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一匹サメ系女子がNRCで頑張る話


「さて、あなたの寮分けは最後に行われますのでここで着替えてから来てください。先に新入生の寮分けを行っていますので見たかったらお早めに来てくださいね。」
「ありがとうございます。」

学園長から式典用の服を受け取ると、近くの椅子に座り一息ついた。
(本当に、ナイトレイブンカレッジに通えるんだよね……)
突然の展開にまだ少し夢のようだ。
これからどうなるかはまったく予想もつかないけど、たしかにチャンスは巡ってきたのだ。

(絶対、絶対に物にしてみせる……)

よし、と意気込み早速服を着替え、

「あ、尾びれどうしたらいいんだろう……」
受け取った服はローブとインナー、スラックスの3つ。
ローブとインナーはいいんだけど、スラックスはどうしようもできないし……
仕方ないのでスカートだけはそのまま着替えた。
鏡の前に立ちくるりと回る。

「よし、多分問題ない……スカートは…ローブで隠れてるしバレないはず。」

流石にスカートがロイヤルソードだからって睨まれないよね……少しだけヒヤヒヤした気持ちで鏡の間へ向かった。




――――――――――




アズール・アーシェングロットの初恋はエレメンタリーのとき、誰よりもはやい女の子だった。
泳ぐ速さはもちろん計算問題を出されれば誰より速く解いてしまい、なんなら帰宅するのも誰よりも早い、いつも一人で帰ってしまうそんな女の子だった。
アズールは初めて彼女を見たとき、何でも素早くこなしてしまうその姿に嫉妬した。きっと彼女も泳ぐのが遅い僕を馬鹿にしているんだ、計算だってどんなに頑張っても追いつかない僕を笑っているに違いない、そう思い込み嫌っていた。

その日アズールがいつものように一人帰宅していると、運悪く年上の人魚たちに見つかってしまった。ニタニタと嫌な笑みを浮かべた彼らはアズールを囲うなり墨を出してみろだの、デブでノロマだの酷い言葉を投げかけた。
カースト上位の彼らを止める子供はいる訳もなく、まして絡まれてる相手があのタコの少年だったため、みんなどこかソワソワとした雰囲気で面白みたさに覗いていた。

助けてくれる人も周りにおらず、俯き肩を震わせていると、瞬間彼らは数メートル先に吹き飛んだ。いったい誰がそんなことをしたのかと前を見るとあの子がいた。

「いってえな!何すんだよお前!」
「ジゼル!邪魔すんなよ!」

「あんたたちこそこんな通り道の真ん中で何やってんの。私は向こうのイソギンチャク畑に行きたいの。私の体は大きいんだからあんたたち邪魔よ、さっさとどいて。」

ジゼルはまた吹きとばしてやろうかと尾びれを振るってみせた。いじめていた人魚たちはそそくさと散っていった。

アズールはお礼を言おうと振り返ったが彼女はすでに自慢の速さで泳いでいってしまった。彼女が僕を知っているかは分からない、きっと本当に自分の邪魔だったからあいつらを吹っ飛ばしただけなのだろう。
それでもアズールには助けてくれた彼女が輝いて見えた。

それからアズールはこれまで以上に勉強に励んだ。いつか必ず彼女を抜いて驚かせるために、彼女にすごいねと言われるためにより努力した。


アズールはすくすくと成長しウツボたちとつるむようになった。
そしてミドルに入学しついに初めて自分から話しかけた。

「フィ……いや、ジ、ジゼルさん。次のテストどちらが1位をとれるか勝負しませんか?」
名前を呼ぶだけで顔が赤くなりそうだ。

「えーと、アーシェングロット……くんで合ってるよね?」

まずそこからかと胸がチクリと痛んだ。
関わりなんて無かったんだからそんなの分かってただろ!と気合いを入れ直し続けた。
「はい、アーシェングロット、アズール・アーシェングロットです。それでどうでしょう?僕と次のテスト勝負しませんか?」
「勝負って具体的にどんなことをするの?点数?それとも順位?勝負はいいけど私罰ゲームとかそういうのは嫌だよ。」
「罰ゲームはありませんよ。ただ僕のモチベーションのために頭の良いジゼルさんに競って貰いたいんです。」

嘘では無い。これまでの勉強のモチベーションの半分はジゼルと言ってもいいのだから。それにエレメンタリーの頃とは変わった今なら、きっと認めてもらえると考えアズールはきっかけを探した。

「うん、いいよ。私も勉強頑張りたいと思ってたから。」


それから毎回テストの度にジゼルと点数と順位どちらも競うようになり、お互い良き勉強のライバルとなった。
いつもは恥ずかしくてなかなかジゼルに話しかけられないアズールだったが、テスト期間は沢山話すことが出来て幸せだった。

そんな生活を続けて三年目、突然ジゼルが学校に来なくなった。ぱたりと姿を見せなくなりテスト期間も休みが増え、2人の接点はどんどん減っていった。

つい先日アズールは双子たちと共にナイトレイブンカレッジから手紙を受け取ったのだが、それがどんなに嬉しかったことか、きっと伝えればジゼルも褒めてくれる、認めてくれるに違いないと思った。すぐに伝えたくて仕方がなかった。

しかしジゼルは学校に来なかった。


アズールが手紙を受け取ってから数週間後、授業が終わり帰る前に担任の元に寄ると久しぶりにジゼルの姿を見ることが出来た。
ようやく会えた、話を聞いて欲しいと思い彼女が話終わるのを待っていると聞こえてきた内容に耳を疑った。

「流石だなフィリス!まさかうちのクラスからロイヤルソードアカデミーに行く生徒が出るとはなあ!おめでとう!本当に嬉しいよ。」

アズールは浮かれていた。
自分と張り合う彼女がどこからも推薦を貰わないわけがないじゃないか。
それに加えてジゼルは女の子だ。ナイトレイブンカレッジに進学すれば必然的に彼女とは別れてしまう。そのことをすっかり忘れていた。
でも、僕だって頑張ってきた、だから入学許可証を手にしたんだ。認めてくれるさ、きっと褒めてくれる。でも、でも、

「そういえば知っているか?」

はっとそこでアズールは気がついた。
待ってくれ

「最近休んでいたからフィリスは知らないだろう。」
やめろ、それは僕が

「実はアーシェングロットとリーチ兄弟が、」
やめろ

「ナイトレイブンカレッジから入学許可証を貰ったんだ!」

アズールはそのまま会話せずに学校を後にした。



休日を挟み学校へ行くとその日は珍しくジゼルが登校していた。
顔はぼんやりとしていて力の抜けた様子だった。

「あ……、おはようアーシェングロットくん。」
「ええ、おはようございますジゼルさん。」

どうしようあんなに話したいことがあったのに、あんなに会いたかったのに。

「……そういえば聞いたよ、ナイトレイブンカレッジから入学許可証が届いたんだってね。流石だよアーシェングロットくん、おめでとう。本当にすごいや。」
「ええ……ありがとうございます。」
欲しくて堪らなかった言葉なのになんだか虚しかった。

「僕も聞きましたよ、……ジゼルさんはロイヤルソードアカデミーに行かれるんでしょう。」
「え?ああ……、まだ迷ってるけど…推薦はもらったよ。」
一体何に迷うというのか、いつもはるか遠くを歩く彼女になんだか腹が立った。

「おめでとうございます。お互い進学しても頑張りましょうね。」
上辺だけの渇いた賛辞だときっと気づかれている。でもそんなことどうでもよかった。

それからアズールはジゼルと会話をすることなくそのまま卒業した。

そんなほろ苦い初恋を抱えアズールはナイトレイブンカレッジに進学した。幸いナイトレイブンカレッジは男子校だったため日常生活で女性と関わることは少なく、初恋は思い出としてきれいにしまわれていた。この先彼女に出会えるか分からないけれど、彼女との思い出はアズールにとって大事な宝物だ。そのはずだった。


そして時は戻って入学式、突然現れた猫と少女にぐちゃぐちゃにされるも一通り落ち着き皆が飽き始めた頃だった。

「最後に、今年は交換留学生がいます。こちらにどうぞ。」
フードを深く被った生徒が前に出た。

「おい、あいつスラックス履いてなくね?」
「は?そんな変態いるわけ、おい、あれ女子じゃね?」
「なんかしっぽあるけどなんの種族だ?」
「あれスカートだぜ。」
「なわけないだろ。ここ男子校だっての。しっぽ出しとくためなんじゃねえの?」
「だからってスカート選ぶかぁ?普通。」
交換生が鏡の前に立った。

「汝の名を告げよ。」
「ジゼル・フィリス。」

は?

「汝の魂の形は……ふむ、実に面白い魂だ…それもよかろう…サバナクロー!」

は??

アズールはジェイドに移動だと話しかけられるまで放心していた。ジェイドもまた驚いた様子でアズールに話しかけていたが何も頭に入ってこなかった。


・・・


「今年度の間我が校で学ぶことになったジゼル・フィリスさんです。案内よろしくお願いしますね。」
「おい、マジで言ってんのか。」
「私だってまさかサバナクロー寮になるなんて思っていませんでしたよ。てっきりオクタヴィネル寮だとばかり…」

「そうじゃえねえ、なんで女子生徒を受け入れてんだよ、ここは男子校だぞ。遂に頭がイカれたかクロウリー。」
「そ、それには深ぁーい理由があるんですよ。」
(まずいですねぇ、このままでは勘のいい彼に気づかれてしまうかもしれません)

「そもそも交換留学生が来るなんて話寮長会議で一度もしてなかっただろ。なんで急にこんなことになったんだ、説明しろ。」
「え、説明されてないんですか?」
「なな、なーにを言うんですか!説明はしてありますとも!キングスカラーくんが覚えていないだけです、安心してください!」

「ともかく!キングスカラーくんは彼女に寮の案内をよろしくお願いしますね!私は先程の火事の後処理がありますので!ああ、そうだフィリスさん今日は職員寮の方に泊まってください。まさかサバナクロー寮になるとは思っていませんでしたから、部屋の準備に時間もかかるでしょう。ついでに職員寮の場所への案内もよろしくお願いします。ではフィリスさんまた後で!」

行ってしまった。

「おいお前。」
「はい、ジゼル・フィリスと申します。1年間お世話になります、よろしくお願いします。」
「そうじゃねえ、お前自分で望んでNRCに来たのか?」
「……?ええ、もちろんです。」

「それにウチの寮はヤワじゃねえ、お前を特別扱いすることもねえ。戻るんなら今のうちだぞ。」
「お構いなく、私は目的のためなら何だってします。そのためにここへ来ました。もしサバナクロー寮から追い出されるんなら野宿でもしながら通いますよ。」

赤黒い目をギラギラとさせながらジゼルは答えた。
その表情は不屈という言葉のよく似合うものだった。

寮分けが終わり戻ってきたサバナクロー寮はざわざわと沸き立っていた。
本当に女子生徒がサバナクロー寮に来るのか、その話題で持ち切りだった。本当に彼女は女なのか、交換生とはどういうことか、それからそれから……

色めく生徒が多くいたが中には反感を持つ生徒もいた。ここは百獣の王の不屈の精神に基づくサバナクロー寮だぞ、そんな寮に獣人族でもない人魚女が入るだと?冗談じゃない。獣人族から人魚への印象は悪いため(もっぱらオクタヴィネルの3人のせい)余計反感を募らせた。



――――――――――



清々しい朝を迎えた。一年生たちはこんな良い天気の中初登校をできてさぞ幸せだろう。

「おはようございますアズール。ふふふ、随分と酷い顔ですね」
「おはよぉ……なんでそんな死んだ顔してんの?」

アズールは過去最高に最悪の朝を迎えていた。


今日は登校初日、つまり1年に1度の大イベント クラス分けが発表される日だ。アズールは心臓が破裂しそうな状態で双子と共にクラスを確認しに行った。

本当に彼女はナイトレイブンカレッジに通うのか、なぜサバナクロー寮なのか、通うのならどのクラスになるのか、あわよくば同じクラスになれたりしないかなど頭の中はいっぱいだった。珊瑚の海はそもそもの子供の数が少ないのでクラスが少ない、そしてアズールはこれまで運良くずっとジゼルと同じクラスだった。そのため話しかけることが出来なくてもいつでも彼女を見ることができた。
せめて、せめて隣のクラスになってくれ、そう祈った。

「あー、オレたちみんなバラバラじゃーん。」
「離れてしまいましたね、残念です。」
自分はCクラス、ジャミルさんと同じか……
フロイドはD、ジェイドはE
ジゼルはどうやらCではなかった。仕方ないAから探すか

「おやおや何と言うことでしょう。」
「なにージェイドどうかしたー?」
Aはいないか。それじゃあBは

「どうやら同じクラスにジゼルさんがいるようです。」
「ジゼルゥ?誰だっけそれ?」
「忘れたんですか?昨日最後に寮分けされていたでしょう、ミドルまで一緒だったサメの」
「あー!あのサメ女じゃーん!ジェイドと同じクラスとかおもしろ〜。」

……、…。

「なんだか申し訳ないですね、すみませんアズール。」
「僕にはどうしてお前が謝るのか理解できませんねジェイド。」
「ふふふ、無理はよくありませんよ。」
昔からジェイドはアズールの拗らせた初恋を観察するのが楽しくて仕方がなかった。


・・・


昨日はあの後キングスカラー寮長に寮と職員寮までの道を案内してもらった。
サバナクロー寮は名の通りサバナ気候の土地に石造りの大きな建物がある素敵な場所だった。夕焼けの草原ではないがそれに近い自然の迫力を持っていてジゼルの研究へのモチベーションは上がり調子だ。

制服に着替え早速校舎へ向かった。
昨日貰った制服は男子用のものでスカートがなかったため下はRSAのスカートだ。そもそも女子制服がないんだからスカートを気にするだけ無駄かと思い開き直った。

私のクラスは……2-Eか、教室はどこだろう。
それにしてもナイトレイブンカレッジの敷地は広い。
ロイヤルソードアカデミーもたしかに大きいがどちらかと言うと箱庭のような整えられた空間で、aに行きたければ1を曲がって2に進みAブロックへ……といった感じで移動すれば目的地に簡単に着く。一方ナイトレイブンカレッジは様々な施設がくっついた街のようで少し横道に入ると違う場所に繋がり歩くだけでとても楽しい。

少し寄り道をしながらようやく2-Eに辿りついた。
男子校ならではの配慮かクラスの扉は大きかった。ただでさえ陸の生活2年目でまだまだ発見ばかりなのにそれ以上の発見を与えてくれるなんて楽しすぎる。るんるんとした気持ちでクラスに入った。

もう半分以上の生徒は来ているようで賑わっていた。今年も一緒のクラスの友人を見つけじゃれあっている様子は微笑ましい。別れた友人たちを思い出し少しだけ恋しくなった。

「キミは……昨日の交換留学生だね。初めまして、ボクはリドル・ローズハート。良かったら少し話さないかい?」

若干ナーバスになっていると後ろから赤い髪の男の子に話しかけられた。
身長はジゼルよりも低くリボンが可愛いオシャレさんだ。
ついじっと観察してしまう。
「……あ、初めまして。ジゼル・フィリス、よろしく。」

「……そんなにじっと見つめないでくれ恥ずかしい。そんなにボクの姿が可笑しいのかい。」
「違うよ、すごくオシャレな人だと思って見ちゃっただけ。気分を悪くさせたならごめんね。」
そういうとリドルは面食らった顔をしてから小さく笑った。
「キミ随分と正直だね。少し恥ずかしかったけどありがとう。」

それからホームルームが始まるまでリドルと会話していた。話して知ったが彼はハーツラビュル寮の寮長をしているらしい。
彼はきっと一人だった私を気にかけて声をかけてくれたに違いない、流石寮長を務めるだけの人である、優しいなあ。



なんだかんだで午前中の授業が終わった。
授業と言っても初日のためほとんどがオリエンテーションで自己紹介やら説明のみでみんなゆるゆると過ごしていた。

そしてあることに気づいた。

ジェイド・リーチってあのジェイド・リーチじゃないか

実を言うと同じミドルの3人がNRCにいることをジゼルはすっかり忘れていた。思い出したのも授業内の自己紹介で名前が聞こえてからだった。アズールとはたまに会話していたがリーチの方は接点が少なかったため姿を見ても派手なやつだとしか思わなかった。

ロイヤルソードに同郷の人はおらずとても懐かしい気分になった。話しかけようか迷ったが、クラスが同じで数回喋った程度の顔見知りを向こうは忘れているだろうと思い話しかけないでおいた。



お昼休み、誘ってくれたリドルと一緒に食堂へ向かった。流石男子校、食堂は活気に溢れ、血の気に溢れ人がごった返していた。ロイヤルソードの食堂はマナーを間違えていないかと周りの目が気になりあまり得意じゃなかったが、これはこれで面倒だ。

「久しぶりの食堂なのもあって今日はとても混んでいるね。いつもはもう少し落ち着いているから安心しなよ。」
「うん……そうじゃないと困るかな」
若干引いた。

リドルから普段の授業の様子や、彼の所属する部活、ハーツラビュル寮について聞きながらもくもくとお昼を食べた。

お互い食べ終わり校舎を案内してくれるとのことで移動しようとした時だった。

「おい、お前だろ交換留学生ってのは。」
「お前本気でこのままサバナクロー寮にいるつもりかよ。」
獣人の生徒3人組がこちらにやってきた。
折角食器を戻そうとしていた時に……厄介だ。

「いきなりなんだいキミたちは。」
「お前には話しかけてねえよ。なあどうなんだ、陸に来てちょっとの人魚ちゃんがサバナクロー寮で何すんだよ。俺たちの寮長は心がひろーいからお前を突き放さなかったかもしんねーけど、俺たちは納得いかねえんだよ。ナメてんなら容赦しねえぞ。」
「それにお前、そのスカートRSAの制服だろ?お嬢様がやっていけるような場所じゃないんだぜぇウチはさぁ。お花が見たいんならウチじゃなくてポムフィオーレとか……それこそハーツラビュルの方がいいんじゃねえか?」
ギャハハハハと大きく笑った。

「へえ……、ボクの前でハーツラビュルを侮辱したってことでいいんだね?」
「侮辱だぁ?俺らはただお花の好きそうなお嬢様に丁寧に教えてあげただけだぜー勘違いはよしてくれ。」
リドルの顔はどんどん険悪になっていた。

「ローズハート落ち着きなよ。悪いけど私は転寮する気なんてないよ。それに特別扱いも求めてないしあなたたちを舐めてなんかもいない。第一学園長と闇の鏡が決めたことなんだから寮のことは私じゃなくって文句なら向こうに言って。」
「それがおかしいんだよ!なんで女のお前が、RSAのお前がNRCにいるんだよ。いきなり交換留学生ですーなんて言われて納得できるか!」

あれ……?

「……ちょっと待って、やっぱり学園長からは説明されてないの?交換留学のこと。」
「されてねえっつってんだろ!」
確認をと思いリドルの方を向くとリドルもゆっくりと頷いた。どんどんギャラリーも増え、みんな交換留学で来た女子が揉めているとザワザワガヤガヤ様子を見ていた。

「えぇ……、やっぱりあの人信用ならないじゃん。
交換留学について説明が無かったのは私からも謝るよ。混乱させてごめんなさい。でも私は半年前から交換留学の希望届けをNRCに出していた。決して短絡的に決めたことじゃない。
だけど返答、というより迎えが来たのはつい昨日なんだよね。おかげで決定までどういう経緯で何があったのかは知らない。私から交換留学についてきちんと学園長に聞いてみるよ、それで全体に説明してもらうってことで許して欲しい。」
多くの人の耳に入るようにジゼルは大きな声で謝った。

「ただし、私がサバナクロー寮に入るのはこれとは関係ない。私はたしかに闇の鏡に選ばれてサバナクロー寮に入った、この決定を覆す気はないよ。」
「んだとぉ!!」

「間違ったことは言ってないはずだよ。正式な方法で寮に選ばれて正式に寮に所属した、それのどこがおかしいの。交換留学のことを連絡していないのは学園長のミスでもこれは間違いじゃない。それに何より私はサバナクローで学びたいと思っている。」
3人組はイラついた様子でジゼルを睨んだ。

「もしそれでも納得出来ないっていうならあなたちが私をテストしてよ。」

「テストぉ?」
「そう、テスト。もちろんただ魔法の腕前を見るんじゃない。実は私これでもマジフト得意なんだ。決闘したところできっとあなたたちの求める強さじゃないだろうから、私のマジフトの実力で判断してよ。まあ男女差があるからそこは配慮して貰いたいかな。」
「……ふーん、面白そうじゃねえか。いいぜ、今すぐやろうぜそのテスト。」

「ジゼル!本当にいいのかい、いくらなんでも無茶じゃないのか?」
「心配しないで、大丈夫だよ。こういうのはちゃんとお互いが納得する方法で決めなきゃ後々面倒だから。」

あっさり答えるジゼルだが、リドルは気が気じゃなかった。たしかにジゼルがクラスに入ってきたとき彼女がRSAのスカートを履いていることに気づいた。でもどこの学校から来たかジゼルは自己紹介で言おうとしなかった。
リドルはきっと言ってしまえば肩身が狭くなると思い気付かないふりをしたのだ。そんな配慮も露知らず、サバナクロー生たちの配慮ぶち壊しの展開に、こんなことなら人の多い食堂に誘うんじゃなかったと後悔していた。

一方ジゼルはリドルとは反対にワクワクとしていた。それもそうだ、なんてたってあのNRCの生徒とマジフトを出来るんだ。啖呵は切ってみるものだと一人感動していた。

ジゼルは勝負が好きだ。元々身体が大きいこともあり、昔から怖いもの見たさで周りから喧嘩やら勝負をふっかけられてきた。(実はその中の1人にウツボの片割れも入っていたりもする。)もちろん負けることもあったが、その多くで勝利し勝負を楽しんできたのだ。


・・・


「ルールは私がオフェンスであんたたちディフェンス3人を抜いてゴールを決めたら勝ち、10分以内に出来なかったら私の負け、それでいい?」

「ああいいぜ、なんなら時間制限を無くしてもいいんだぜ。人魚ちゃんがちゃあんと空飛べんのかどうかそこからテストしてやるよ。」

「時間制限が無かったら面白くないじゃん必要だよ。
それじゃあ、始めるよ。」

ちょうどいいと頼まれたリドルが笛を吹く

(威勢よくテストだなんて言ってきたけどこいつ人魚だろ?まず飛べるのかよ……)
ギャラリーはそもそも人魚のジゼルが上手く飛べるのかが気になり注目していた。

(……飛ぶのくらい造作もないっての。)
笛と共にジゼルはあっという間に屋根の高さまで浮かび上がった。

「行くよ!!」

そのまま超スピードでディフェンスへと突っ込んでいった。
「はあ?!お前!飛行術得意なのかよ!!」
「最初から言ってたじゃない!マジフト得意だって!」

ジゼルの身長は173センチ。そこらの男子と変わらない。

「ちょ、お前、止まれ!」
「まだまだ!!」

さらに元々の種族性からかジゼルの身体はそこらの男より頑丈で屈強だ。
つまり、
「うわああああ!」

彼女はパワー系だった。

ドゴンとタックルをくらった1人が数メートル先に吹き飛んだ。それはそれはすごい勢いだった。魔法を使わないただのタックルでこれだ、もう一度同じのをくらったらヤバいことくらいすぐにわかった。
残った2人が怯んだすきにジゼルは素早くディスクをゴールに投げ勝利した。約2分の戦いだった。

「ねえゴール入ったけど、私の勝ちでいいよね?」
「……お前、」

リドルはまずいと思いすぐにペンを構えた。
逆上してジゼルを襲う気か?このままじゃ危ない!と思ったが、

「やるじゃねえか!!お前人魚なんて嘘だろ!あんなんイノシシと同じレベルじゃねえか!!」
「いいや!ありゃ闘牛クラスだろ!そんじょそこらのやつが出せるもんじゃねえって!!」
「なんだよあのタックル!!ガチの寮長と同じくらい痛えじゃん!!何やってりゃこんな力になるんだよ!!」

さっきまでの態度とはいっぺん、彼らは英雄の如くジゼルを褒めたたえ揉みくちゃにした。ギャラリーにいたサバナクロー寮生たちは一斉にコートに集まりジゼルを褒めたたえた。リドルは何が起こっているのか理解できなかった。

「あなたたち、変わり身、早すぎない、むぐっ」
「いいだろそんなこと!それよりやるじゃねえか!!人魚ちゃん!!いやサメちゃん!!」
「サメちゃんさいこー!!」
集まってきた寮生たちにジゼルは押しつぶされた。

サバナクロー寮の生徒たちは総じて強いやつが好きだ。そんな彼らがあの試合を見てジゼルを認めないわけがなかった。

「お前ら何バカ騒ぎしてんだ、うるせえぞ。」
「あ!寮長!さっきの試合見ました!?サメちゃんマジでやべえっすよ!!」
「サメちゃんが入部したらマジフト部最強じゃん!よっしゃー!!」

「はぁ……馬鹿かお前ら、そいつは女だから男子のマジフトには出れねえよ。」
ピタリと声が止んだ。
「それにそいつ交換生だから所属はRSAだぞ。」
サバナクロー生たちは静まり返った。

「で、でも!サメちゃんが毎日俺らにタックルしたら強くなれますって!!」
「つかなんでサメちゃんRSA生なの??正式にNRCに転校して来いって!!」
こいつらいくらなんでも変わり身早すぎるだろ……
レオナはバカ騒ぎする寮生を見て呆れた。

「まあこれでハッキリしたみてーだな。こいつがサバナクロー寮にいることに文句あるやつはいるか?」
いません!!と大きな声が響いた。こうしてジゼルは正式にサバナクロー寮所属としてナイトレイブンカレッジに通うことになった。








追記

ノリで書いてたもんで今更気づいたんですがここのリドルジゼルたちの私闘を見逃してますね。でも同じ寮生だし決闘(仮)なら許されるのか……?マジフトってことでオッケーになってくれ。
矛盾した行動をさせてしまいました。すみません


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