アリティアの蒼き剣(feカイン 凍結)
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「私は僧侶リフ、戦いはできませんが治療の杖が使えます。ジェイガン様からお話は伺っております。癒してとして、力をお貸ししましょう」
「……」
「リフ殿、ご協力に感謝いたします。癒してがいれば小隊の幅も広がるだろうと思っていたのです」
「いえ、お力になれれば幸いです」
シーダとの模擬戦も終わり、引き続き訓練に励んでいた第七小隊に新たな仲間が加わった。癒し手が欲しいというみんなの要望を聞いて、カタリナが探してきてくれたのだ。
マイシスター!と喜んでいたルークは、僧侶が現れたきりだまりこんでしまった。クリスは内心、女性が来たらもっとルークがうるさくなるだろうと思っていたので、男性かつ暗黒戦争でも力になったというリフが協力してくれることは喜ばしいと思ったのだった。
***
その日の実技訓練では、珍しい人が相手になった。なんと大陸一の弓使いと言われるジョルジュである。アリティア騎士であるゴードンに弓を教えに来たのだが、面白そうだからと参加してくれることになったのだという。クリスは次々現れる英雄たちに興奮ぎみだったが、ジェイガンの「笑い話」を思い出してなんとか己を沈めた。今回は広い砦の中を想定した場所となっている。隠れる場も多く、どこから弓が飛んでくるかわからない。カタリナの指示に従いゆっくり慎重に進んだ。とにかくいち早く兵士を倒し、最後にジョルジュを取り囲まなくてはならない。クリス、ルーク、ロディは馬を下りて進んだ。幾人かを退却させ、のこすはジョルジュのみという状況になったが、なかなか厳しい相手だった。クリスはジョルジュの攻撃を一度もろに受けてしまった。リフにライブをかけてもらったが完全には癒えていないし、やはり実際に傷を負うと体が怯えてしまう。訓練で体を強くすることができても、傷や痛みには慣れていくしかないのである。クリスは己の頬をつねって気合を入れた。そして一瞬の隙をつくと壁際にジョルジュを追い詰め、ロディの槍で一撃を加えた。
訓練を終え、それぞれ体にできた傷をいやすため城の治癒係に順に直してもらうことになった。訓練とはいえ、寸止めでばかり退却させるわけにはいかない。相手が強ければなおさら本気でかからなくてはならない。クリスはのこりの傷を治してもらいながら、まだまだ遠く及ばないなとジョルジュを横目に見た。すると彼は視線に気が付いたのか、話していたゴードンを連れて近づいてきた。
「ジョルジュ様」
「見事だったな。名は何という」
「クリスと申します」
「その名、覚えておこう。俺は手助けできないが、ゴードンを代わりにこの小隊に置こう。いいか、ゴードン」
「はい、僕が彼らの力になります。弟にも直接指南してあげたいしね」
「え、弟…!?」
クリスが驚くと、ゴードンは「あれ、しらなかった?」とライアンを指さして笑った。なるほど、言われてみれば似ている気がしてきた。
「クリス、お前たちとはいつか共に戦いたいものだな。また会える日を楽しみにしている」
「はい! ありがとうございました!」
***
その日の訓練の最後、中間成績が発表された。ここへきてそろそろ一か月半ほどたつ。長いような短いような、何とも言えない期間だ。第七小隊は20ある小隊のうち一位を獲得した。まだ中間での成績であり決して気は抜けないが、クリスは嬉しさで落ち着かず寮のあたりをうろうろしていた。うろうろしていたクリスはいつの間に見知らぬ廊下に出てしまい、第七小隊のりょうはどこかしらと捜し歩いた。その途中ある人物に話しかけられた。それはマルスの姉、エリスだった。思わぬ出会いに、クリスは英雄王マルス様のお力になれるのであれば光栄ですと言った。そんなクリスを見て微笑みながら、エリスはそっと言った。
「本当のマルスは、とても弱く、傷つきやすい子なのです。あのこは、本心からすべての民を救いたいと願っています。それに仲間の死も、あの子にとっては耐えがたいこと。そんな中で理想を持ち続けることはとても困難です。クリス、あなたが騎士になったら、あの子を守り、あの子の理想を守ってあげて下さい」
クリスはエリスの話を聞き、考え込んだ。自分は、ずっとマルスの騎士になることを望んできたが、それがどういうことなのか少し見えた気がしたのだ。マルスは王としては輝かしく高い理想を持っている。普通の王であれば表ではそのように言っても、それは不可能であると現実と折り合いをつけるのだ。それができないから、マルスはエリスから見て「傷つきやすい」のではないか。少しでも、あの人の理想を守って差し上げられたら――。そしてそれがこの国の平和なのだろう。自分ができることは、もし戦いが怒ったとき、彼の大切な人を守り、そして自分自身も――
「おい」
「え!?」
深い思考の底から、一気に現実に引き上げられ、クリスは思わず飛び上がって驚いた。あわてて振り向くと、そこには赤髪の教官の姿があった。
「か、カイン様!」
「第七小隊のクリスだな。ここは寮から離れたところだがどうかしたのか、もう夜も更けてきたが」
「え、」
クリスは、ばっとあたりを見回した。そういえばまたさっきいたところから離れてしまったような…
「す、すみません。実はエリス様に偶然お会いして、呆けていました…お恥ずかしい限りです」
「なるほどな。で、寮までは帰れるか?」
「あ…えっと、えーと…」
あこがれの人の前で失態をさらしてしまい、クリスは赤面した。そんな彼女を見てカインは陽気に笑いかけた。
「ここは広いからな、俺も良く迷ったもんだ。送ろう」
「す、すみません、お願いします…」
「意外とぬけているんだな」
「うう…」
しゅんとしてしまったクリスに、カインはまた笑って、こっちだと案内してくれた。ここへきて一か月半ということは、カインの指導のもと訓練をして一か月半ということでもある。もちろんほかの教官や座学もあるが、ほとんど毎日見る機会があったのに、こうして二人で話すのは初めてのことだた。
「そういえば今日の模擬訓練、なかなかだったぞ」
「本当ですか? 嬉しいです」
「今のところ一番優秀だからな、今のところだが」
「最後まで気を抜かず、一番で合格して見せます!」
「そうか、頼もしいな!」
クリスはいろいろと伝え聞いた話でアリティアの騎士たちのことを知っていた。中でもカインにはひときわあこがれを抱いていた。どの騎士の話も素晴らしいが、黒豹アベルと共に戦場を駆け抜け、力強く剣をふるったという話は一番心躍った。うわさでしかないが、どのような厳しい時にも決してめげず、大声をあげ敵陣に突っ込んでいく姿から猛牛と呼ばれ、皆の心を励ましたという。こうして実際本人に触れてみると、鵜沢ではなく事実だろうと安易に予想がつく。自分も、そういう騎士らしい騎士になりたいのだ。
「ほら、ここだ」
「あ、本当だ、見覚えがあるところです!」
少し行くと、第七小隊の量が見えてきて、クリスは一安心した。
「明日ははじめての野営訓練だ。しっかり休めよ」
「はい! あ、カイン様」
「ん?」
「私、あなたに認めてもらえるように、頑張ります!」
「ああ!」