第1章(過去編)
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08 最初のはずれくじ
ユニの突然の異動は、宮殿内でしばらく注目の的となった。昨日までの一介の庭師が、今日は皇帝直属のお世話係に。ユニをよく知る人々は混乱せずにはいられなかったが、いつの間にかすんなりと受け入れられ、ピオニーの周りのお偉い方々にも顔を覚えてもらえるようになった。大出世したユニを妬む者もいたが、ユニ自身の生活にあまりに変化がないので、「実は大したことのないお給料なのでは」と察せられ、この話題が盛り上がることもなかった。
庭仕事をしていたときの同僚たちとは、たまに花の品種改良の話をしたり、ご飯を食べに行ったりする。以前と変わらずに接してくれるのは、もともと友人の少ないユニにとって本当にありがたかった。
ただ、フィルに限っては、会うたびに「陛下と会わせろ」とせがんでくるので少し困っているのだけど。
ユニの「おもしろくなくとも完全だった日常」は、はじめての小さな恋によって大きくひび割れた。
完全のように思えていたユニの周りの世界は、「彼」の存在を知ってからは少しも魅力のないものへと変わってしまった。それなのに、ユニの宇宙を広げた彼は、広げたままで去ってしまい、もう手が届かない。
欲しいものがなくなったユニは人生そのものへの執着を失くしてしまったが、幸運にも、彼女の環境をまるごと変えてくれる人と出会えたのだった。
ユニは、ピオニーにとても感謝している。
もしも彼がいなかったら……と考えただけでも恐ろしい。命を救ってくれたうえ、こうしてユニの面倒まで見てくれているのだから(実際はユニが彼の面倒を見ているのだが)。
ちなみに、今の仕事は、退屈と煌めきで日々彩られていた。毎日のように散らかされるピオニーの部屋を、毎日のように掃除する。愛らしいほどの堂々巡り。それだけだった。
けれども、ピオニーをはじめ、たくさんの魅力的な人との出会いがあり、それはとても充実していて、例の花畑で暇をつぶすことすら忘れていた。
「おーい、ユニ。実は仕事を増やしてしまった」
いつものように彼のいない間に部屋の掃除をしていると、この時間は外出している予定だったピオニーがひょっこり顔を出した。ユニは手に持っていた本を置き、溜息をついて向き直る。
「なんですか? まだお部屋の掃除が途中ですけど」
「そんなもんいいから、はやく軍部に行ってきてくれ」
「へ?」
「軍にジェイドってやつがいるだろ?」
ピオニーは少年のようにへらへらと笑った。
「……もしかして、死霊使い(ネクロマンサー)……?」
「ん?」
「あ、いえ、存じ上げております」
「なら話は早い。今、少しくらいいいよな? 実はさっきあいつの部屋で探しものをしていて……みつかったんだが、かなり散らかしてしまってだなぁ」
「……」
「そろそろ遠征から帰ってくるはずなんだ。怒られる前にささっと片付けてきてくれ」
ピオニーは笑顔で近づくと、ユニの肩を力強く掴んだ。彼が口にした名前には若干の不安を覚えるものの、ユニは彼のこの向日葵みたいな笑顔がすごく好きなので、思わず頷いてしまうのだった。
(陛下の頼みだから断れないけど……嫌だなぁ、死霊使いさまの部屋なんて……)
ユニは案内の兵士に連れられて、びくびくしながらマルクト軍基地を歩いていた。この場所の、軍独特のぴりぴりした緊張感は苦手だった。加えて、行き先はあの高名な死霊使いの部屋。ユニがピオニーの傍におかれるようになった頃から長期遠征に出ていたらしく、まだ一度も顔を合わせたことがなかった。陛下の懐刀だという噂はよく聞く。だからきっと悪い人ではないと思うのだけど、彼の二つ名にはあまりいい印象をもてない。
「カーティス大佐の執務室はこちらです」
「ひっ」
部屋には仄暗く光る蝋燭、死体コレクションや禁断の魔術書が――とホラーな想像をしていたユニは、急に声をかけられてギクリとした。兵士は不思議そうな顔をしていたので、ユニは笑って誤魔化す。
「あの、確かシェフィールドさんといいましたね?」
すると兵士はユニに近寄って、声を落として尋ねた。
「そうですが?」
「その……」
言いにくそうにする兵士の表情を見て、ユニには彼の言いたいことがだいたいわかってしまった。
「……わたしの両親は昔、軍にいたことがあったらしいですね。お知り合いですか?」
「い、いえ……やはりそうですか。すみません」
(この人も……か……)
ぶつぶつと呟くと、彼は黙り込んでしまった。ユニは小さい頃から何度も、こういった光景を目にしている。
その先を尋ねても、誰も話してくれない。ただみんな悲しそうな顔をして謝るだけなのだ。だからユニは、他人に両親のことは訊かない。聞いてもどうにもならないことで、誰かの悲しい顔を見たいとは思わないから。
そそくさと帰っていった兵士の足音が聞こえなくなっても、ユニはまだ扉を開けられずにいた。
(どうせなら陛下に一緒に来てもらえばよかった)
血や死体といった類が一切ダメなユニは、この一枚の扉の先に余計な不安を抱かずにはいられなかった。なにか恐ろしいものが飛び出してきて、卒倒してしまったらどうしよう、ピオニーの頼みごとは守れないし、死霊使いに目をつけられるかもしれないし。
(わたし……ピンチかもしれない)
硬直したまま前にも後ろにも動かない気弱な足が恨めしい。誰か適当な兵士をつかまえて、一緒に入ってもらおうかと首を回したとき、ふとあることに気付く。
(ん? でも……)
急にふってきた疑問があった。よく考えてみれば、いくらなんでもあのピオニー陛下が、死体だらけの部屋を好んで訪れるわけがない。
(そうだ。死霊使いだけど、陛下のお友達。陛下のお友達の死霊使い……)
そう唱えていたら、少し気持ちが落ち着いた。これならなんとかいけそうだ。
「よ、よし……では、失礼いたします!」
ぎゅ、と目を瞑って、ユニは一気に扉を開いた。返事はあるはずもなく、部屋はしんと静まり返っていた。もちろん、死体などは一体もないわけで。そのかわり――
「う、うわ、さすが陛下……」
ただ捜し物をするだけでここまで部屋をぐちゃぐちゃに出来るとは、もはや一種の才能だった。床に散乱した本たちが、いつものようにユニを迎えている。
「んじゃ、やりますかー……」
妙な使命感にとりつかれたユニは、頭を抱えながらも、本や物をあるべき場所に戻し始めるのだった。
二時間後、そこはようやく本来の姿を取り戻した。ユニは満足げに息を吐き出して、部屋を見渡す。ピオニーが散らかしたと思われるものはもちろん、例の大佐が残していったのであろう書類なども全部きれいに片付けてやった。
「ふはは、どうだ! 見たか死霊使いジェイド!」
本人の前では決して言えないようなことを口にして、さらに達成感が増した。頼まれた仕事もすっかり終わったので、このままいい気分で帰ろうと扉の方を向いた。
しかし、すぐにまた振り返る。
「……?」
棚に詰め込まれた本の間に、何かが不自然に挟まっていた。ユニが片付けた段とは違う、もとからあったものだ。悪いとは思いつつも興味という名の誘惑に負け、ユニは近付いてそれを抜き出した。
「……写真だ」
それは古ぼけて色褪せた写真だった。見ると、四人の子供が雪景色を背にして写っている。どういうわけか、みんなそれぞれ考えていること、見ている先がまったく違うような印象を受ける。
しかしその中のひとりにユニは見覚えがあり、思わず微笑んでしまう。
「もしかして陛下? かわいい……」
他の三人と比べると健康そうな肌の色、鮮やかな金髪、いたずらっぽいウインク……すべて今の彼に繋がった。これは間違いなくあのピオニー・ウパラ・マルクトの少年時代だろう。小さいときの彼も、きっと明るくて調子のいい子だったことが、容易に想像できる。
「じゃあ、このつまんなそうな子がカーティス大佐かな?」
この人の部屋にあったのだから、彼がいなければ不自然である。ユニはイメージに一番合う子に彼をあてはめた。子どもたちの中で一番性格が捻じ曲がっていそうな感じがするとはいえ、やはり可愛らしい。
「死霊使い様にもこんなかわいい頃があったんだね~」
もしかすると彼は、二つ名のほど怖い人物ではないのかもしれない。この写真から想像すると本当にピオニーの幼馴染みで、そして今でもきちんと交流があって。ピオニーの大切な友人ならば、きっと仲良くなれるはずだ。
「それと、すっごくかわいい女の子と、鼻水たらした男の子……うーん、この二人はわかんないな」
まあ、それでも、彼がまともな人物だとわかっただけで大収穫だ。
「陛下、ただいま戻りました」
「ご苦労、ユニ。遅かったから少し心配したぞ」
ピオニーの私室に戻ると、案の定、先ほど片付けたばかりの部屋は見る影もなく散らかされていた。ユニは「またか」と苦笑いをするが、ぽかぽかした温かい気持ちは消えなかった。
「ふふ……」
「なんだ?」
先ほどの古い写真を思い出して、ユニは思わずはにかんでしまう。あのいたずら好きそうな明朗な少年が、今は目の前にいて、ユニの大好きな尊敬すべき人になったのだ。
あの頃、誰が彼にそんな未来を視ていただろうか。
「陛下って昔からかわいかったんですねえ」
「……ん? まぁな」
「ふふ」
わけがわからなくとも頷いたピオニーがおもしろくて、ユニはまた笑った。
「あとカーティス大佐にも、意外とかわいい頃があったんですね」
「あいつが? ってなんでお前がそんなこと知ってるんだ」
ピオニーは不思議そうな顔をして「部屋でなんかあったのか?」と聞いてきたが、ユニははぐらかすばかりだった。
◇
ユニがジェイドの部屋を掃除した翌日、彼はグランコクマに帰還した。
久々に戻った執務室は「どうせどこかの誰かに荒らされているのでしょう」と予想して入ったにもかかわらず、なぜか自分が出て行った時よりも綺麗に整理されていて驚いたらしい。
奇妙なことに、執務机の上には彼が子どもの頃の古い写真が飾ってあった。しかも彼の所有物ではない、色とりどりの花で縁取ったフレームに入れられて。
「ふむ……気味が悪いですねえ」
とある少女の厚意はこの一言によってあっという間に掻き消されたということを、当の本人はまだ知らない。
ユニの突然の異動は、宮殿内でしばらく注目の的となった。昨日までの一介の庭師が、今日は皇帝直属のお世話係に。ユニをよく知る人々は混乱せずにはいられなかったが、いつの間にかすんなりと受け入れられ、ピオニーの周りのお偉い方々にも顔を覚えてもらえるようになった。大出世したユニを妬む者もいたが、ユニ自身の生活にあまりに変化がないので、「実は大したことのないお給料なのでは」と察せられ、この話題が盛り上がることもなかった。
庭仕事をしていたときの同僚たちとは、たまに花の品種改良の話をしたり、ご飯を食べに行ったりする。以前と変わらずに接してくれるのは、もともと友人の少ないユニにとって本当にありがたかった。
ただ、フィルに限っては、会うたびに「陛下と会わせろ」とせがんでくるので少し困っているのだけど。
ユニの「おもしろくなくとも完全だった日常」は、はじめての小さな恋によって大きくひび割れた。
完全のように思えていたユニの周りの世界は、「彼」の存在を知ってからは少しも魅力のないものへと変わってしまった。それなのに、ユニの宇宙を広げた彼は、広げたままで去ってしまい、もう手が届かない。
欲しいものがなくなったユニは人生そのものへの執着を失くしてしまったが、幸運にも、彼女の環境をまるごと変えてくれる人と出会えたのだった。
ユニは、ピオニーにとても感謝している。
もしも彼がいなかったら……と考えただけでも恐ろしい。命を救ってくれたうえ、こうしてユニの面倒まで見てくれているのだから(実際はユニが彼の面倒を見ているのだが)。
ちなみに、今の仕事は、退屈と煌めきで日々彩られていた。毎日のように散らかされるピオニーの部屋を、毎日のように掃除する。愛らしいほどの堂々巡り。それだけだった。
けれども、ピオニーをはじめ、たくさんの魅力的な人との出会いがあり、それはとても充実していて、例の花畑で暇をつぶすことすら忘れていた。
「おーい、ユニ。実は仕事を増やしてしまった」
いつものように彼のいない間に部屋の掃除をしていると、この時間は外出している予定だったピオニーがひょっこり顔を出した。ユニは手に持っていた本を置き、溜息をついて向き直る。
「なんですか? まだお部屋の掃除が途中ですけど」
「そんなもんいいから、はやく軍部に行ってきてくれ」
「へ?」
「軍にジェイドってやつがいるだろ?」
ピオニーは少年のようにへらへらと笑った。
「……もしかして、死霊使い(ネクロマンサー)……?」
「ん?」
「あ、いえ、存じ上げております」
「なら話は早い。今、少しくらいいいよな? 実はさっきあいつの部屋で探しものをしていて……みつかったんだが、かなり散らかしてしまってだなぁ」
「……」
「そろそろ遠征から帰ってくるはずなんだ。怒られる前にささっと片付けてきてくれ」
ピオニーは笑顔で近づくと、ユニの肩を力強く掴んだ。彼が口にした名前には若干の不安を覚えるものの、ユニは彼のこの向日葵みたいな笑顔がすごく好きなので、思わず頷いてしまうのだった。
(陛下の頼みだから断れないけど……嫌だなぁ、死霊使いさまの部屋なんて……)
ユニは案内の兵士に連れられて、びくびくしながらマルクト軍基地を歩いていた。この場所の、軍独特のぴりぴりした緊張感は苦手だった。加えて、行き先はあの高名な死霊使いの部屋。ユニがピオニーの傍におかれるようになった頃から長期遠征に出ていたらしく、まだ一度も顔を合わせたことがなかった。陛下の懐刀だという噂はよく聞く。だからきっと悪い人ではないと思うのだけど、彼の二つ名にはあまりいい印象をもてない。
「カーティス大佐の執務室はこちらです」
「ひっ」
部屋には仄暗く光る蝋燭、死体コレクションや禁断の魔術書が――とホラーな想像をしていたユニは、急に声をかけられてギクリとした。兵士は不思議そうな顔をしていたので、ユニは笑って誤魔化す。
「あの、確かシェフィールドさんといいましたね?」
すると兵士はユニに近寄って、声を落として尋ねた。
「そうですが?」
「その……」
言いにくそうにする兵士の表情を見て、ユニには彼の言いたいことがだいたいわかってしまった。
「……わたしの両親は昔、軍にいたことがあったらしいですね。お知り合いですか?」
「い、いえ……やはりそうですか。すみません」
(この人も……か……)
ぶつぶつと呟くと、彼は黙り込んでしまった。ユニは小さい頃から何度も、こういった光景を目にしている。
その先を尋ねても、誰も話してくれない。ただみんな悲しそうな顔をして謝るだけなのだ。だからユニは、他人に両親のことは訊かない。聞いてもどうにもならないことで、誰かの悲しい顔を見たいとは思わないから。
そそくさと帰っていった兵士の足音が聞こえなくなっても、ユニはまだ扉を開けられずにいた。
(どうせなら陛下に一緒に来てもらえばよかった)
血や死体といった類が一切ダメなユニは、この一枚の扉の先に余計な不安を抱かずにはいられなかった。なにか恐ろしいものが飛び出してきて、卒倒してしまったらどうしよう、ピオニーの頼みごとは守れないし、死霊使いに目をつけられるかもしれないし。
(わたし……ピンチかもしれない)
硬直したまま前にも後ろにも動かない気弱な足が恨めしい。誰か適当な兵士をつかまえて、一緒に入ってもらおうかと首を回したとき、ふとあることに気付く。
(ん? でも……)
急にふってきた疑問があった。よく考えてみれば、いくらなんでもあのピオニー陛下が、死体だらけの部屋を好んで訪れるわけがない。
(そうだ。死霊使いだけど、陛下のお友達。陛下のお友達の死霊使い……)
そう唱えていたら、少し気持ちが落ち着いた。これならなんとかいけそうだ。
「よ、よし……では、失礼いたします!」
ぎゅ、と目を瞑って、ユニは一気に扉を開いた。返事はあるはずもなく、部屋はしんと静まり返っていた。もちろん、死体などは一体もないわけで。そのかわり――
「う、うわ、さすが陛下……」
ただ捜し物をするだけでここまで部屋をぐちゃぐちゃに出来るとは、もはや一種の才能だった。床に散乱した本たちが、いつものようにユニを迎えている。
「んじゃ、やりますかー……」
妙な使命感にとりつかれたユニは、頭を抱えながらも、本や物をあるべき場所に戻し始めるのだった。
二時間後、そこはようやく本来の姿を取り戻した。ユニは満足げに息を吐き出して、部屋を見渡す。ピオニーが散らかしたと思われるものはもちろん、例の大佐が残していったのであろう書類なども全部きれいに片付けてやった。
「ふはは、どうだ! 見たか死霊使いジェイド!」
本人の前では決して言えないようなことを口にして、さらに達成感が増した。頼まれた仕事もすっかり終わったので、このままいい気分で帰ろうと扉の方を向いた。
しかし、すぐにまた振り返る。
「……?」
棚に詰め込まれた本の間に、何かが不自然に挟まっていた。ユニが片付けた段とは違う、もとからあったものだ。悪いとは思いつつも興味という名の誘惑に負け、ユニは近付いてそれを抜き出した。
「……写真だ」
それは古ぼけて色褪せた写真だった。見ると、四人の子供が雪景色を背にして写っている。どういうわけか、みんなそれぞれ考えていること、見ている先がまったく違うような印象を受ける。
しかしその中のひとりにユニは見覚えがあり、思わず微笑んでしまう。
「もしかして陛下? かわいい……」
他の三人と比べると健康そうな肌の色、鮮やかな金髪、いたずらっぽいウインク……すべて今の彼に繋がった。これは間違いなくあのピオニー・ウパラ・マルクトの少年時代だろう。小さいときの彼も、きっと明るくて調子のいい子だったことが、容易に想像できる。
「じゃあ、このつまんなそうな子がカーティス大佐かな?」
この人の部屋にあったのだから、彼がいなければ不自然である。ユニはイメージに一番合う子に彼をあてはめた。子どもたちの中で一番性格が捻じ曲がっていそうな感じがするとはいえ、やはり可愛らしい。
「死霊使い様にもこんなかわいい頃があったんだね~」
もしかすると彼は、二つ名のほど怖い人物ではないのかもしれない。この写真から想像すると本当にピオニーの幼馴染みで、そして今でもきちんと交流があって。ピオニーの大切な友人ならば、きっと仲良くなれるはずだ。
「それと、すっごくかわいい女の子と、鼻水たらした男の子……うーん、この二人はわかんないな」
まあ、それでも、彼がまともな人物だとわかっただけで大収穫だ。
「陛下、ただいま戻りました」
「ご苦労、ユニ。遅かったから少し心配したぞ」
ピオニーの私室に戻ると、案の定、先ほど片付けたばかりの部屋は見る影もなく散らかされていた。ユニは「またか」と苦笑いをするが、ぽかぽかした温かい気持ちは消えなかった。
「ふふ……」
「なんだ?」
先ほどの古い写真を思い出して、ユニは思わずはにかんでしまう。あのいたずら好きそうな明朗な少年が、今は目の前にいて、ユニの大好きな尊敬すべき人になったのだ。
あの頃、誰が彼にそんな未来を視ていただろうか。
「陛下って昔からかわいかったんですねえ」
「……ん? まぁな」
「ふふ」
わけがわからなくとも頷いたピオニーがおもしろくて、ユニはまた笑った。
「あとカーティス大佐にも、意外とかわいい頃があったんですね」
「あいつが? ってなんでお前がそんなこと知ってるんだ」
ピオニーは不思議そうな顔をして「部屋でなんかあったのか?」と聞いてきたが、ユニははぐらかすばかりだった。
◇
ユニがジェイドの部屋を掃除した翌日、彼はグランコクマに帰還した。
久々に戻った執務室は「どうせどこかの誰かに荒らされているのでしょう」と予想して入ったにもかかわらず、なぜか自分が出て行った時よりも綺麗に整理されていて驚いたらしい。
奇妙なことに、執務机の上には彼が子どもの頃の古い写真が飾ってあった。しかも彼の所有物ではない、色とりどりの花で縁取ったフレームに入れられて。
「ふむ……気味が悪いですねえ」
とある少女の厚意はこの一言によってあっという間に掻き消されたということを、当の本人はまだ知らない。