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一匹サメ系女子がNRCで頑張る話



ロイヤルソードアカデミーと聞くとどんな生徒を思い浮かべるだろうか。多くの人は優しい笑顔が似合う白馬の王子様や、慈愛に満ちた深窓の令嬢を想像するだろう。

だがしかし何事にも例外はある。

ジゼル・フィリスはまさに例外を体現した生徒である。彼女はサメの人魚で目つきは鋭く、歯はギザギザと尖り白く輝いている。制服を脱げばおおよそロイヤルソードの生徒とは気づかれない顔立ちだ。
また薬を飲み人間の身体をしているが、出している方が楽とのことでサメらしさ満点の尾びれを生やしスカートから覗かせている。


――――――――――


「ジゼル!今日みんなで海岸沿いの植物園でお茶会するけど来れそう?」
「あー、ごめん今日までに返さなきゃいけない本があるから行けないや。まだ読み途中のもあるから時間かかっちゃう。誘ってくれてありがとう。」

「そう……勉強熱心なのはいいけど、少しは息抜きしなくてはダメよ?あなた放っておくとずっと図書館にいるじゃない。たまには日の光を浴びて美味しいお茶とお菓子を食べて談笑するべきよ。次は絶対参加すること。いい?」
「ジゼルってば好きな分野ばっかり勉強しないで、ちゃんと苦手科目も勉強しなさいよー。勉強しっぱなしでもテスト期間助けてくれるからオッケーだけど、そんなに勉強していて理系科目は教えてって効率悪いもの。」

「頭が良くなりたくて勉強してるんじゃないから効率は関係ないよ。それにテスト期間はみんなとの時間を確保できてるんだから許してよ。」

「もう!それだとあなた息抜きしていないじゃない!」
「屁理屈並べるのはいいけどちゃんと次は参加してよね〜」

「はーい。それじゃあまた明日」

「ええ、ごきげんよう。」
「ばいばーい!」

教室を出て、中庭を突っ切り3階の図書館を目指す。
図書館は好きだ。
ありとあらゆる国の歴史と地理が詰まっている。
今日は左奥の本棚を潰すか……


ロイヤルソードアカデミーに通う他の子たちは私と違ってキラキラとしたオーラの明るい子ばかりだ。

昔からいつも1人で行動していた。
サメの特性も相まってそれが私の当たり前だった。
でも周りの子たちはそれは良くない、みんなで一緒に歩んでいこう!といつも私を気にかけてくれる。

みんな良い人ばかりで申し訳なくなるし、少しだけうざったくなる時もある。それでも良い関係を続けられているのは彼らのカリスマのおかげだろう。

ロイヤルソードアカデミーに入学して半年、ジゼルは図書館の本の半分を読み終えようとしていた。






「今日も特に成果はなしか……」

気づけば外は夕暮れになっていた。
借りて読む本を選別し、カウンターへ向かった。
司書からは今日もこんなに借りるのかと白い目を向けられたが気にしない気にしない。

それにしても流石名門校。生徒への信頼が厚いおかげで図書館で借りれる本の上限は他に比べて圧倒的に高い。おかげで快適な読書サイクルを築けている。作業がはかどるばかりだ。



とはいったものの……

「やっぱり、そろそろ限界かも……」
ジゼル・フィリスはある目的のためにロイヤルソードアカデミーに入学した。
それは大切な人が最後に残した問題を解くためである。


――――――――――


ジゼルは昔からなんでもそつなくこなす、優秀な子供だった。サメの人魚だったこともあり、泳ぎも速く、力も強い。
いつも1人で行動していたが特別周りから浮くこともなく、何でもできる珊瑚の海のみんなの憧れのような存在だった。

そんなジゼルはミドルスクールに入学する頃、ある魔女と出会った。彼女はクラゲの人魚のジュディ。体の弱いクラゲだが魔力の潤沢な彼女は毎年身体を作り替えることで長い歳月を生きてきた。

彼女は若々しい見た目をしているが、人生経験は豊富であらゆることに精通していた。ジゼルはすぐに彼女の話に夢中になり慕うようになった。

そしてミドルを卒業する年、ジュディはジゼルに看取られ泡となり消えてしまった。
ロイヤルソードアカデミーから入学許可の手紙がくる二ヶ月前の事だった。



――――――――――


あらゆる本を読み進め分かったことがある。
それはもう本から得る情報だけでは、問題は解けないことだ。

彼女の残した問題はおそらく場所を当てさせるものだ。
彼女からは問題だけで、何がそこにあるのかは伝えられていない。それでもそこに行けば彼女からのメッセージがあるとジゼルは信じていた。

そしてこれまでの研究から答えの有力候補は2箇所の近辺に絞られていた。ひとつは熱砂の国、もうひとつは夕焼けの草原だ。ここまで絞られているのに解読が進まないのにはいくつか理由があった。

まずひとつ、
ジゼルは人魚のため乾燥にとても弱い。
どちらも乾燥した気候で簡単にフィールドワークに行ける場所ではなかった。熱砂の国は一度訪れてみたが、乾燥がひどくすぐにバテてしまった。
似た気候の夕焼けの草原も厳しいのは目に見えている。
検討もなく歩き回るのはほぼ不可能といっていいだろう。


そしてふたつめ、


「聞いたかい!また街でナイトレイブンカレッジの生徒が暴れて騒いでいたそうだ!全く、どうしてこうも彼らは秩序を乱したがるのだ!」

「ああ!聞いたとも!いい加減にして欲しいものだ!ナイトレイブンカレッジはうちと違って獣人の生徒が多いからね。周りも影響されて気性の荒い野蛮な生徒が増えているのだろう。」


「ほんっとナイトレイブンカレッジの生徒は怖くてたまらないわ!この間映画を見に行こうとしたらあの人たち映画館のすぐ横でポップコーンを撒き散らしながら乱闘騒ぎだったのよ!ポップコーンの味が塩じゃないやつは皆殺しだ!なんて叫んで……すぐに映画館から離れたからよかったものの、ああ怖い!」


ロイヤルソードアカデミーとナイトレイブンカレッジは水と油。それぞれがそれぞれの真反対を歩む学校だ。そのため集まる生徒にも偏りがある。
そう、ロイヤルソードアカデミーは獣人の生徒の数がナイトレイブンカレッジに比べて少ないのだ。夕焼けの草原に住んでいた生徒から話を聞こうにもデータが足りなかった。

またその影響からか、夕焼けの草原に関係する本もロイヤルソードアカデミーにはあまり置いていなかった。そのためとりわけ夕焼けの草原について調査が遅れていたのだ。

「まだ熱砂の国か夕焼けの草原と決まったわけじゃないけど、やっぱり有力候補の情報が少ないのは困るなあ。」


手続きを踏んで申し込めばナイトレイブンカレッジの図書館を利用出来るが、それでは効率が悪すぎる。ネットで購入するにも毎度買っていては財布が厳しい。
図書館の蔵書偏りすぎ問題が最近一番の悩みだった。

司書のおじさんにも夕焼けの草原についての本を増やしたりしないのかと聞くと、最悪ナイトレイブンカレッジから借りればいいからねぇ……と望み薄な回答を頂いた。





次の日、放課後いつものように図書館へ行くと司書のおじさんがプリントを持ち待っていた。

「おお来たかい、いやー待っとったよ。」
「……お疲れ様です。私に何か?」


「いやあお前さんが夕焼けの草原について随分調べたがっとるから何かいい方法はないかと思ってな。それでなあ……実はもう随分行われてないもんで生徒たちには知られていないんじゃが、ナイトレイブンカレッジに交換留学生として行くことが出来なくもないんじゃよ。」

「……え?」



「交換生といっても、片方からしか生徒が行かんときもあったから交換生とは言わんのかもしれんがな。毎年一応希望者は募集していて1人まで行けるんじゃ。
だがまあ、うちの生徒でわざわざナイトレイブンカレッジに行こうとする物好きもおらんでの、希望したらだいたい行けると思っていいくらいじゃよ。」

「それは……とても、とても魅力的な話ですね。
ですが私は女ですし、男子校のナイトレイブンカレッジに行くのは難しいのではないでしょうか。」

「たしかに相手さんは男子校だが、要項には性別の制限はないぞ。だからまあ、なんだ、希望するだけしてみてはと思ってなあ……」

「すまんのお、こりゃ喜ぶと思ってちゃんと細かいところまで確認はしていなかったもんで……」

こんなチャンス逃していいわけがない。
「ありがとうございます。是非応募してみようと思います。」


――――――――――



司書のおじさんから話を聞き、すぐに交換生制度について調べることにした。
もし本当に叶うなら、きっと


「失礼します。ロバート先生、NRCへの交換生のことで聞きたいことがあるんですけど」
ざわついていた職員室が、シンと静まる

「ジゼル、今君なんと言ったんだ。」
「え、あのNRCへの交換生制度についてお聞きしたくて来ました。」

「本当かい?!本気でそう言ってるのかい?!まさかあのジゼルがホームルーム以外で話しかけてきてくれたと思ったら、NRCについてだって??それも交換生??いったいどうしたんだジゼル!図書館に通いすぎてとうとう頭を本に乗っ取られたんじゃないか?」

「いや別にそんな疑わなくても。」
「いいや疑うさ!本の虫が口を開いたと思えばあの野蛮なNRCについてだぞ?」

周りの先生たちもそうだそうだと頷いていた。
そこまでか。どれだけNRCが苦手なんだ。

「まあまあロバート先生。ジゼルさんもそこまで短慮ではないでしょう。ジゼルさんどうして交換生制度について知りたいの?」
フォローに入ってくれたのは妖精文字学のナターリア先生だった。

「ジゼルさんはとっても勉強熱心ですし、質問に来るときは必ず自分の中で何を聞くかまとまってから来るタイプだもの。ちゃんと目的があるはずです!」

「ははっ、その情熱を俺の授業にも向けていてくれたらすぐに信じられたでしょうね。ジゼル、実験での調合の腕前は素晴らしいが、普段の授業を座学だからといって眠るのはマナー違反だぜ。」

魔法薬学担当のロバートはやれやれと反論した。
ジゼルは研究に関する本を毎日夜遅くまで読んでいるせいで、研究とはあまり関係の無い理系科目で特に居眠りが目立ち、教師からはいつもつつかれていた。

「居眠りについては……善処します。」
「はあ……頼んだぞ。それでどうして交換生制度について聞こうと思ったんだ。」

「はい、私は今夕焼けの草原について研究しています。歴史についても調べていますが、特に夕焼けの草原の地理について調べたいんです。
ロイヤルソードには獣人の生徒がNRCほど多くいませんから出身の人の話は聞き終わってしまいました。蔵書にも限りがあって研究に行き詰まり困っていたら司書さんからこちらの交換留学について話を聞きました。それで是非交換生とし夕焼けの草原の生徒が多く、蔵書も豊かな向こうに通えたらと思いここに来ました。」


「なるほどな……。ということは君、図書館にある夕焼けの草原についての本は読み終わったのか?」
「はい。三週間前に全て読み終えました。」

「はぁ〜……君は本当に本の虫だよ。オーケー、交換生を希望する理由に納得がいった。向こうとも取り合ってみよう。」

「……本当ですか?」
「ああ勿論さ。入学して半年、こんなに熱心に研究に励んでいる生徒を蔑ろにはしないよ。ただ交換生として行けるようになるのは来年度からだ。向こうから返答が来るのと、交換生が決定するまではちゃんと授業を受けるんだぞ、俺の授業もな?」

「ふふっ、わかりました。ありがとうございます。」

笑顔のまま渡された紙に記入を終えた。


――――――――――


希望届けを出してから数ヶ月が経った。
だが残念なことにNRCからは何も連絡は返ってこなかった。

まあ、向こうは男子校だし無理もない。
悔しいけれど今は地道にRSAで調査を続けよう。
どれだけ年数がかかろうと答えを見つけられるのならそれでいい。

あれから読書量を減らし、きちんと授業を受けるように心がけ過ごしていた。交換生として行けなくても授業をちゃんと受けれるようになったので良かったのかもしれない。
ロバート先生はどうして何も返答してこないのかと怒ってくれた。少しだけ嬉しかった。


そうして、二学年目を迎えようとしていた。



しかし、これはいったいどういうことだ。

「いや〜連絡が遅くなって本当にすみませんね〜!まさかうちにロイヤルソードアカデミーから交換生が来てくれるだなんて!とても勉強熱心なんですね〜!私、感動しましたよ!」
なんだこの黒い男は。男は急に現れジゼルを馬車に押し込んだ。深海魚みたいな雰囲気のおかしな男だった。

「ジゼル・フィリスさん。あなたをナイトレイブンカレッジで学ぶことを許可します!」

「え、あ、はい……ありがとうございます。」

ガラガラと車輪の回る音が響く。


「か、寛大なご対応ありがとうございます、ナイトレイブンカレッジで学べるなんて嬉しい限りです。……あの、ところでどうしてこんなに遅い連絡になったのでしょうか。」

「実を言うとですね、最初は交換生を断るつもりだったんですよ。あなたは女性ですし、もし万が一何かあっては困りますからね。ただ……」

「ただ?」
「いえいえ、なんでもありませんよ。
(言えない。あのジジイとの口喧嘩が発端だなんて言ってはいけない。)」

「しかし私改めて思ったんです!わざわざRSAから学びたいと思ってこんな素晴らしい願書を送ってきてくれる生徒を無視してはいけないと!」
「ただ交換生として来た中で女子生徒は今回が初めてです。なのでもし何か困ったことがあれば教えてくださいね。きっと改善してみせますよ。私、優しいので!」
ありがたい限りだけど、胡散臭いんだよなあ……






「さあ!着きましたよ!」

「ここがナイトレイブンカレッジ……。」
厳かな佇まいだ。歴史を感じる外観で全体的に黒く暗い。
ロイヤルソードとは全く雰囲気が違う。
しかし深海のような落ち着きがありロイヤルソードよりも自分に合っていると感じた。

「さあさあ、急ぎますよ!この後はすぐにあなたの寮分けが待っています!」
「……?もしかして今日って、」
「ええ!今日はナイトレイブンカレッジの入学式ですよ!」

急展開すぎませんか、それ。


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