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一匹サメ系女子がNRCで頑張る話


新たな仲間を迎え入れ沸き立つサバナクローを片目に
アズールはじっとりと嫉妬心を燃やしていた。

"それに何よりサバナクローで学びたいと思っている。"

その言葉に隠していた恋心と嫉妬心がグツグツと主張する。どうしてそんなことを言うのか、同郷の僕達よりもそんな野蛮な獣がいいのか、オクタヴィネルが選ばれなかったのが気にくわず奥歯を噛み締めた。

"あなたたちが私をテストしてよ。"

ああそうだ彼女は昔から勝負が好きだった。それでいて負けた相手を笑うことなく健闘を称えてくれる。彼女といつもテストで競い合っていたのはこの僕だ。

"お前!飛行術得意なのかよ!!"

当たり前だろう!彼女は何でもできる完璧な人魚だぞ。お前らみたいな劣等が絡んでいいような存在じゃないことも分からないのか?それよりも流石はジゼルさんだオクタヴィネルの誰よりも飛行術が優れている、本当に素晴らしい。
アズールは誰よりもジゼルが軽んじられることに怒った。

ところでアズールは初恋を拗らせすぎるあまりジゼルを何でもできる天才だと信じ、自分の理想の全てにジゼルが当てはまっていると思い込んでいる。
彼はいつのまにか初恋の美化の究極系に進化していたのだ。
イデアがいれば、セルフで究極進化とか僕の考えた最強のデュエマか?妄想ワロター!と叫びたくなるレベルで拗らせていた。
余談だが後にアズールはジゼルが理系科目が苦手だとリドルに教わっているところを目撃しショックで倒れてしまう。
解釈違いから発狂し三日三晩苦しんだそうだ。(この騒ぎは救助にやってきたイデアがギャップ萌えについて説くことでひとまず収まった。南無)


そして現在、彼女は野蛮な獣人共に揉みくちゃにされていた。彼女は1人が好きなのに、馴れ合うような人じゃないんだぞ!言ってやりたいことが頭の中でぐるぐる回っていた。モヤモヤとしたアズールだったが彼女の体当たりを見て、昔助けてもらったときのことを思い出し少しだけ甘い気持ちに浸った。本当に彼女はナイトレイブンカレッジにいるんだと実感し、褒め称えられる様子を見ていた。

サメちゃん!サメちゃん!サメちゃん!
うおおおおおああああ!!
興奮すんのはいいけど服脱ぐなよお前!!
汚ぇもん見せんな!!
サメちゃんの目が腐るっての!
でもサメちゃん人魚だし見慣れてんじゃねー??
それもそうだな!!
よっしゃ俺も脱ぐぜ!!
うおおおお!!!


やっぱり彼女はサバナクロー寮から移るべきじゃないだろうか……



――――――――――




怒涛のお昼休みが終わり、午後の授業も一段落し放課後になった。

あの後知ったが丁度決闘もどきでジゼルたちが中庭で騒いでいたころ、こちらに向かっていた学園長がシャンデリアを破壊した生徒を偶然目撃しブチ切れていたそうだ。おかげでジゼルたちは学園長からお小言を言われることなく解散できた。
決闘もどきをしていて言うのもあれだけど、いったいどんなことをすればシャンデリアを壊すのだろうか。流石はナイトレイブンカレッジ……心の中で拍手を送った。


ジゼルは放課後が近づくにつれソワソワしていた。ようやく、ようやくナイトレイブンカレッジの図書館を利用できる。そう思うとにやけてしまいそうだった。お昼に出来なかった校舎の案内をかねてリドルには図書館への案内を頼んでいた。

ホームルームが終わると同時にすぐ立ち上がりリドルの元へ近づいた。だが、目の前を大きな壁に道を塞がれてしまった。

「これはこれは、お久しぶりですジゼルさん。1年ぶりですね。」
「……久しぶりだねリーチくん、てっきり私の事なんて覚えていないと思っていたよ。」
「おや、寂しい思いをさせたのならすみません、すぐにでも話しかければよかったですね。」
「そういう意味で言ったんじゃないよ。」
ジゼルはこの男のこういうところが苦手だった。
もう1人の方は話すと大体勝負することになるため厄介だったが、少なくともこの胡散臭いリーチくんよりは可愛げがあった。

「もしかして2人は知り合いなのかい?」
目の前の壁の横から顔を覗かせリドルが喋った。
「ええ!エレメンタリーからミドルまで同じクラスでしたよ。大の仲良しなんです。」
「違うよローズハート、クラスが一緒なのは生徒が少なかったってだけだし、仲良しでも何でもないただの顔見知り。」
「そんな言い方酷いです、折角また会えたのに悲しいじゃないですか。」
しくしくと大袈裟にジェスチャーするジェイドを2人は白けた目で見た。

「ジゼルさんこの後お時間はありますか?ぜひオクタヴィネルに遊びに来てください。フロイドもアズールも会いに来てくれればきっと喜びますよ。それにオクタヴィネル寮に来ていただければいつでも自由に泳げますし、どうでしょう?」
「あいにくこの後はローズハートと校舎を見て回るし、他に予定もあるから遠慮しておくよ。それとあなたの片割れは絶対に喜ばないよ、会いたくないからそう伝えておいて。」

「おやおや、酷いですねえ。そうだ、お昼の試合お見事でした、素晴らしい箒捌きでしたね。実は僕たち3人で観戦していたんですよ。」
「それはどうも。」

「それはそうとジゼルさんにお願いしたいことがあるんです。実は僕飛行術が苦手でして、今も上手く飛べなくて困っているんですよ。ぜひ時間があるときで構いませんので僕に飛行術を教えていただけませんか?」
「飛行術について教わりたいなら私じゃなくてもっと得意な生徒から選ぶべきだよ、私のは自己流だからきっとリーチくんには合わないと思う。」
ジゼルはジェイドからの話に素早く返し簡潔に話を終わらせた。この男に会話の主導権を握らせているといいことがないと、ミドルのとき周りが散々嘆いていたことをジゼルはもちろん知っていた。

「それじゃあまた明日、リーチくん。」
「ええ、また明日。」


挨拶をするとジゼルとリドルはさっさと教室を出た。
「まさかジェイドと知り合いだったとはね、驚いたよ。」
「教えてなくてごめんね、ただ向こうは私の事覚えてないだろうと思ってたからなんか意外。」

「ジェイドと知り合いってことは、アズールとフロイドとも知り合いなんだろう?」
「うん、そうだよ。3人の中だとアーシェングロットくんが1番親しいかな。でも私そこまで人と話す方じゃないから親しく思われている自信ないけどね。
それとフロイドの方のリーチは私仲悪いよ。」
「へえ……、それなら少し安心したよ。」

雑談しながら校舎内、コロシアム、運動場、魔法薬学室へと歩いて回った。
「やっぱりNRCは広いね、移動教室大変じゃない?」
「たしかに慣れないうちはよく迷ったり、急な移動連絡で困ったりしたね。でもよほど時間に適当にならない限りは間に合うから安心しなよ。」
「それなら安心した。」
「RSAの校舎はどんな感じだったんだい?」
「んー、RSAの校舎はねぇ……」

一通り見終わった2人は植物園を後にし、最後に図書館に向かった。
「今日はありがとうローズハート、朝からお昼の決闘もどきに放課後まで本当に助かったよ。」
「気にしないでいいよ、役に立てたのなら光栄さ。ボクは寮長だからね、これからも困ったことがあればぜひ相談してほしい。」
「ふふ……頼もしいな、それじゃあまた明日。」
「ああ、また明日。」




ついにお目当ての図書館に着いた。ここからは研究の時間だと気持ちを切り替え図書館に足を踏み入れた。

「すごい……!」
そこはこれまでジュディから聞いてきた昔話のような、古めかしい雰囲気がいっぱいに溢れる落ち着いた色合いの図書館だった。
RSAの白が基調とされた明るく使いやすい図書館ももちろん好きだった。でもこの図書館は年季に溢れ趣があり、ジュディとの思い出をなぞるようでとてもしっくりときた。きっとここならジュディにもっと近づける、ジゼルはそう確信した。
さあ、早速取りかかろう。



ジュディから聞いた言葉はこうだ、

"乾いた空気、冷たい風、光り輝くたくさんの欠片"

消える直前ジュディは最後の問題だと微笑み、ジゼルに解いて欲しいのと告げた。春の海に差し込む光のような柔らかく細い声だった。きっとあなたなら正解を見つけることができる、そうしたら、きっと私は、
ジゼルは泡に変わるジュディをそっと抱きしめた。


後にこの言葉には続きがあると知った。


ジュディが亡くなってからジゼルは家にあった遺品を整理し、彼女の持っていた沢山の旅の思い出たちを引き取った。そして家に引きこもるようになり、学校に行く頻度がめっきり減った。

ある日引き取った本を読んでいると古ぼけた分厚いアルバムを見つけた。そこにはこれまでジュディが訪れたであろう旅先の写真がびっしりと貼られ、1枚1枚に一言感想が書かれていた。書かれているのは感想のみで地名は一切記載されていなかった。
アルバムは読みごたえがあり、ページは写真でかさばっていて捲るのが大変だった。
そして最後のページに綺麗な文字で一節綴られていた。


乾いた空気、冷たい風、光り輝くたくさんの欠片

縁のないはずの土の匂いが心を落ち着かせ、私は目を閉じる。

旅をするなら人の中、眠るのならば水の中

そして最後は溶けて消える



ジュディの残した本当の問題はこれだったのか。
彼女は消える間際に正解を見つけてと言っていた、
つまりこのたくさんの写真の中に彼女の言う正解の場所が眠っているに違いない。

アルバムを見つけてからジゼルは毎日地図とアルバム、これまでのジュディとの記憶を並べてノートに書き出し、写真の場所の目星をつけていった。
彼女の残した文が自分の解釈で合っているかは分からない、けれども場所を推測し、ジュディとの記憶を思い出しているこの時間が一番幸せだった。


・・・


今日の本は夕焼けの草原北部の自然写真集と夕焼けの草原4代国王の軌跡、それから熱砂の国を流れる河川図にしよう。

ふと思ったが、キングスカラー寮長がいるのなら夕焼けの草原のことは彼に聞けばいいのでは……?
いやいや、特別扱いはいらないと啖呵切ったのにお話を聞かせてくださいは都合が良すぎるな……。
もう少し時間が経ってから取材してみよう。


まさかこんなに夕焼けの草原と熱砂の国についての本があるなんて、よりどりみどりで毎回迷ってしまいそうだ。席に戻り熱砂の国の河川図から読み始めた。
しばらくして、休憩しようと伸びていると後ろから声をかけられた。

「君は熱砂の国に興味があるのか?」
まさか話しかけられると思っていなくて驚いた。
「ええ、そうですね、えっと……お名前を聞いてもいいですか?」

振り返るとエスニックな雰囲気を纏う理知的な顔つきをした生徒がいた。

「あぁ、すまない。2-Cのジャミル・バイパー、スカラビア寮だ、よろしく交換生。」
「ジゼル・フィリス。2-Eです、よろしく。」

「その本、随分マニアックな分野を調べてるんだな。」
「へ?」
ジャミルは河川図を指さしていた。
「都市周辺の河川じゃない、地方部の河川について詳しく書かれた本だぞそれ。」
「うん、知ってるよ。上巻の方は前に読んだことがあるから下巻をと思って持ってきたの。」

「……、熱砂の国の何について知りたいんだ?もしよれば俺が教えよう。」
「え!もしかしてあなた熱砂の国の出身なの!?」

つい大きな声を出してしまった。
「あ、ごめんなさい私ってば図書館なのに大きな声出して、」
「大丈夫だ、そこまで大きな声じゃなかったから安心しろ、……落ち着いたか?」
「ええ、…恥ずかしい……」





「……西部は特に乾燥が激しい。ただ雨季はかなりの降水量になるからこの一帯はワジ、つまり涸れ川が多いんだ。絹の街周辺の川は開拓され今でこそ運河になったが熱砂の国全体で見ると首都、絹の街、リゾートエリア以外はまだまだ昔ながらの地形が多く残っている。」
「なるほど……正直これまで海に住んでいたから川が消えるなんて想像出来なかったけどそういう理屈なんだね。この周辺に人は住んでいるの?」
「ああ、ワジのすぐ近くは危険だが近くには地下水脈がある場所もある。多くの人は首都と絹の街周辺に住んでいるが、そういった場所にも少数だが点在しているな。中には移動手段としてラクダが今も現役で使われている所があってラクダ目的で観光客が来たりもする。」
ジャミルの話を聞き、ジゼルは一言も逃してやらないとノートにメモしていた。

「本当に陸は面白いね、いつかそこにも訪れてみたい……。ねえ、バイパーは熱砂の国のどの辺に住んでいたの?どんな場所でどんなところが好きだった?バイパーの話を教えて欲しいな。」
「俺か?……、そうだな…色々あるが砂漠の夜の景色がお気に入りだな、静かで星もよく見えてとても落ち着く。住んでいた場所は、まあそのうち分かる、その時話すよ。」
「そう、やっぱり星が綺麗なのね。
…それとその時話すってことは……その、また熱砂の国について教えてくれるって思っても、いいかな?」
少し恥じらいながらの言葉だった。

「……ああ、俺はいくらでも聞いてもらって構わない。」
「よかった、とっても嬉しいよ!私人に話を聞くのが好きでよくRSAでもみんなに故郷の話を聞いて回ってたんだ。でもあんまりしつこく細かく聞くもんだから、もういいでしょって断られたりしたんだよね。もちろんバイパーを困らせない程度で聞こうと思うから、しつこかったらすぐに教えてね。」
尾びれを犬のようにブンブンと揺らす姿にジャミルはまた笑った。

それから二人は図書館の閉館時間まで熱砂の国について語り合った。
「今日はありがとう、初日からこんなにたくさん熱砂の国について知れるなんて思っていなかったよ。バイパーはとても賢いんだね。」
「そんなことないさ、自分の出身だから詳しいだけだ。」
「謙遜しないでよ褒められるだけの力があるんだから。自分の住んでる国について表面しか知らないっていう人は多い、RSAで話を聞いていても案外住んでいる町だけとか誰でも知っているようなことしか知らない人も結構いたんだ。だからバイパー、君はすごいよ。」
「……ありがとう、素直に受け取るよ。」
「うん、それがいいと思う。」


「もう鏡舎についたね、結構近いんだ。それじゃあバイパーまたね。」
「ああ、またな。」
ジャミルはスカラビア寮へ帰っていった。

「さて、私も行ってみるか。」

いざ!サバナクロー寮へ!

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