傷のふさぎ方(feフレイ)
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3
講義室の窓から風がそよぐ。無人の教室でノートのページがぱらら、とめくれた。びっしりと書き込まれたそれは、フレイの手によって押さえられる。
夕方からの講義に向けて予習をしていたが、少し疲れた。もともと教えるのはさほど得意ではない。こうして紙にまとめてなんとか教えているが、訓練後では疲労に耐えられず眠ってしまうもの、あまり学のないものも少なくなく苦労は絶えない。皆やる気がないわけではないのだが、得意不得意はあるし、慣れない暮らしと訓練に疲労が蓄積するのはよくわかる。
少しくらい休憩してもいいだろう、と窓の外を見ると、ちょうど模擬訓練を終えた見習いたちが戻ってきたようで少し騒がしい。一部隊ごとに助言を受け、最後に少しの合同訓練を行う。それが終われば彼らはここへくるだろう。
その一団の中に、懐かしい女性が見える。クリス。たしかカインが模擬訓練の補佐を頼んだと言っていた。よく知る姿より髪は短い。小さな風と戯れるあの髪が好きだった。いまは彼女の動きに合わせて、さっと揺れるだけ。
自分が記憶を失い傷ついた身体を癒す間、彼女は騎士として様々な経験を積んだのだろう。剣を構える姿が以前よりずっと様になっている。その姿勢は教科書通りの美しさで、彼女は新米たちにそれを伝授しているようだ。
離れたのは自分だった。行かないでくれと言った彼女の気持ちを振り払ったのは自分だし、帰還した後何気なく接したのも自分だ。
時々そのことをひどく悔いる。だがあの日から何年も経った。自分は歳をとったし、彼女はより魅力を増した。彼女には彼女の人生がある。それを壊したくはない。自分が堪えれば彼女は幸せになれる。この未練を悟らせてしまえば、クリスは一生負い目を感じるに違いないから。
古傷が痛み、かがんで足に手を這わせた。
日向の暖かさに、少しの間かつてのことに思いをはせていた。そのことに気がつき、すぐに目線を晒す。訓練もそろそろ終わりだ。中庭から人影が消えた。
「失礼します」
講義室の扉がノックされ、クリスと引率されてきた見習いたちの姿が見えた。その先頭にいたのは、見習い騎士ではなくクリスの姿だった。
「フレイ殿」
一瞬で鼓動が走り出す。こんなに近くで目を合わせたのは、いつぶりか。いや、しかし目があったと言ってよいのか、よくわからなかった。彼女の目はこちらを向いていたが、どこを見ているのかよくわからなかった。
「第1小隊のクラムが負傷して遅れてくるそうです」
「、ああ」
フレイは、ごまかすように机においたノートをパタンと閉めた。
「わざわざありがとう」
「いえ、それでは」
クリスは軽い会釈をすると、もう目線さえ向けることはなく教室を去っていった。見習いたちはそれぞれ席につき始める。その音がなんだか遠くのもののように聞こえた。
講義室の窓から風がそよぐ。無人の教室でノートのページがぱらら、とめくれた。びっしりと書き込まれたそれは、フレイの手によって押さえられる。
夕方からの講義に向けて予習をしていたが、少し疲れた。もともと教えるのはさほど得意ではない。こうして紙にまとめてなんとか教えているが、訓練後では疲労に耐えられず眠ってしまうもの、あまり学のないものも少なくなく苦労は絶えない。皆やる気がないわけではないのだが、得意不得意はあるし、慣れない暮らしと訓練に疲労が蓄積するのはよくわかる。
少しくらい休憩してもいいだろう、と窓の外を見ると、ちょうど模擬訓練を終えた見習いたちが戻ってきたようで少し騒がしい。一部隊ごとに助言を受け、最後に少しの合同訓練を行う。それが終われば彼らはここへくるだろう。
その一団の中に、懐かしい女性が見える。クリス。たしかカインが模擬訓練の補佐を頼んだと言っていた。よく知る姿より髪は短い。小さな風と戯れるあの髪が好きだった。いまは彼女の動きに合わせて、さっと揺れるだけ。
自分が記憶を失い傷ついた身体を癒す間、彼女は騎士として様々な経験を積んだのだろう。剣を構える姿が以前よりずっと様になっている。その姿勢は教科書通りの美しさで、彼女は新米たちにそれを伝授しているようだ。
離れたのは自分だった。行かないでくれと言った彼女の気持ちを振り払ったのは自分だし、帰還した後何気なく接したのも自分だ。
時々そのことをひどく悔いる。だがあの日から何年も経った。自分は歳をとったし、彼女はより魅力を増した。彼女には彼女の人生がある。それを壊したくはない。自分が堪えれば彼女は幸せになれる。この未練を悟らせてしまえば、クリスは一生負い目を感じるに違いないから。
古傷が痛み、かがんで足に手を這わせた。
日向の暖かさに、少しの間かつてのことに思いをはせていた。そのことに気がつき、すぐに目線を晒す。訓練もそろそろ終わりだ。中庭から人影が消えた。
「失礼します」
講義室の扉がノックされ、クリスと引率されてきた見習いたちの姿が見えた。その先頭にいたのは、見習い騎士ではなくクリスの姿だった。
「フレイ殿」
一瞬で鼓動が走り出す。こんなに近くで目を合わせたのは、いつぶりか。いや、しかし目があったと言ってよいのか、よくわからなかった。彼女の目はこちらを向いていたが、どこを見ているのかよくわからなかった。
「第1小隊のクラムが負傷して遅れてくるそうです」
「、ああ」
フレイは、ごまかすように机においたノートをパタンと閉めた。
「わざわざありがとう」
「いえ、それでは」
クリスは軽い会釈をすると、もう目線さえ向けることはなく教室を去っていった。見習いたちはそれぞれ席につき始める。その音がなんだか遠くのもののように聞こえた。