝、じゃあねと大阪へ向かう沖田の背中をただ眺めているしかなかった。
薩長の大砲はよく伸び、よく当たる。京の街はもう安全なものではない。
「悪かったな怜央、駆り出したうえにこんな戦果でよ」
「気にしないでください。千鶴が医療班で安全なら構いはしませんよ」
近藤に変わり、新選組の総大将となった土方は隊を分け、自身は敵の本陣である御香宮神社への襲撃を試みた。人数では遅れをとってはいないはずだが、敵の圧倒的な武器を目の前に断念せざるを得なかった。新選組からも死傷者を多数出し、土方の言うように、戦果としては振るわしいものではない。
千鶴のいる奉行所へ戻るなり、怪我人の手当てに加勢する怜央を労る余裕などなかった。怜央が一息ついたのは随分と時間が経ってのことである。
陽の落ちかけた頃に新選組全体は将軍のいる大阪城への移動を決断した。
「怜央、お前寝てねえだろ。移動まで時間がある。寝とけ」
「…」
救護をひと段落させた怜央は土方の傍に座るや否や、はぁ…と深くため息をついた。
「この際、千鶴が生きてるならなんでもいい。でも、土方さんが苦しいのも嫌だ」
は、と何かを言いかける土方に被せるようにまた言葉を紡いだ。
「飲んだんですよね、変若水。月に目を細める仕草、鼓動の速さ、全部違う。発作はどうするつもりなんですか…」
怜央自身、何に腹を立てているか分からなかった。自分の知らないところで死にかけたのか、何かを決意したのか、劇薬である変若水を飲んだ土方が無性に許せなかった。怒りで湧いて出てくる涙を拭って土方があぐらをかいている膝へ頭を置く。
ずびずびと言いながら目を瞑ると「悪い…」と呟く声が頭上で聞こえる。頭に触れた手はついさっきまで刀を握り人を殺していた手とは思えないほどに優しく温かい。
「怜央…」
いつのまにか眠ってしまった怜央の名を呼ぶ。頬を触れば年頃の女性を感じる柔らかさであるが、戦に駆り出し、先ほどまで不休で救護を行っていたせいか、少しカサついていた。
背中を深く折り曲げてしっかりと顔を見るなり目尻と目頭に溜まった涙に深く深呼吸をした。
「はぁぁ…。何やろうとしてんだ、俺」
生存本能か、ただの欲望か、不覚にも抱いた邪な想いを堪えて今しようとした自分の行動に呆れて頭を抱えた。
幼さの残るあどけない怜央、今日の姿が脳裏にも焼き付いている。彼女のおかげで打てなくなった鉄砲がたくさんあった。彼女のおかげで救われた命がたくさんあった。彼女のおかげで先頭で死ぬものは誰もいなかった。
新選組としても、土方としても、怜央の存在というものはすでに、なくてはならない存在にある。
「どうやってお前のこと手放せばいい…」
答えの出ない問いが口から溢れては消えた。