アリティアの蒼き剣(feカイン 凍結)
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騎士見習いとなって、気がつけば三か月ほどが経過していた。毎日が忙しく、訓練後は自主練をし、夜は死んだように眠っていったため、あっという間だった。そして気がつけば同期は20人にまで減っていた。ここのところは基礎体力をつけたり技術向上的な訓練が多く模擬戦闘は少なくなっていたが、ジェイガンはここからが本番だと皆を引き締めた。今日からはフレイによる講義が加わり、さらに模擬戦闘も何度か予定されている。タリスのオグマや重騎士ドーガとの模擬戦闘もあると聞き、クリスはひとり気合を入れた。
「せい!はぁ!」
「……」
「ふ、おりゃあ!」
「……」
「どりゃああ」
「……」
「…ルーク、何してるの」
「いや、なんか、どうしたのお前」
「何って、気合を入れているのよ! あのオグマ様やドーガ様と模擬戦闘するのよ? たるんでなんていられないわ! それよりあなた私と訓練どっちが早く終わるか競争とか言って、なに休憩してるのよ、まだ日課の半分も終わらないわよ」
「えぇ!? あんだけ走って担いで武器振って――」
「私は子供の時からやってるから慣れてるの。ほら、あんたもや・る・の!」
「いーや~~!」
**
その夜、クリスとカタリナは突然マルスに呼び出しを受けた。
「やぁ、調子はどうかな」
「マルス様、いつも通り訓練に励んでおります」
「そうかい。まぁ、あまり緊張しないで楽にしてくれ。クリス、それにカタリナ、君たちの能力、とても優れているとジェイガンから聞いている」
「毎日叱られてばかりですが…光栄です」
「ジェイガンが叱るのはそれほど期待しているからさ。僕も訓練の様子を見せてもらったり、この前の山賊の一件で同じことを痛感した。君たち二人にはアリティア軍に適した戦術の才能がある。君たちが試験を突破し、騎士になれたら、僕の近衛兵になってもらいたいと思っている。」
「近衛兵…!?」
あまりの衝撃に、クリスもカタリナも目を見開いて硬直してしまった。
「前にも言ったけれど、僕一人ではできることなんてわずかだ。それはよくわかっている。前の戦争で勝てたのも同じ志を持つ仲間たちがいてくれたからだ。だから僕は、どんな時でも僕を支え、ただいてくれる未来ある若い近衛が欲しいと思っていた」
「そのような大役を、私たちが…?」
「僕が望んでいることだ。それにジェイガンやカインたちも君を推している。返事はすぐでなくていいから、考えてほしい」
「マルス様…」
様々な人から期待してもらえていることは感じていたが、まさかこんな話をいただけるなんて。クリスは悩んでいるのではなく言葉が出ないのだった。今すぐにでも大喜びで受けてしまいたい。しかし、それではダメなのだ。クリスは何とかマルスをまっすぐに見つめていった。
「必ず、正規の騎士となり、覚悟を確かに、お返事をいたします」
「うん。よろしくたのむよ」
王の部屋を後にし、少し歩いたところで、クリスは隣を歩いていたカタリナを見た。彼女はまだドキドキしたような顔で足元を一心に見つめている。その顔に、逆にこちらまでまた緊張がぶり返すような気さえした。
「カタリナ…」
「クリス、今の話、信じられない気持ちでいっぱいです」
「私もよ。でも、ありがとうカタリナ」
「え?」
「貴女がいてくれたからよ、私一人ではあんなに完璧に闘うことなんてできなかった」
「そんな…私こそクリスがいてくれなければ、最初の試験であきらめることになっていました。私の思いを実現してくれるのはクリスの実力があるからです。だから、お礼を言うのは私なんです」
カタリナはどこか泣きそうな顔をしながら、そう言って微笑んだ。
嬉しいことというのは続くもので、またしてもカタリナの紹介で第七小隊に仲間が加わった。第九小隊のセシルである。彼女はここにきて部隊が脱落者によって解散したため、困っていたのだという。
「この隊に入ったからには隊長の下で戦う、あたしの命、あなたに預けたわよ」
紅色の瞳をまっすぐに向けてそう言ったセシルは、どこか自分と似ている雰囲気がした。
「セシル、来てくれてうれしいわ。いつも横目に第九小隊のあなたの活躍、見ていたわ。心強い」
「あたしもよ。いつも強いあなたを見て、負けてらんないって思ってたの。今日からは一緒に訓練させてちょうだい」
「厳しいわよ? ルークなんて半分もこなせないんだから」
「あら、あいつと一緒にしないでよ。女だからってなめられるのは嫌いなの」
お互いに握手を交わすと、ルークはおっかなそうにロディの後ろに隠れた。なぜ女騎士はこんなにもガツガツしているやつばかりなんだと言いたげだ。同じ兵種の女性がいることは、かなり心強いことだった。セシルの機動力は楽しみにしていたオグマとの模擬戦闘で大いに活躍した。手加減はしてくれていたのだろうが、オグマの小隊はあまりに強く、ライアンが弓を外しまくるほどの迫力だった。それにめげず走り回るセシルの姿は周りの士気をあげたし、クリスもやっと切磋琢磨しあえる存在に出会えたと確信した。ルークやロディも訓練には一生懸命だが、やはり同性というのは嬉しいことだった。
その数日後、それは最終試験前最後の模擬戦闘だった。その日、第七小隊は残った小隊の中で唯一ドーガの小隊と戦うことになった。アーマーナイトの小隊を相手にすることは初めてだった。弓はあまりきかないし、セシルやロディの力でもあまり太刀打ちできなかった。そんな時にやってくれたのは、セシルとクリスに男なのに情けない奴、と板挟みにされていたルークだった。彼はとにかくパワーだけが売りだ。最後の強烈な一撃にはドーガも顔をしかめ、第七小隊は間一髪のところで勝利したのだった。
「クリスだな、ジェイガン様からよく名を聞いている」
「ドーガ様、光栄です」
「しかし驚いたのは、そなた以外の隊員たちのレベルの高さだ。てっきり、隊長一人だけが力を持っているのかと思っていたが、違うらしい。お互いが補い合える、よいチームだ」
いつもクリスばかり褒められるので、ルークはここぞとばかりに喜んだ。クリスも、小隊として強化されたことがなにより嬉しかった。
「次が最終試験だな。おそらく、厳しい戦いになるだろう。全力で突っ込んでいけ。そしてその結果が、今後を占うことになる。健闘を祈る、第七小隊!」
「はい!!」
**
夜、まだ更ける前。その日は一日忙しく、自分の日課が途中までとなっていたクリスは、一人訓練を行っていた。それを終えて帰ろうとすると、後ろには自分を待っていたのだろうか、カタリナの姿があった。
「あら、カタリナ。どうかしたの?」
「いえ、その、考え事をして歩いていたらあなたの姿が見えて」
「そう。ちょっと疲れたわ。まだ食堂開いてるかしら…のどかわいちゃった」
「あ、水なら持ってますよ」
カタリナはそういって、訓練所のベンチに腰かけた。クリスは隣に腰かけて、瓶に入った水をもらった。もしかして、訓練しているのが見えてもらってきてくれたのかもしれない。カタリナはいつもそうだ。自分は無力だと言いながら、クリスの気が付かないところを指摘し、そして仲間を加えて小隊を大きくしてきた。隊長としてふるまっているのはクリスだが、その陰の功労者は間違いなくこの少女だ。
「クリスは、セラ村の出身でしたね」
「?、ええ」
「私の生まれのこと、まだ話したことありませんでしたね。私はノルダの生まれです」
聞いたことはあったが、それはあまり評判の良いところではなかった。カタリナは月を見上げ、悲しむでもなく、懐かし気にするわけでもなく、どちらかと言えば自らをあざ笑うような複雑な表情をしていた。
「あの町で、私は家畜みたいに虐げられて、何かあれば面白半分にぶたれました。痛いのは嫌だから、そういう時は目を閉じて何も考えないで、逃げ込むんです、心の奥に。」
「カタリナ…」
「…でも、そんな私を救ってくれた人がいるんです。その人は私に生きる意味をくれました。その人の為なら、なんだってしたいと思ったんです。クリス、あなたにはそういう人はいますか?」
「……ええ、主君の為に忠義を貫く、それが私の目指す、そして祖父の望む騎士の姿よ」
「そうですよね、あなたも誰かのために…」
どうしたのだろう、それは誰なのだろう。なぜ、彼女はそんな相手がいながらここに居るのだろう。クリスはよくわからなかった。だが、それを踏み込むほどの言葉は持ち合わせていなかった。
「もうすぐですね、私たちはアリティア騎士になる。そうなったら…」
「…人にはそれぞれ信念がある。きっと、あなたはアリティア騎士になることでそれを果たせるのよね? もうすぐ最終試験だわ、頼りにしてるからね?」
カタリナはようやくクリスに顔を向けると、静かに頷いた。濃い影が、カタリナの細かな表情は隠してしまったが、それを確認する前に彼女は「おやすみなさい」と帰っていっ