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この日が最後だった。覚悟を決めかねていた藤堂も期限が来たのである。土方がいいんだな、と言う先には所謂「伊東派」と呼ばれる者たちが正座をしていた。もちろん藤堂、そして誰もが予想していなかったであろう斎藤が座していた。
「本当に行くんだね」
暗い顔をしたまま自室で荷造りをする藤堂の元へ近づき座り込む怜央。
「怜央も左之さんとか新ぱっつぁんみたいに怒んのか?お前に後押しされたと思ってんだけど」
決まりが悪そうにこめかみを搔くと怜央はいいや、と反対した。
「平助が決めた道に口出しする訳ないでしょ。ただ暗い顔して新選組出ていかれるのも癪だと思って、せめて覚悟を決めた顔して出ていきなよ」
あの夜言った言葉は嘘じゃなかった。そのことだけで平助は胸が救われる思いがした。一息置くと、本当は少しだけ寂しい…と怜央が漏らす。それは藤堂もそうだった。藤堂の尾を引くのはその寂しさが居たからだ。じわりと目尻に涙が浮かぶのを堪え、怜央に悟られないように嘘言え、と笑う。
「怜央はそんな感傷的になるような奴じゃねえよ、もっと積極的に背中押してくれると思ってたぜ」
はは、と笑い声を無理に出す。最後の荷物をまとめるとそれを両手いっぱいに抱えてみた。
新選組での思い出はこの両手に抱えて収まるほどにしか目に見えるものとしては無い。あとはお酒を飲んだり、日々の些細な時に思い出すのだろう。
「…じゃあ、俺はもう行くからさ。もし次会うときは…敵じゃなきゃいいな」
冗談じみて言う言葉が冗談として済めばいいが。藤堂は口をつぐみ、覚悟を決めるとそれじゃ、と言って部屋をあとにした。
少し経ってから怜央が部屋を出るともう一人の脱退者、斎藤と偶然にも出くわした。
「アンタも何か用か?」
ウザったいような口調で足を止めて怜央を見下ろす。藤堂はまだしも、斎藤がこの隊を脱退するとは誰が思ったのだろうか。それは怜央もそうだった。
「たまたまですよ、平助が決めたことにも斎藤さんが決めたことにも私が口出しする権利なんてない。千鶴にはちゃんとさよなら言ってあげてくださいね」
どこかふてぶてしく、ぶっきらぼうに言う怜央に斎藤はフッと笑顔をこぼす。
「最後なんだ、言いたいことくらい言ったらどうだ」
やけに優しい笑顔で怜央に問う。眉間に皺を寄せ考えるが最後に怜央が出した答えは「いい」の一言だった。
「私が言うことじゃないので」
なんのことだ、と考えたが答えは出なかった。では、と立ち去る怜央の背を見えなくなるまで見つめていた。