第2章(外殻大地編)
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35 もう森へは行かない
「では、なんとかして差し上げましょう」
「だ、誰だっ!?」
場違いなほど余裕たっぷりの声が響き、ルークたちは驚いてその方を振り返った。 ライガ・クイーンさえもが一瞬動きを止める。ユニとイオンは、ほとんど同時に安堵の溜息を漏らした。
戦場の屍をも避けずに踏んで往くのではないか。悠々と歩み寄ってきたのは、マルクトの蒼い軍服を纏った男だった。ジェイド・カーティス大佐である。
「詮索は後にして下さい。私が譜術で始末します。あなた方は私の詠唱時間を確保して下さい」
「偉そうに……」
「ルーク、あの人に任せるのよ」
「ちっ、わーったよ!」
文句を言いながらも、ルークはライガの攻撃を受け止め、ティアが援護の譜術を放ち、ユニも譜術で足止めをするのだった。そしてその間に、ジェイドは余裕の表情で、いつもより永く朗々と響かせ、詠唱を終えた。
「グランドダッシャー!!」
「うわ!」
地を這うその衝撃に、味方識別(マーキング)のないルークは思わず声をあげた。直撃を受けたライガ・クイーンは、耳に残る断末魔の叫びとともに、消滅した。
「おや、あっけなかったですね」
場違いなおどけた口調で、ジェイドは言った。ルークはぺたりとその場に座り込んでしまった。緊張が切れたのだろうか、譜術に度肝を抜かれたのだろうか。
「す、すげぇ……! なんだ今のは」
「ただの譜術士ではないわね……」
ティアが言い、探るようにジェイドの方を見た。一方のルークは、割れてしまった卵を見て地面に視線を落とし、そしてぽつりと呟いた。
「……けど、なんか後味悪いな」
「……優しいのね。それとも、甘いのかしら」
「なんだと……冷血女!」
「おやおや、痴話喧嘩ですか?」
険悪なムードを漂わせ始めた二人の間に、ジェイドが飄々とした調子で割り込んだ。
「だ、誰がだ!」
「カーティス大佐。私たちはそんな関係ではありません」
「冗談ですよ。それと、私のことはジェイドとお呼び下さい。ファミリーネームの方には、あまり馴染みがないものですから」
ルークたちは本気で怒った顔をしながらジェイドを睨みつけたが、彼はそれを無視してそのまま続けた。
「……ではジェイド大佐。先程はありがとうございました。助かりました」
ティアは丁寧に礼をしたが、ルークは「こいつに頼らなくてもオレだけで何とかなったんだよ。余計なことしやがって」と悪態をついた。
「差し出がましいとは思いましたが、見ていられなかったもので」
ジェイドが失笑を浮かべると、それがルークの癪に障ったようで、「けっ。やな奴!」と吐き捨てた。
次にジェイドは、呆然と固まったままのユニに歩み寄った。
「あ、ジェイド……」
「何をしているのですか、こんなところで」
やっとライガを倒せて落ち着いたと思ったが、この時ばかりは、ジェイドの方が恐ろしかったかもしれない。鋭い声にはいつものおどけた様子もなく、表情もまったく笑っていなかった。完全に怒っている。ユニは何も言えず、黙り込むことしか出来なかった。
「ジェイド、僕がユニに無理を言ってここまで連れてきてもらったんです。勝手なことをしてすみませんでした」
そんなユニをフォローするように、イオンが近付いてきた。その後ろには、いつの間に来たのだろうか、アニスもいて心配そうな顔でこちらを見ている。
「あなたらしくありませんね。悪いことと知っていてこのような振る舞いをなさるのは」
「チーグルは始祖ユリアと共にローレライ教団の礎です。彼らの不始末は僕が責任を負わなくては、と……」
「そのために能力を使いましたね? 医者から止められていたでしょう?」
「……すみません」
「しかも民間人を巻き込んだ」
「はい……」
ジェイドの声色はユニに対するものよりも優しかったが、重く受け止めたようにイオンは目を伏せる。
「……おい。謝ってんだろ、そいつ。いつまでもネチネチ言ってねぇで許してやれよ、おっさん」
やっと立ち上がったルークが、ジェイドの脇を通り抜けるときにそう言った。ジェイドもイオンもきょとんとして、彼の後姿を目で追う。
「おやー。巻き込まれたことを愚痴ると思っていたのですが、意外ですねぇ」
繁々と眺めるジェイドの隣で、イオンは目を瞬かせた。
「まあ時間もありませんし、これぐらいにしておきましょうか。アニース、ちょっとよろしいですか」
ジェイドはそう言って、イオンの背中にくっついていたアニスに声をかけた。
「はぁい、大佐。お呼びですかぁ」と出てきたアニスに、ひそひそと耳打ちをする。それに合わせるようにアニスはふんふんと頷いて、「……分かりました。その代わりイオン様をちゃんと見張ってて下さいねっ」と言って身を翻すと、小走りに先に駆けて行った。
その後ジェイドに事情を説明し、一緒にチーグルの長老のところへ向かった。ミュウは一族を追放されることになったが、かわりにルークに仕えることになった。
あれからの一連の出来事をユニはあまり関心を持って聞くことが出来なかった。というのも、ジェイドがまだ自分を許してくれている筈がないからである。
確かに、「森へ行きたい」と言いだしたのはイオンであり、ユニを押し切ったのもイオンである。しかし、ユニは彼を制止し、ジェイドやアニスに相談し、作戦に支障がないかどうか確認した上で、ここへ来るべきだった。そんなこと、わかっていたはずなのに。いや、わかっていたくせに過ちを犯したことが、なによりも罪深いのだ。
一行は森の入り口へ向かって歩いていた。ユニはジェイドの後ろについて歩いた。魔物と遭えばジェイドがすぐに譜術で一掃してしまう。彼は強い。魔物を含めた、きっとこの森にいる誰よりも。そのジェイドの怒りを買ってしまったのだ、足も震える。だがずっとこのままというわけにもいかない。ユニは一度ぎゅっと目を閉じてから、前を行くジェイドの軍服の裾を掴んだ。
「ジェイド」
「……なんでしょうか」
声に表情がないのがまた恐ろしかった。集団から少し離れて、二人は歩いた。時折イオンが心配そうにこちらを振り返ったが、ジェイドは彼に手を振って「大丈夫ですよ」と言ってみせるのだった。一体なにが大丈夫なのだろうか。
「さてユニ。……まだ私はあなたから言い訳も何も聞いていませんが」
「……はい。今回の件は、本当にすみませんでした」
「なぜイオン様を止めなかったのですか? 今がどういう状況かわかっている筈でしょう。それとも、これくらい大丈夫だと甘く見ていたのですか?」
「そう、ですね……」
なぜなのかは自分でもよくわからなかったが、ジェイドの言う通りなんだろうと思った。村からこっそり出て行こうとするイオンをみつけたとき、なにがなんでも彼を引きとめるべきだった。この任務に携わる者なら、誰もがそうしていただろう。
「まだ自覚が足りないようですねぇ。これは国の命運を背負った、大事な任務なのです。我々は何を犠牲してもその目的を達成させねばなりません。それ以外のことはすべて危険を増大させるだけの障害です。私的な感情など挟む余地はない」
「はい。わかって……」
「わかっていなかったではないですか」
聞く必要はない、とでもいうようにジェイドがユニの言葉を遮った。なにもかもジェイドの言うとおりだった。返す言葉がない。言い訳もない。謝罪の言葉さえ、彼にとっては無意味なものだろうと思えた。ユニはこれからの行動で、信頼を取り戻すしかない。
「まあ。今日のことはこれで終わりにしましょう。今後は気を付けてくださいね、ユニ」
「はい、わかってます。ジェイド」
「……タルタロスの作戦コードは頭に入れてありますか?」
「え?」
そこで突然ジェイドの声が低くなって、ユニは思わず足を止めた。「ユニ」と促され、はっとして小走りでジェイドに駆け寄る。
「は、はい。だいたいは」
「よろしい。ユニ、気を引き締めてください。どこがいつ戦場と化してもおかしくない。我々はそういうところまで来ているんです」
そうこうしているうちに早くも森の入り口へ戻ってきていた。「イオン様、大佐、ユニ~!」と呼ぶ声に顔をあげると、アニスが森を出たところでぶんぶんと大きく手を振っていた。
「おかえりなさ~い!」
「ご苦労様でした、アニス。タルタロスは?」
「ちゃんと森の前に来てますよぅ。大佐が大急ぎでって言うから、特急で頑張っちゃいました」
「!?」
アニスと合流すると、その瞬間、茂みから武装した兵が走り出て、ルークたちを取り囲んだ。それはマルクト軍の兵だったが、ユニとイオンは訳が分からず呆然としていた。
「そこの二人を捕らえなさい。正体不明の第七音素を放出していたのは、彼らです」
「おい! なにするんだ!? どういうことだよ!」
兵に取り押さえられたルークが思わず声を荒げたが、ジェイドはそれを無視して、森の外に目を向けた。
森から出てみると、戦艦タルタロスが待ち構えるように聳えていた。マルクト帝国の軍事力の強大さ、揺るぎ無さを物語るように、ひっそりとそこにいた。ずっとそれに乗っていたのに、今は脅威にしか思えなかった。
「ジェイド、二人に乱暴なことは……」
「ご安心ください、イオン様。何も殺そうというわけではありませんから」
不安そうな表情のイオンにそう言って、ジェイドは低い声で最後に付け加えた。
「……二人が暴れなければですけどね」
「……!」
考えの読めない表情で言われ、ルークとティアは揃って沈黙した。ユニですら足が竦んだ。「いい子ですねぇ」と微笑む彼は、一体何をしようとしているのか。物々しい雰囲気に、ユニは思わず彼の腕を掴んだ。
「ジェイド! これは、どういう……」
怯える手に重ねられた彼の手は、やけにひんやりとしていて、ユニの熱を一気に吸収していくようだった。
「大丈夫です、後で説明します――連行せよ!」
「では、なんとかして差し上げましょう」
「だ、誰だっ!?」
場違いなほど余裕たっぷりの声が響き、ルークたちは驚いてその方を振り返った。 ライガ・クイーンさえもが一瞬動きを止める。ユニとイオンは、ほとんど同時に安堵の溜息を漏らした。
戦場の屍をも避けずに踏んで往くのではないか。悠々と歩み寄ってきたのは、マルクトの蒼い軍服を纏った男だった。ジェイド・カーティス大佐である。
「詮索は後にして下さい。私が譜術で始末します。あなた方は私の詠唱時間を確保して下さい」
「偉そうに……」
「ルーク、あの人に任せるのよ」
「ちっ、わーったよ!」
文句を言いながらも、ルークはライガの攻撃を受け止め、ティアが援護の譜術を放ち、ユニも譜術で足止めをするのだった。そしてその間に、ジェイドは余裕の表情で、いつもより永く朗々と響かせ、詠唱を終えた。
「グランドダッシャー!!」
「うわ!」
地を這うその衝撃に、味方識別(マーキング)のないルークは思わず声をあげた。直撃を受けたライガ・クイーンは、耳に残る断末魔の叫びとともに、消滅した。
「おや、あっけなかったですね」
場違いなおどけた口調で、ジェイドは言った。ルークはぺたりとその場に座り込んでしまった。緊張が切れたのだろうか、譜術に度肝を抜かれたのだろうか。
「す、すげぇ……! なんだ今のは」
「ただの譜術士ではないわね……」
ティアが言い、探るようにジェイドの方を見た。一方のルークは、割れてしまった卵を見て地面に視線を落とし、そしてぽつりと呟いた。
「……けど、なんか後味悪いな」
「……優しいのね。それとも、甘いのかしら」
「なんだと……冷血女!」
「おやおや、痴話喧嘩ですか?」
険悪なムードを漂わせ始めた二人の間に、ジェイドが飄々とした調子で割り込んだ。
「だ、誰がだ!」
「カーティス大佐。私たちはそんな関係ではありません」
「冗談ですよ。それと、私のことはジェイドとお呼び下さい。ファミリーネームの方には、あまり馴染みがないものですから」
ルークたちは本気で怒った顔をしながらジェイドを睨みつけたが、彼はそれを無視してそのまま続けた。
「……ではジェイド大佐。先程はありがとうございました。助かりました」
ティアは丁寧に礼をしたが、ルークは「こいつに頼らなくてもオレだけで何とかなったんだよ。余計なことしやがって」と悪態をついた。
「差し出がましいとは思いましたが、見ていられなかったもので」
ジェイドが失笑を浮かべると、それがルークの癪に障ったようで、「けっ。やな奴!」と吐き捨てた。
次にジェイドは、呆然と固まったままのユニに歩み寄った。
「あ、ジェイド……」
「何をしているのですか、こんなところで」
やっとライガを倒せて落ち着いたと思ったが、この時ばかりは、ジェイドの方が恐ろしかったかもしれない。鋭い声にはいつものおどけた様子もなく、表情もまったく笑っていなかった。完全に怒っている。ユニは何も言えず、黙り込むことしか出来なかった。
「ジェイド、僕がユニに無理を言ってここまで連れてきてもらったんです。勝手なことをしてすみませんでした」
そんなユニをフォローするように、イオンが近付いてきた。その後ろには、いつの間に来たのだろうか、アニスもいて心配そうな顔でこちらを見ている。
「あなたらしくありませんね。悪いことと知っていてこのような振る舞いをなさるのは」
「チーグルは始祖ユリアと共にローレライ教団の礎です。彼らの不始末は僕が責任を負わなくては、と……」
「そのために能力を使いましたね? 医者から止められていたでしょう?」
「……すみません」
「しかも民間人を巻き込んだ」
「はい……」
ジェイドの声色はユニに対するものよりも優しかったが、重く受け止めたようにイオンは目を伏せる。
「……おい。謝ってんだろ、そいつ。いつまでもネチネチ言ってねぇで許してやれよ、おっさん」
やっと立ち上がったルークが、ジェイドの脇を通り抜けるときにそう言った。ジェイドもイオンもきょとんとして、彼の後姿を目で追う。
「おやー。巻き込まれたことを愚痴ると思っていたのですが、意外ですねぇ」
繁々と眺めるジェイドの隣で、イオンは目を瞬かせた。
「まあ時間もありませんし、これぐらいにしておきましょうか。アニース、ちょっとよろしいですか」
ジェイドはそう言って、イオンの背中にくっついていたアニスに声をかけた。
「はぁい、大佐。お呼びですかぁ」と出てきたアニスに、ひそひそと耳打ちをする。それに合わせるようにアニスはふんふんと頷いて、「……分かりました。その代わりイオン様をちゃんと見張ってて下さいねっ」と言って身を翻すと、小走りに先に駆けて行った。
その後ジェイドに事情を説明し、一緒にチーグルの長老のところへ向かった。ミュウは一族を追放されることになったが、かわりにルークに仕えることになった。
あれからの一連の出来事をユニはあまり関心を持って聞くことが出来なかった。というのも、ジェイドがまだ自分を許してくれている筈がないからである。
確かに、「森へ行きたい」と言いだしたのはイオンであり、ユニを押し切ったのもイオンである。しかし、ユニは彼を制止し、ジェイドやアニスに相談し、作戦に支障がないかどうか確認した上で、ここへ来るべきだった。そんなこと、わかっていたはずなのに。いや、わかっていたくせに過ちを犯したことが、なによりも罪深いのだ。
一行は森の入り口へ向かって歩いていた。ユニはジェイドの後ろについて歩いた。魔物と遭えばジェイドがすぐに譜術で一掃してしまう。彼は強い。魔物を含めた、きっとこの森にいる誰よりも。そのジェイドの怒りを買ってしまったのだ、足も震える。だがずっとこのままというわけにもいかない。ユニは一度ぎゅっと目を閉じてから、前を行くジェイドの軍服の裾を掴んだ。
「ジェイド」
「……なんでしょうか」
声に表情がないのがまた恐ろしかった。集団から少し離れて、二人は歩いた。時折イオンが心配そうにこちらを振り返ったが、ジェイドは彼に手を振って「大丈夫ですよ」と言ってみせるのだった。一体なにが大丈夫なのだろうか。
「さてユニ。……まだ私はあなたから言い訳も何も聞いていませんが」
「……はい。今回の件は、本当にすみませんでした」
「なぜイオン様を止めなかったのですか? 今がどういう状況かわかっている筈でしょう。それとも、これくらい大丈夫だと甘く見ていたのですか?」
「そう、ですね……」
なぜなのかは自分でもよくわからなかったが、ジェイドの言う通りなんだろうと思った。村からこっそり出て行こうとするイオンをみつけたとき、なにがなんでも彼を引きとめるべきだった。この任務に携わる者なら、誰もがそうしていただろう。
「まだ自覚が足りないようですねぇ。これは国の命運を背負った、大事な任務なのです。我々は何を犠牲してもその目的を達成させねばなりません。それ以外のことはすべて危険を増大させるだけの障害です。私的な感情など挟む余地はない」
「はい。わかって……」
「わかっていなかったではないですか」
聞く必要はない、とでもいうようにジェイドがユニの言葉を遮った。なにもかもジェイドの言うとおりだった。返す言葉がない。言い訳もない。謝罪の言葉さえ、彼にとっては無意味なものだろうと思えた。ユニはこれからの行動で、信頼を取り戻すしかない。
「まあ。今日のことはこれで終わりにしましょう。今後は気を付けてくださいね、ユニ」
「はい、わかってます。ジェイド」
「……タルタロスの作戦コードは頭に入れてありますか?」
「え?」
そこで突然ジェイドの声が低くなって、ユニは思わず足を止めた。「ユニ」と促され、はっとして小走りでジェイドに駆け寄る。
「は、はい。だいたいは」
「よろしい。ユニ、気を引き締めてください。どこがいつ戦場と化してもおかしくない。我々はそういうところまで来ているんです」
そうこうしているうちに早くも森の入り口へ戻ってきていた。「イオン様、大佐、ユニ~!」と呼ぶ声に顔をあげると、アニスが森を出たところでぶんぶんと大きく手を振っていた。
「おかえりなさ~い!」
「ご苦労様でした、アニス。タルタロスは?」
「ちゃんと森の前に来てますよぅ。大佐が大急ぎでって言うから、特急で頑張っちゃいました」
「!?」
アニスと合流すると、その瞬間、茂みから武装した兵が走り出て、ルークたちを取り囲んだ。それはマルクト軍の兵だったが、ユニとイオンは訳が分からず呆然としていた。
「そこの二人を捕らえなさい。正体不明の第七音素を放出していたのは、彼らです」
「おい! なにするんだ!? どういうことだよ!」
兵に取り押さえられたルークが思わず声を荒げたが、ジェイドはそれを無視して、森の外に目を向けた。
森から出てみると、戦艦タルタロスが待ち構えるように聳えていた。マルクト帝国の軍事力の強大さ、揺るぎ無さを物語るように、ひっそりとそこにいた。ずっとそれに乗っていたのに、今は脅威にしか思えなかった。
「ジェイド、二人に乱暴なことは……」
「ご安心ください、イオン様。何も殺そうというわけではありませんから」
不安そうな表情のイオンにそう言って、ジェイドは低い声で最後に付け加えた。
「……二人が暴れなければですけどね」
「……!」
考えの読めない表情で言われ、ルークとティアは揃って沈黙した。ユニですら足が竦んだ。「いい子ですねぇ」と微笑む彼は、一体何をしようとしているのか。物々しい雰囲気に、ユニは思わず彼の腕を掴んだ。
「ジェイド! これは、どういう……」
怯える手に重ねられた彼の手は、やけにひんやりとしていて、ユニの熱を一気に吸収していくようだった。
「大丈夫です、後で説明します――連行せよ!」