アリティアの蒼き剣(feカイン 凍結)
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最終試験の朝、クリスは朝、いつもより早く目覚めた。同じ小部屋にはセシル、カタリナが。隣の部屋には男性陣がいる。今日は試験であり、既に騎士であるゴードンと見習い志望ではないリフの力は借りられない、完全にこの第七小隊だけでの闘いとなる。相手はまだ聞いていないが、なんとなく予想がつく。身近にいながら一度も模擬戦闘を行ったことがないのは、フレイとカインだけだった。そうなると、最後に実力を確かめてくれるのはおそらく実技担当のカインに違いないだろう。
「ふぅ、大丈夫よ、必ず突破できる」
たとえ相手がカインだとしても。
自分が騎士になった日のことを思い浮かべてみる。マルスの近衛兵として周辺の警備や世話を行うとともに、もし王宮に何かあれば自分は教官や先輩たちとも肩を並べて戦うことになるだろう。あるいは、外で何かが起こったとき、他の皆は自分に王子の身を託し遠征することになる。なんにしても、自分は将来、カインたちと対等の力を持ち信頼されなければならない。だから今日は、本気で勝ちにいかなければならない。
「クリス」
「セシル、おはよう。まだ早いわよ」
「昨日は早めに寝たから。目が覚めたわ。ついに今日が…」
セシルは頭をぐしゃぐしゃにして、わくわくしたような表情を浮かべていた。
「前の小隊がつぶれた時、本当にもうだめかと思ったわ。だから、カタリナが誘ってくれて、本当にうれしかった。ここにはクリスもいるしね。最後の何週間か、あなたと訓練できて、力が付いたと実感しているのよ」
「セシル、あなた本当によくついてきたわよね、あの訓練」
「死にかけたわよ! でも死んじゃいないわ」
セシルはそういってくすくす笑った。それから、何か思い出したように手招きをした。
「ねえ、ハチマキしてみない? 気合入るわよ」
「ほんと? 実は、結ぶには短いけれど髪が伸びてきて、ちょっと邪魔におもってたの」
切りに行く時間もなく鬱陶しく思っていたのだ。セシルは慣れた様子で髪を整え、ハチマキを巻いてくれた。そうしているうちにカタリナも目覚め、着替えた三人は食堂に向かった。食堂にはすでにライアン、ロディ、ルークが座っていた。
「みんな、おはよう」
「あ、クリスさん、セシルさんとおそろいなんですね」
「ええ、ライアン。調子いいわ!」
珍しくルークは何も突っ込みを入れず、ちょっと青くなったりしていた。
「ロディ、あなたの友達、なんだか調子悪そうね」
「もう三度もトイレに行ったよ」
「ばらすなよ!」
「あなた意外とガラスのハートなのね?」
「うるせぇな、始まればすぐいつもの暁のルーク様に戻るってぇの!」
ルークはばしばし机をたたき、不服そうに訴えた。
「まぁみんな、緊張はするわよね。私も今ドキドキしているもの。でも、今までやってきたことはすべて力になってる。いつものとおりよ」
ライアン、ルーク、ロディ、カタリナ、セシルを見回した。みんなはそれぞれの決意を胸に頷いた。
***
試験会場はアリティア城のすぐ近くの演習場だった。まだ使ったことのない演習場だ。そこまでを案内してくれたのは講義を担当したフレイだった。ということはやはり、最後の相手はカインなのだろうか。
第七小隊はフレイの指示で南側の配置についた。そこへ、前方から馬の掛ける音が聞こえてきた。それは赤い甲冑に身を包んだアリティアの猛牛だった。
「クリス率いる第七小隊、よくぞここまで戦い抜いてきた。教官として俺もうれしい! 本日をもって最終試験とする。試験官はジェイガン様、フレイ殿、そしてお前たち最後の相手となるこの俺、アリティア騎士カインだ!」
第七小隊はこくりとつばを飲み込んだ。ルークは緊張で汗ばむ手をぬぐい、剣を握りなおす。クリスは一心に最後の敵を見つめた。
「騎士らしい熱い戦いを見せてみろ!」
「はい!!」
最後にちらりと、カインと視線が交わった。彼はさっと自陣に引き返して行った。十分に時間を取った後で、ジェイガンがサンダーソードで空に雷を放った。そしてこれが試験開始の合図だった。
演練場は低い壁に囲まれており、その中で互いの陣地を目指すことが目的とされている。今回の演練場は飛び越えられないほどの川や池に面している。その川と池の間には休息地である小さな砦がある。砦は目視できるだけで四つほどあるようだ。今までの演練場の中で最も広く、障害物の多い設置になっている。まずは前方からアーマーナイトと剣士が飛び込んでくる、一同は十分に引き付けたうえで一気に攻撃を仕掛けた。それから前方へ進み、ペガサスナイトを引き付けライアンが攻撃を食らわせた。
*
「なかなかの連携だ、無理に飛び出さないところも評価できる。最終試験となれば、とにかく突っ込んでくる奴らは毎年多いからな」
一方、カインは自陣の砦の上から第七小隊の様子を眺めていた。最初に配置した兵たちはあっという間に敗れていく。実力は、もう誰しもが認めるところだ。
「だが、緊急事態への対応はどうかな? 俺がお前たちにまだ教えていなかったこと、それが一つだけある。援軍!突撃せよ!!」
カインが砦から剣を掲げると太陽に反射して一体にその光がうっつたことだろう。すると三つの砦に待機していた援軍が姿を現した。これは実戦でも十分にありうるが、今までの演練では行わなかったことだ。
「さぁ、お前たちの力、見せてみろ」
*
「なにかしら!」
「クリス、砦から援軍が出現しました!」
「援軍!? まじかよ!」
援軍の出現は第七小隊を驚かせた。クリス自身も驚いた。よく見えないが、おそらく一番近い砦以外から出現したようだ。
「まって、追いつかれるまでまだある、あの砦を先に制圧するわよ! 誰もいなければ拠点になるし、誰かいたとすれば先にカタをつけたい!」
「はい! 見てください、ペガサスが見えます、ライアン、気を張ってしっかり見ていてください!」
「うん、あれは僕に任せて、みんな砦に!」
ライアンは聞いたことのないような大声で言い、皆はそれに押されるように馬を走らせた。幸いその砦には誰もいなかった。それを確認するとロディは一瞬だけ引き返しペガサスに一撃食らわせたライアンを馬で広い、全員が砦に籠城した。数の上でかなわないならば、少数ずつ相手にすればいいのだ。
「ルーク、これを」
「ああ、サンキュー!」
剣士に傷を負わされていたルークに、砦に置かれていたきずぐすりを投げて渡した。
「来るわよ!」
「ライアン、最上階から援護頼むわ!」
ライアンは二階の窓から先刻のペガサスを撃ち落とした。そして狭い入り口からソシアルナイトが侵入し、四人は一気にたたいた。消耗戦ではあったが、援軍はすべて出きったようだった。
「クリスさん、今度は教官が走って向かってきています!」
「ほかには誰かいる?」
「後ろに二人、でも見える限りそれが最期です!」
「そのまま砦の陰に隠れて、クリスが引き付けたところを狙ってください!」
「僕も加勢しよう!」
手槍を持っているロディがライアンと共に身を隠す。第七小隊の騎馬組が砦の外に出ると
その直後、カインが第七小隊の前に現れた。
「行くぞ!気合を入れろぉぉお!」
「うぉお!」
クリスは一番に飛び出していき、二人は馬上で剣を合わせた。あまりの衝撃に、一瞬で上半身がふられたが、馬に足でしがみつき、体制を立て直す、その時に弓と槍が飛び、一方はカインに、もう一方は後ろの騎士に命中した。
「みんな!」
セシル、ルークもそれぞれの騎士のぶつかり合った。正面衝突するには、あまりに強い力だ。クリスは押された。だがその押された先には、敵と交戦するルークの姿があった。二人は一瞬だけ目を合わせ、次の瞬間「交代」していた。
ルークが不意を突く形で標的を突然カインに変え、斜めから奇襲をかけたのだ。そしてクリスの方も標的をルークの敵に変えて斬り込んだ。突然の入れ替わりに面食らって、カインは一撃を受けたのだった。
「見事、だ…!」
**
城の者によって、けが人はすぐに治癒された。もともと重症になる前に止められるのが演練のため、ライブだけで事は済んだ。カインの傷もすぐに癒えた。
「しかし、驚いたぞ。あんな方法を使ってくるとはな」
あんな方法とは、おそらくルークとの入れ替わりのことだろう。
「この試験は、重傷を負えば脱落者として止められてしまいますから、卑怯とは思いましたが不意を突くことをあらかじめ話し合っておいたんです」
「卑怯ではないさ、試験内容をよく理解した結果だ。まさか俺がライブをかけられることになるなんて、想定外だ。もう我々が教えることは、何もない様だ」
その言葉に、試験官二人も頷いた。
「うむ、では第七小隊に、ここで後半の成績を伝える」
ジェイガンはひとりひとりを見回した。そして、珍しいことに口角をそっと上げた。
「見事だ、過去の見習いたちの中でも、これほど評価の高い隊はなかった!よって、第七小隊の最終試験は合格とする!」
合格。その言葉にライアンは思わず座り込みそうになり、ルークはガッツポーズをとり、セシルは笑い、ロディはかみしめるように小さくこぶしを握った。カタリナは頷き、そして
クリスは、どこか夢でも見ているようにおかしな顔をしていた。それを見てフレイが笑った。
「クリス、隊長のお前がそんな呆けた顔でいいのか?」
たまらずカインがそう声をかけると、クリスはそっとカインに顔を向け、無言で近寄って行った。そして首をかしげる彼の手を取って、なんどもなんども振ったのだった。
「お、おお?」
「ああ! どうしましょう、祖父が喜びます、あ、いえ私も喜びます、ん? 違う、うれしいです、でもなんかよくわからなくて、ああえっと…」
とりあえず皆から見てもクリスはカインに礼を言いたいのだろうなということはわかった。フレイが何か言ってやれとカインに目を向けると、カインは手を握り返してやり、両手で握手を交わした。
「お前たちは”俺が認める”力を、持ったのだ。喜べよ。そして、仲間に感謝を忘れずにな」
「はい! ありがとうございます!」
そしてようやく実感したかのようにとびきりの笑顔を仲間たちに向け、両手を広げて丸ごと抱きしめたのだった。