傷のふさぎ方(feフレイ)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
4
「フレイ、きょうが何の日か、知っている?」
「さあ、なんだったか」
首をかしげてみせると、クリスはむっとほほを膨らませた。
「本当に? 本当に覚えていないの?」
「どうだろうか」
「いじわる」
自分より幼い彼女がいとおしくて、少し意地悪をしてしまったが、フレイは詫びるように額に口づけを落とす。
「君にプレゼントがある」
「え?」
「気に入ってもらえるかわからないが…」
懐から取り出したのは、銀色の指輪だった。はめ込まれた石が陽の光をあびて深く蒼い光をこぼれさせた。
「フレイ…ありがとう」
「つけてくれるかい? 君の薬指を、予約させてくれ」
「ええ…!」
まだ平和だったころのこと。あてがわれた自室には二人以外誰もいない。窓が輝き、2人を明るく照らす。光のヴェールの中で、今度は唇にキスを落とした。
ーーーーーーーー
「マルス様、おはようございます」
「やぁクリス。先日は見習い騎士たちの相手をしてくれたみたいだね」
「はい、カインに頼まれて」
「カインが褒めていたよ。やはり教えるのはクリスの方が美味いって」
「実践を見せるという本当の実技ではカインが一番向いていますが、基本的なことであればそうかもしれませんね」
いつも通りの朝だった。廊下でなにやら本を運んでいたマルスに挨拶をするとそんな話になった。本当によく軍の者の事をよく見ていらっしゃると嬉しくなる。
「ところでマルス様、その本は…?」
「ああ、歴史書を少し見ていたんだ。今から返しに行こうかと」
「では私に。ちょうど用がありますので」
「そうかい? 助かるよ」
本当は用事などないのだが、そういった方が差し支えなく任せてもらえることをクリスは知っていた。二冊の本を受け取ると図書館に向かう。アリティア城は広く、そこから図書館までは少々時間を要した。図書館に向かうと、先客がいた。入口から離れた席にあの男がいたのだ。すこし困ったが、マルスから受け取った本をこのままにもできずそっと何気ない顔で入る。歴史書の棚に向かいもとあった場所を探すことに専念した。
マルスが借りていたのは建国に関するもので、普段あまり読まれないのかかなり上の方に置き場があった。どう考えても届かない。なにか踏み台になるものはないかと探すが、それらしきものは見当たらない。その場に置いて帰ってしまいたいが人に迷惑もかけられない。あたりを見回したが周囲にはやはりあの男しかいなかった。仕方ない、変に避けている方がおかしいというものだ。同じ城で働く者同士として、ここは助けを求めよう。そう思って入り口に戻った時だった。
「、…」
小さく呻きが聞こえた。何事かと早足に向かうと、机の陰に隠れているフレイの姿があった。心臓が強く脈打ち、気が付けば走り寄っていた。
「大丈夫!?」
驚いたように顔を上げたフレイは、己の足に手を這わせて顔をしかめていた。どこか痛めているのかと、ただ心配で、この頃のことなど忘れて手を伸ばす。驚いて反応が遅れたフレイのズボンのすそをたくし上げると、そこには忌々しい傷跡があった。稲妻のような跡は、おもわず息を飲むほどだった。
「クリス…?」
「この傷ーーもしかして、あの日の…?」
無言が肯定だった。おそらくは足だけではなく体中に傷跡は残っているのだろう。ズボンをたくし上げた手が震える。フレイの傷の事は何度も考えたことがあったが、実際に目の当たりにすると言葉にすることもできなかった。我に返ったフレイがそっと裾を下ろさせた。
「時々痛むだけだ、もう完治している」
「完治しているって、痛みはあるのに? ここだけじゃないでしょう?」
「君には関係のないことだ」
おもわずむっとして、彼の両肩をつかむ。ぐっと睨みつけたが、睨み返される。ここまで知らんぷりをして、当然だ。それでも関係ないはずがない。
「フレイ」
「……」
「私がどれだけ悲しかったか、知らないくせに! 関係ないだなんて、最低よあなたって人は! 最低…」
零れ落ちる涙を、フレイは初めて見たかのように口をぽかんと開けてみていた。まるで、数年前に戻ったように図書館に差し込む光の下で、額に口づけをした。クリスはそれではたりないとばかりに、自分から唇を重ねた。
「フレイ、きょうが何の日か、知っている?」
「さあ、なんだったか」
首をかしげてみせると、クリスはむっとほほを膨らませた。
「本当に? 本当に覚えていないの?」
「どうだろうか」
「いじわる」
自分より幼い彼女がいとおしくて、少し意地悪をしてしまったが、フレイは詫びるように額に口づけを落とす。
「君にプレゼントがある」
「え?」
「気に入ってもらえるかわからないが…」
懐から取り出したのは、銀色の指輪だった。はめ込まれた石が陽の光をあびて深く蒼い光をこぼれさせた。
「フレイ…ありがとう」
「つけてくれるかい? 君の薬指を、予約させてくれ」
「ええ…!」
まだ平和だったころのこと。あてがわれた自室には二人以外誰もいない。窓が輝き、2人を明るく照らす。光のヴェールの中で、今度は唇にキスを落とした。
ーーーーーーーー
「マルス様、おはようございます」
「やぁクリス。先日は見習い騎士たちの相手をしてくれたみたいだね」
「はい、カインに頼まれて」
「カインが褒めていたよ。やはり教えるのはクリスの方が美味いって」
「実践を見せるという本当の実技ではカインが一番向いていますが、基本的なことであればそうかもしれませんね」
いつも通りの朝だった。廊下でなにやら本を運んでいたマルスに挨拶をするとそんな話になった。本当によく軍の者の事をよく見ていらっしゃると嬉しくなる。
「ところでマルス様、その本は…?」
「ああ、歴史書を少し見ていたんだ。今から返しに行こうかと」
「では私に。ちょうど用がありますので」
「そうかい? 助かるよ」
本当は用事などないのだが、そういった方が差し支えなく任せてもらえることをクリスは知っていた。二冊の本を受け取ると図書館に向かう。アリティア城は広く、そこから図書館までは少々時間を要した。図書館に向かうと、先客がいた。入口から離れた席にあの男がいたのだ。すこし困ったが、マルスから受け取った本をこのままにもできずそっと何気ない顔で入る。歴史書の棚に向かいもとあった場所を探すことに専念した。
マルスが借りていたのは建国に関するもので、普段あまり読まれないのかかなり上の方に置き場があった。どう考えても届かない。なにか踏み台になるものはないかと探すが、それらしきものは見当たらない。その場に置いて帰ってしまいたいが人に迷惑もかけられない。あたりを見回したが周囲にはやはりあの男しかいなかった。仕方ない、変に避けている方がおかしいというものだ。同じ城で働く者同士として、ここは助けを求めよう。そう思って入り口に戻った時だった。
「、…」
小さく呻きが聞こえた。何事かと早足に向かうと、机の陰に隠れているフレイの姿があった。心臓が強く脈打ち、気が付けば走り寄っていた。
「大丈夫!?」
驚いたように顔を上げたフレイは、己の足に手を這わせて顔をしかめていた。どこか痛めているのかと、ただ心配で、この頃のことなど忘れて手を伸ばす。驚いて反応が遅れたフレイのズボンのすそをたくし上げると、そこには忌々しい傷跡があった。稲妻のような跡は、おもわず息を飲むほどだった。
「クリス…?」
「この傷ーーもしかして、あの日の…?」
無言が肯定だった。おそらくは足だけではなく体中に傷跡は残っているのだろう。ズボンをたくし上げた手が震える。フレイの傷の事は何度も考えたことがあったが、実際に目の当たりにすると言葉にすることもできなかった。我に返ったフレイがそっと裾を下ろさせた。
「時々痛むだけだ、もう完治している」
「完治しているって、痛みはあるのに? ここだけじゃないでしょう?」
「君には関係のないことだ」
おもわずむっとして、彼の両肩をつかむ。ぐっと睨みつけたが、睨み返される。ここまで知らんぷりをして、当然だ。それでも関係ないはずがない。
「フレイ」
「……」
「私がどれだけ悲しかったか、知らないくせに! 関係ないだなんて、最低よあなたって人は! 最低…」
零れ落ちる涙を、フレイは初めて見たかのように口をぽかんと開けてみていた。まるで、数年前に戻ったように図書館に差し込む光の下で、額に口づけをした。クリスはそれではたりないとばかりに、自分から唇を重ねた。