アリティアの蒼き剣(feカイン 凍結)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「クリスよ、アリティアの剣となれ。決しておれぬ力と忠義を身につけよ」
それは、厳しかった祖父マクリルが最期に残した言葉だった。
クリスは、幼いころより、かつてアリティアの騎士であった祖父から厳しい訓練を受けてきた。孤児のため、両親は知らないけれど、祖父が唯一の家族だった。セラ村で培ってきたその力は、まだ見ぬ主君をお守りするためであると疑ったことはない。もう嫌だと投げやりになっていれば、今日彼女はここには立っていないだろう。大きな、今まで目にしたこともないほど頑丈な建物。アリティア城は、高い門を開き見習い騎士たちを迎えている。
クリスはこくりとつばを飲み込んだ。いままで話にしか聞いてこなかったものが目の前にあると思うと、緊張せずにはいられない。尊敬する、そして恩人であり大好きな祖父が命を懸けたこの城。騎士になるためには厳しい道が続くだろうが、今日がその一日目だ。クリスは拳に力を込めた。
そんな彼女を横目に、同い年の志願者たちは次々門を通り抜けていく。その時、不意に背中に衝撃が走った。足をふんばったクリスは倒れずに済んだが、慌てて振り向くと桃色の髪の少女がしりもちをついていた。
「あ、だ、大丈夫?」
「ごめんなさい、急いでいて――」
少女はクリスの伸ばした手を借りて起き上がると、申し訳なさそうに笑いかけた。彼女はクリスのいでたちを見ると、ぱっと顔を輝かせた。
「あなたもアリティア騎士を目指してここへ?」
「ええ、ここで騎士試験を受けられると聞いてね。私はクリス。セラ村から来た騎士志願者よ。あなたもなの?」
「はい、一緒です。私はカタリナと申します。あ、そうだ」
握手を交わすと、カタリナはそのままクリスの腕を引いた。
「道に迷って到着が遅れてしまったんです。急がなくちゃ!」
カタリナに引っ張られてようやく城内に足を踏み入れたクリスは、いったい自分はどれだけ城を見上げていたのだろうかと赤面した。方向音痴だからとかなり余裕を持って出てきたはずなのだが…。
***
騎士志願者の数は予想を超えていた。若者たちが中庭に並ばされ、そこへジェイガンやほかの兵士たちが現れた。ざわついていた空気が一気に固くなる。クリスはカタリナの横でジェイガンを見つめていた。ジェイガンは浮ついた若者たちを引き締めるように話をする。ここに集まった百余名のうち、残るのは数名であろう。不安げな者、自信ありげな者、様々だがクリスはどれでもなく、ただ年長の騎士を見つめ続けた。
「それでは、諸君らが今日の為にどれだけ己を鍛えたか、それを示してもらいたい。見習いは二人一組となり、正騎士相手に模擬戦を行う」
突然本番を吹っ掛けられるとは思わなかったのか、場がすこしざわついた。それに乗じて、カタリナが不安そうに息をのむのが分かった。
「どうしたの?」
「実は私、軍師を希望していて、闘うのは得意ではないんです…。」
なるほど、改めて彼女を見ると、剣を持てそうな体つきには見えない。しかしクリスは軍師の存在がいかに希少かも知っていた。どうせ自分は知り合いもいない。
「私と組むのはどう? 私、腕には自信があるわ。けれど熱くなると周りが見えなくなるところもあるし、」
「本当ですか? よ、よろしくお願いします!」
クリスは自分の力を冷静に知っていた。だからカタリナと組むことはなんにしてもメリットがある。まずカタリナが実力不足の場合一人で倒せればそれだけ評価も受けられるだろう。逆に彼女が本当に軍師として優れているのであれば、有利になることは間違いない。さらに今後小隊を組んで戦う可能性があり、その場合軍師の力は大きいだろう。クリスはなにがなんでもこの年に騎士になりたかった。そのためにも利用できるものは利用する。そして、たまたま入り口で出会ったこの少女との縁を大切にしたい気持ちも大きかったのだ。
兵に促され2人の番がやってきた。クリスは馬にまたがり茂みに隠れつつ、カタリナはクリスが気が付かないような相手の特徴を捉えた。指示通り相手の利き手の方から奇襲をかけると、すぐに治めることができた。クリスは正面からの闘いばかりしてきたため、これはかなり意外な戦法ではあったが、おかげで力を十分に残したまま一番奥にいるジェイガンまでたどり着くことができた。
「ここまで来ては、真正面から向かうしかないみたいね」
ジェイガンは一番奥で槍を構えていた。ハイネが姿を現すと、襲い掛かるでもなく待ち受けた。
「ここまでで、はじめて来たか。最後は私が相手だ、見事倒してみよ!」
「はい! 行きます、ジェイガン様!」
模擬戦ではあるが、クリスは真正面からジェイガンに挑むことにした。馬を走らせ向かう。ジェイガンは最初の一手は受け止め、馬上での力比べとなった。年齢を感じさせない力はさすがだ。ハイネはいったん離れると、次がジェイガンの投げた槍を交わし、一気に懐に飛び込んだ。ジェイガンが驚いたような声をあげた。クリスはジェイガンの馬に飛び移り、喉元に剣を当てたのだ。しばらく沈黙が続き、からん、と武器の落ちる音がした。
「見事だ…!」
***
ジェイガンに勝利した見習いが何人いるかわからないが、長い時間をかけて最初の試験は終わった。残ったのは半数程度だった。日が暮れそうな中、最後にジェイガンに連れられマルス王子が姿を現した。クリスははじめて未来の主君の姿を目にした。自分と同じ、嫌すこし明るい青の髪をした王子は、若いにもかかわらず威厳に満ちた姿をしていた。
「あの方が…」
祖父が、まだ体が動くのならばおそばでお守りしたかったと言った主君――。
「みんな、よくきてくれた。アリティアの未来を担う者が大勢集まってくれて嬉しく思う。戦争は終わり、今は平和な時代。でもその平和はただ生きていれば享受できるものではない。平和とは、僕たち国を治める者が命をかけて守らねばならないものだ。僕一人ではなにもできない。だから、これから騎士として力をつけ、僕を助けてほしい」
「はい、マルス様…」
すこしも偉ぶることなくそう呼び掛けるマルスに、クリスは思わず返事をしていた。