アリティアの蒼き剣(feカイン 凍結)
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「このカインはアリティア騎士の中でも屈指の力を持つ男、そのカインに認められる力をつけるのだ」
翌日から小隊に分かれ、アリティア城近くの土地を使っての実技訓練がスタートした。その実技を担当するアリティア騎士カイン。彼がジェイガンに紹介された瞬間、クリスはルークでも引くような目の輝きを見せた。
アリティアの猛牛カイン。先の暗黒戦争で、若い騎士たちの中でひときわ名を馳せた男だ。まさか本人を目の前にするとは思わず、しかも実技の訓練を受けると知れば大人しくしているほうが難しい。
「お、おいクリス、お前なんか、どうした?」
「え? 気合を入れていたのだけれど…」
「目の輝きがすごい」
「あのカイン様に指導していただけるかもしれないのよ? 絶対に実技で一番をとるわ…!」
いつもならば負けないぞと張り合うところだが、ルークは降参とばかりにロディに目配せしただけだった。
初日の実技では各小隊の力量に応じて相手が決定されるという。そして第七小隊の相手はなんと王女シーダだった。
「カタリナ、今回は木や砦が重要になるわ。シーダ様の出方次第だけれど、ペガサスナイトの行動範囲は広い。けれどこっちにはペガサスナイトに有利なライアンがいる。軍師として、頼りにしてるわよ。ルークは一人でつっこまないように」
「わーってるって!」
**
「カインよ、どう思う」
「え?」
「第七小隊のことだ」
クリスとシーダの正体が実技をこなす様子を見ているカインに、そう声をかけたのはジェイガンだった。
「あれは一目見て分かります、目が違います。特にあの蒼い髪の…」
「私も気になっていたところだ。既に一端の騎士のような面構え。実力もなかなかだ、どこかで見たことのあるような構え方をするな。久しぶりに見習いから一本取られた」
「ジェイガン様もお年を召したのでは」
「なに、こやつ、そのような口まで叩くようになったか」
カインはいたずらっぽく笑った。ジェイガンに軽口をたたくなど、ついこの前まで恐ろしくてできなかったことだ。こんな風に話すようになったのは、暗黒戦争を終え、お互いが上司部下の立場以上に戦友として意識を持つようになったことが大きいだろう。
その時、カインは思わず声をあげた。シーダが倒されたのだ。
「まさか、シーダ様が!」
「これは…前例にないことだ」
ジェイガンの方も感心して大きく頷いた。
「ひとり実力は抜きんでているが、軍師の指示を忠実に再現し、全員で向かっていく姿。それにあの軍師志願者も、かなり緻密な計画を練っているように見える、未来は明るいな」
**
「ジェイガン様、参りました」
その晩、クリスはジェイガンに呼び出され訪れた。呼び出された先は、夕食の時間を越した食堂だった。既にジェイガンは腰かけており、クリスにも座るよう促した。
「そなた、まだ鎧姿なのか」
「あ、す、すみません…訓練をしておりましたのと、あまり良い恰好の私服を持ち合わせておりませんでしたので、失礼のないようにと」
「そうか、いや、大したようではないのだ、すまんな」
「いえ」
クリスは席に着いた。
「そなたに聞きたいことがある。その武、どこで鍛えた」
なるほど、ジェイガンはおのれの戦い方に興味を示してくれたらしい。クリスはわずかに笑みを浮かべて話した。
「私はもともと孤児でした。赤子のころに拾われ、祖父に鍛えられました。祖父はとても厳しい人で、毎日毎日、何度か本当に死にかけるようにしごかれました。私の武は、まだ未熟ではありますがその祖父のものです」
「祖父の名は?」
「マクリルといいます。かつてアリティア騎士だったと聞いています」
「マクリル?」
ジェイガンは驚いたようにその名を繰り返すと、なにか面白そうに口元をゆがめ、顎を撫でた。クリスが首をかしげていると、ジェイガンはこう言った。
「マクリル殿は、私の長年の友だ。そうか、そなたの祖父であったか…」
「ジェイガン様と祖父が…!?」
「うむ。やつが身体を悪くしてここを去るまで、何十年と共に戦場を駆け巡った。わしが知る中で最も中忠誠の強い男だった――そなたはマクリル殿に騎士となるべく鍛え上げられたのだな。そなたの実力、合点がいった。幼いころより一心に鍛錬を積んできた力だったのだな。これからも鍛錬に励み、必ずその力、マルス様の役に立ててほしい」
思わぬ出会いに、クリスは感銘を受け、ジェイガンの強い期待に大きく頷いた。それから少しして、付け足すようにしていった。
「ジェイガン様、確かに騎士になることは祖父の遺志です。自分の代わりにマルス様をお守りしてほしいと、幼いころより言われて育ちました。そして、それは私の願いでもあります。今回の試験にかける思いは誰よりも強いと自負しています。本当は、暗黒戦争の際、志願しようとも思いました。しかし私はまだ、軍に入るほどの力もなく、祖父に止められました。それからは、この平和を一日でも長く守る手助けができればと思い日々鍛錬してきました。今年は、終戦以来の見習いの募集でした。私は誰よりも一番にアリティア騎士になり、新たな希望となりたいと強く願っています」
ジェイガンはどこか懐かしむようにクリスを見た。その瞳には、試験中の厳しさは見えなかった。
「そなたの思いよくわかった。ひとつ、笑い話として聞いてくれ。私とマクリル殿は、見習い試験を受けた最初の年、気合を入れすぎて一人で走り、なんと失敗してしまった」
「え! ジェイガン様がですか?」
「うむ。そなたが協調性があると見受けられる。あくまで笑い話だ」
クリスはその笑い話に、くすりと笑みをこぼした。今日の訓練でもそうだが、自分は少し騎士たちへのあこがれが強く、興奮してしまうところはある。気を付けなければ、と祖父の友の忠告を深くかみしめた。