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新選組が不動堂村屯所を設けたのち、幕府は大政奉還を行い265年という長い江戸幕府の歴史に幕を下ろした。
「なあ怜央、お前酒は好きか?」
土方が湯浴みに出掛けている最中、こっそりと襖から顔を出したのは原田である。手に握られているのは一升ほどはあろう大きさの徳利。永倉はどうしたのかと聞けば仕事に追われているのなんの、とで今は酒に見向きもしない、むしろ見向きも出来ないそうだ。酒を諦めなければならないと泣いて悲しむ姿が容易に想像出来る。
「千鶴は誘えねえし、どうせなら可愛い女の子に酌でもしてもらおうかと思ってよ」
ニヤリといたずらに笑ってみせると怜央は案外素直にいいですよ、と答えた。縁側に座るとお世辞にも快晴とは言い難い空が広がっていた。
季節は既に秋を通り越して冬になろうとしている。寝巻きと羽織りだけでは凍えるほどに冷たい。ここに座って一息置いたは言いものの、部屋に戻るか?と原田に聞かれた怜央は「うん」と即答した。
「…あんまり夜に男と二人きりで酒飲むもんじゃねえぞ?」
「誘った人が言わないでください」
怜央は手に持ったお猪口に酒を注ぐとそれをはい、と原田に渡す。あまりにも趣がないと人は笑ってしまうものらしく原田は片手で持ったお猪口から振動で酒が溢れそうになっていた。
「ちょっと、汚して怒られるの私なんだから零す前に飲んでください」
原田は悪い、と一言。怜央にもお猪口を持たせそこに酒を注ぎ込む。
「まずは乾杯からだろ?」
陶器が触れ合う軽い音が鳴るとふたりはその酒を一気に流し込んだ。どこで手に入れたのか、恐らくいい酒だろう。永倉はこれが飲めないとは、残念で仕方がない。
「怜央って、可愛い顔してんのに結構酒豪だよな。酔ってるところ見たことねえし」
怜央と酒を飲む機会と言うのは数えられる程にはあった。特に暴れたりすることは無いが気付いたら徳利が数個周りに転がっているなどという光景は当たり前だ。その上潰れた男共を介抱している。
「…意地で理性を保ってるだけですよ。江戸にいた頃は千鶴に抱き着いて寝てましたから」
綱道との繋がりで男性と酒を酌み交わすことも少なくなかった怜央。一発狙う不届き者ももちろんおり、浴びるほどに飲まされたこともあった。しかし僅かに残った理性で正気を保ち、その度に帰途へ着くのである。
「千鶴の顔みたら安心して甘えちゃうんですよ」
幸せそうな顔をしながら江戸でのことを振り返る怜央。
「…やっぱり江戸に戻って千鶴と綱道さんとまた三人で暮らすのが怜央の幸せか?」
その質問に怜央は一瞬考え込むとお酒を飲みながらはい、と答えた。
「でも…こうやって新選組で誰かと話してお酒飲んで夜が来たら寝るっていうのも、それと変わらないくらい幸せです」
頬が赤くなっているのはお酒のせいか照れくさいのかは分からない。原田はそんな怜央を見ていると嬉しくなったのか、飲め!と肩を組み徳利をそのまま怜央の口に流し込む。
「初めは警戒心剥き出しで誰に対しても喧嘩腰だったのにな。土方さんが気に入る理由が分かるぜ。真面目で強いのに何処か子どもっぽくて素直で、放っておけねえ」
原田のその琥珀のような瞳が怜央の目を捕らえる。怜央は口から溢れた酒を手で拭き取り組んでいた肩を解いた。
「今日はいいお酒だから酔いが回るの、早いですよ」
だから、と言わんばかりに原田のお猪口へ酒を注ぐとそれを飲めとばかりに催促する。いつもの怜央の酔い方からは考えられない潤んだ瞳で見上げられるものだからまるで自身が初心だと言うことを隠す様に注がれた酒を流し込む。女の扱いには慣れてるはずなのに、とため息が出た。
浴びるように短時間でその酒を殆ど飲み尽くしてしまうと土方も同じく暮らす部屋だと言うのにふたりは酔っ払っていた。
辛うじて意識を保っている原田は延々と自身の武器を自慢げに話す怜央を微笑ましく見ていた。
「この刀は私が物心ついた時からずっとそばにあったもので、どれだけ投げたり刺したり乱暴にしても折れないんです。風間に壊れると言われた時は舐めんなよって思いました」
小さな子どもが自分の宝物を紹介しているようでどこか微笑ましい。お酒臭いのは難点だが。
「この苦無、重そうに見えるでしょ。持ってみて軽いから」
ああ本当だ、と原田は思わず感心して首をふる。飛び道具としてなら槍にも負けない、と怜央の口角が上がった。
「この苦無が新選組一番の原田の槍にも負けないって?」
「そうです」
うんと頷いた怜央とその苦無の先にいるのは誰だろうか。原田は声と雰囲気と誰の部屋なのかを考慮した上で恐る恐る顔を上げた。
「よう原田。男もいる部屋に夜這いか?」
下ろした黒髪と寝巻き姿が男の原田さえも艶っぽいと感じる。そこに鬼の形相がなければ。
しかし鬼の顔の主、土方は案外それ以上声を荒らげることも無くもう寝ろ、と原田と怜央を催促する。
「悪ぃな土方さん。珍しく怜央が酔いそうな雰囲気だったから調子乗っちまって…」
こめかみをポリポリと掻きながら苦笑いでそう言う原田に別に怒ってないと土方。
「…酌み交わす相手なんて、そうどこにでもいる訳じゃねえしな。怜央もお前も楽しかったなら構わねえさ。怜央は俺が何とかするから、今日はもう寝ろ」
いつもより優しい顔でそう話す土方。
「おう、おやすみなさい。怜央も」
怜央の頭を撫でながら立ち上がると原田は部屋をあとにした。ねえ土方さん、と武器を片付けた怜央が上目遣いでそう話しかけてくる。
「…さて、どうしたもんか」
「なあ怜央、お前酒は好きか?」
土方が湯浴みに出掛けている最中、こっそりと襖から顔を出したのは原田である。手に握られているのは一升ほどはあろう大きさの徳利。永倉はどうしたのかと聞けば仕事に追われているのなんの、とで今は酒に見向きもしない、むしろ見向きも出来ないそうだ。酒を諦めなければならないと泣いて悲しむ姿が容易に想像出来る。
「千鶴は誘えねえし、どうせなら可愛い女の子に酌でもしてもらおうかと思ってよ」
ニヤリといたずらに笑ってみせると怜央は案外素直にいいですよ、と答えた。縁側に座るとお世辞にも快晴とは言い難い空が広がっていた。
季節は既に秋を通り越して冬になろうとしている。寝巻きと羽織りだけでは凍えるほどに冷たい。ここに座って一息置いたは言いものの、部屋に戻るか?と原田に聞かれた怜央は「うん」と即答した。
「…あんまり夜に男と二人きりで酒飲むもんじゃねえぞ?」
「誘った人が言わないでください」
怜央は手に持ったお猪口に酒を注ぐとそれをはい、と原田に渡す。あまりにも趣がないと人は笑ってしまうものらしく原田は片手で持ったお猪口から振動で酒が溢れそうになっていた。
「ちょっと、汚して怒られるの私なんだから零す前に飲んでください」
原田は悪い、と一言。怜央にもお猪口を持たせそこに酒を注ぎ込む。
「まずは乾杯からだろ?」
陶器が触れ合う軽い音が鳴るとふたりはその酒を一気に流し込んだ。どこで手に入れたのか、恐らくいい酒だろう。永倉はこれが飲めないとは、残念で仕方がない。
「怜央って、可愛い顔してんのに結構酒豪だよな。酔ってるところ見たことねえし」
怜央と酒を飲む機会と言うのは数えられる程にはあった。特に暴れたりすることは無いが気付いたら徳利が数個周りに転がっているなどという光景は当たり前だ。その上潰れた男共を介抱している。
「…意地で理性を保ってるだけですよ。江戸にいた頃は千鶴に抱き着いて寝てましたから」
綱道との繋がりで男性と酒を酌み交わすことも少なくなかった怜央。一発狙う不届き者ももちろんおり、浴びるほどに飲まされたこともあった。しかし僅かに残った理性で正気を保ち、その度に帰途へ着くのである。
「千鶴の顔みたら安心して甘えちゃうんですよ」
幸せそうな顔をしながら江戸でのことを振り返る怜央。
「…やっぱり江戸に戻って千鶴と綱道さんとまた三人で暮らすのが怜央の幸せか?」
その質問に怜央は一瞬考え込むとお酒を飲みながらはい、と答えた。
「でも…こうやって新選組で誰かと話してお酒飲んで夜が来たら寝るっていうのも、それと変わらないくらい幸せです」
頬が赤くなっているのはお酒のせいか照れくさいのかは分からない。原田はそんな怜央を見ていると嬉しくなったのか、飲め!と肩を組み徳利をそのまま怜央の口に流し込む。
「初めは警戒心剥き出しで誰に対しても喧嘩腰だったのにな。土方さんが気に入る理由が分かるぜ。真面目で強いのに何処か子どもっぽくて素直で、放っておけねえ」
原田のその琥珀のような瞳が怜央の目を捕らえる。怜央は口から溢れた酒を手で拭き取り組んでいた肩を解いた。
「今日はいいお酒だから酔いが回るの、早いですよ」
だから、と言わんばかりに原田のお猪口へ酒を注ぐとそれを飲めとばかりに催促する。いつもの怜央の酔い方からは考えられない潤んだ瞳で見上げられるものだからまるで自身が初心だと言うことを隠す様に注がれた酒を流し込む。女の扱いには慣れてるはずなのに、とため息が出た。
浴びるように短時間でその酒を殆ど飲み尽くしてしまうと土方も同じく暮らす部屋だと言うのにふたりは酔っ払っていた。
辛うじて意識を保っている原田は延々と自身の武器を自慢げに話す怜央を微笑ましく見ていた。
「この刀は私が物心ついた時からずっとそばにあったもので、どれだけ投げたり刺したり乱暴にしても折れないんです。風間に壊れると言われた時は舐めんなよって思いました」
小さな子どもが自分の宝物を紹介しているようでどこか微笑ましい。お酒臭いのは難点だが。
「この苦無、重そうに見えるでしょ。持ってみて軽いから」
ああ本当だ、と原田は思わず感心して首をふる。飛び道具としてなら槍にも負けない、と怜央の口角が上がった。
「この苦無が新選組一番の原田の槍にも負けないって?」
「そうです」
うんと頷いた怜央とその苦無の先にいるのは誰だろうか。原田は声と雰囲気と誰の部屋なのかを考慮した上で恐る恐る顔を上げた。
「よう原田。男もいる部屋に夜這いか?」
下ろした黒髪と寝巻き姿が男の原田さえも艶っぽいと感じる。そこに鬼の形相がなければ。
しかし鬼の顔の主、土方は案外それ以上声を荒らげることも無くもう寝ろ、と原田と怜央を催促する。
「悪ぃな土方さん。珍しく怜央が酔いそうな雰囲気だったから調子乗っちまって…」
こめかみをポリポリと掻きながら苦笑いでそう言う原田に別に怒ってないと土方。
「…酌み交わす相手なんて、そうどこにでもいる訳じゃねえしな。怜央もお前も楽しかったなら構わねえさ。怜央は俺が何とかするから、今日はもう寝ろ」
いつもより優しい顔でそう話す土方。
「おう、おやすみなさい。怜央も」
怜央の頭を撫でながら立ち上がると原田は部屋をあとにした。ねえ土方さん、と武器を片付けた怜央が上目遣いでそう話しかけてくる。
「…さて、どうしたもんか」
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