アリティアの蒼き剣(feカイン 凍結)
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1章 グルニア遠征
かつて暗黒戦争と呼ばれる戦いがあった。マルス王子率いる英雄たちとドルーア帝国との壮絶な戦い。それは地竜王メディウスの消滅と共に終わりを告げた。炎の紋章のもとに集い氏戦士たちもそれぞれの国に帰り、荒れ果てた祖国の再建に力を尽くした。アカネイアの七王国と呼ばれた国々のうち、グラグルニアは既に滅亡。アリティア、オレルアン、マケドニア、タリスは深い傷跡を残し、大国アカネイアもまた再建途上にあった。
そんな、まだ戦乱冷めやらぬアカネイア王都パレスで、ひとつの重大な出来事が起こった。オレルアンの王弟ハーディンがニーナ王女と結ばれ、アカネイアの第24代国王となったのである。ハーディンは強引とも思えるやり方でまたたくまに国力を回復し、強大な軍隊を作り上げた。そしてアカネイア神聖帝国の再興を宣言し、自ら皇帝となったのである。
一方そのころ、戦乱にあれたアリティア王国もマルス王子らの努力によってようやくおちつきを取り戻し始めていた。また、未来のために若い力を集おうと、騎士見習いの募集も再開された。マルス王子とシーダ王女の婚礼も発表され、アリティアの人々はその幸せそうな姿に喜びを分かち合った。だがしかし、婚礼を間近に迎えたある日、突然帝都パレスより一通の命令書がもたらされた。
――――――
親愛なるアリティアの王子マルスに告ぐ、アカネイア占領下にあるグルニア王国で大規模な反乱がおこった模様
ついては貴国にその鎮圧の手助けを要請したい
直ちに全軍を率いて出撃し、グルニアの反乱を鎮圧されよ
アカネイア皇帝
――――――
アリティアにとってアカネイアは父なる国。やむなくマルスはカインらに祖国の守りを命じ、グルニア遠征に旅立つことになったのだった。
***
「あっと、あれと、これと…」
「セシル、荷物整理?」
「ええ、これが正式な初陣だもの、しっかりしなきゃね」
第七小隊の寮では、二人部屋になってしまったここで、セシルとクリスが遠征の支度にとりかかっていた。あの裏切りから約ひと月。ようやく気持ちが落ち着いたころ、それは突然の遠征要請だった。
「それにしても、シーダ様かわいそうに、もうすぐご結婚だったというのに」
「仕方ないわ、アカネイアからの要請だもの。早く済んで、お二人が落ち着いて暮らせると良いのだけれど…」
2人は少し沈んだ表情を浮かべる。
「…そういえば、クリス今日は訓練はいいの?」
「ええ、カイン殿にも今日は休めって追い払われてしまったわ。でも餞別もいただいたの」
「なになに?」
「ほら」
「わ、すごい!」
クリスがにこにこと嬉しそうに見せたのは、銀の剣だった。
「こんな高価なものもらっちゃったの…?」
「まだ私には扱いが難しいから、鞍につけておこうと思うのだけれど、いざというとききっと助けてくれるわ」
「ふ~ん」
高価な武器に目を輝かせていたセシルは、にやりと笑ってクリスを見た。
「な、なに?」
「ずいぶんと目をかけてもらってんのね」
「そういうんじゃないわよ。私が無理いって指導していただいてるだけで」
「そう? カインさんもあんたと訓練してる時、楽しそうだけどね。今じゃあんたとカインさんの気合入れる声が城中に漏れ出てるって話有名よ、アリティアの七不思議ってね」
「え、うそ!?」
はい、支度おしまい。セシルはリュックを閉めて、寝台の上に放り投げた。
**
第七小隊にとってアリティアを出国するのは初めてのことだった。経験したことのない長い遠征は、終わりない旅にすら思えた。闘うことや訓練とは違う苦痛がそこにはある。一同は先輩騎士たちに励まされながらグルニアへの道をひたすら進むしかなかった。そうしてやっとのおもいでグルニアにたどり着くと、はじめにグルニアの占領を任されているアカネイアの将軍ラングが姿を現した。ラングが言うには、反乱軍を指揮するのはロレンス将軍だという、その事実にマルスは驚きを隠せない様子だった。さらにラングはロレンスのかくまうグルニアの王女と王子を捕らえ、反乱軍の家族を殺し村を焼くことを宣言した。
そこまでする必要がいったいあるのだろうか。しかもロレンスは、先の戦争で味方だった男だという。クリスにはまだ、経験として国の状況はわからないが、ラングのあまりに高圧的態度と言い、いったい何が正しいのかわからなくなっていた。ただマルスのそばで、静かに話を聞いていた。
「ジェイガン…ハーディンはなぜあんな男にこの国を任せたのだろう」
「お気持ちはわかります。ですが反乱は事実、まずは敵を何とかせねばなりません」
グルニアは山に囲まれた村だった。砦に向かうには狭い道を行かねばならなかった。アリティア軍は進軍していった。狭い道までたどり着くと、大きな斧を持った兵たちが待ち構えていた。苦戦したが、今は第七小隊だけではない。ゴードンとドーガもいることは心強かった。途中、マルスは民家を訪れ、この国の状況を探った。その途中志願し仲間になったシスター、マリーシアのおかげで、一同は治療を施してもらうこともできた。
クリスが最も驚いたことは、住民たちは敵であるはずのアリティア軍におびえなかったことだった。アリティア軍が意味もなく危害を与えないと知っているかのようだった。そして、ラングがいかにひどい仕打ちをしてきたか、反乱は民を思うロレンス将軍にとって仕方ないことだったことが明かされた。
「いったいどうなっているのかしら…」
「わたしにも、何かが間違っているような気がしてならないよ」
ロディが静かにそういった。
「見えた!砦だ!」
ドーガの声で皆の意識が集まった。斧の軍団を超えた先には、ロレンスと、その近衛兵たちのみが砦の前に待ち構えていた。
「みんな、僕とジェイガンに行かせてくれ。単数で行けば何か気が付いてくれるだろう。クリスもきてくれ!」
大方の敵はもう倒れていた。そこでアリティア軍はその場に待機し、たった三人だけが砦にち被いていった。槍を構えていた敵軍だが、こちらの様子を見ると槍を上に向けた。
「マルス王子、おぬしなのか…」
そのまま何事もなく近づいていくと、やはりそこにいたのはロレンスだった。マルスは戦いたくないと意思を示し、村の仕打ちをハーディンに伝えるから、と訴えた。しかしロレンスは首を横に振るばかりだった。
「王子は何もわかっていない。ハーディンほどの男が訳もなくあのようなくだらぬ男を司令官にするとお思いか。これはアカネイアが我らを完全に占領下にせんと、反乱を誘っておるのだ。」
「そんな、まさかハーディンが!?」
「もう王子の知るハーディンではないのだ。しかし王子、ご厚意には感謝する。わしの最後の頼みを聞いてほしい。この砦にはグルニア王家の幼い王子と王女がかくまわれている。そのこたちをどうか助けてやってほしい。それさえ聞いてもらえれば、思い残すことはないのだ」
「あ……」
クリスには、ロレンスが何をしようとしているのか分かった。だが固まったように、体が動かなかった。最後にロレンスは、眼帯をしていない片目でクリスを見た。
「騎士よ、若いそなたはアリティアの希望。王子と王女も、私にとって最後の希望なのだ――」
「将軍、」
「頼んだぞ――」
次の瞬間、白髪の男は真っ赤な血と共に、地に伏していた。周囲の近衛兵たちは、止めることもできず、ただうつむき歯を食いしばっていた。追い詰められた将軍は、自ら命を絶ったのだ。
**
近衛兵たちの案内で城へ入ると、少女と少年が涙を流して抱き合っていた。
「ロレンス死んじゃった、僕たちどうすればいいの」
そういってすすり泣く姿に、クリスはめまいがするほどの怒りを覚えた。こんなに幼い子たちが、領土争いの犠牲となったのだ。
「いや!近寄らないで!けだもの!近寄るなら私も死にます!」
クリスは、手に持っていた剣を下ろした。それから膝をつき、王女より目線をひくくして見つめた。
「クリス…?」
「お辛いでしょう…」
「いや!何が分かるのよ! あなたたちがこなければロレンスは…!」
「おっしゃるとおり、私はここに来るまで、何もわかっておりませんでした…。ロレンス将軍は、若い私をアリティアの希望とおっしゃってくださいました。そして、自分にとって、あなたがたも希望であると。だから、お辛くても、どうか死なないでください」
ユミナ王女は、驚いたように目を見開いてから、とうとう涙を流してすすり泣いた。
「王女、マルス様が――」
「ほうほうご苦労であったな、マルス殿。反乱者も捕らえたようだ」
クリスの声を遮ったのは、あのラングだった。ユミナはラングを睨み付け、弟を背中にかくまった。
「ラング将軍、待ってくれ。この子たちに罪はない、僕に任せてはくれないか」
「そうはいかん、捕虜はわしの城へ連れていく。それより貴公にはこのままマケドニアに向かってもらう。軍の反乱で、ミネルバ王女が捕らえられたとのことだ。」
「ミネルバ王女が…? わかった、だがその子たちは――」
「くどいぞ! 王女と王子を捉えよ、城に連れていく!」
カッと目を見開いて怒鳴ったかと思うと、ラングの脇にいた騎士があっという間に二人を捉えた。クリスはあまりのことに思わず立ち上がった。
「いや!離して!」
「ユミナ!」
「ユベロ! お姉ちゃん、助けて!きゃあ!」
「王女、王子!」
騎士たちはあっという間に馬にまたがり、二人を連れ去ろうとした。
「待てラング!」
「王子、ご命令いただければ私がすぐに!」
「王子、クリスそなたも落ち着くのだ!」
ジェイガンがクリスの肩を持ちなだめる。そうしているうちに、ラングの小隊はあっという間に姿を消してしまった。
「ジェイガン様! 私は我慢なりません!」
「落ち着くのだ、いま歯向かえば我々は反逆者、ここは我慢するのだ。ミネルバ王女を助ければ、マケドニアは我々の味方となるであろう、いまはその時ではない!」
「く……」
クリスはぎり、と歯をかみしめるしかなかった。最後に見た、ロレンスの暖かな目の光りが脳裏に浮かんだ。
かつて暗黒戦争と呼ばれる戦いがあった。マルス王子率いる英雄たちとドルーア帝国との壮絶な戦い。それは地竜王メディウスの消滅と共に終わりを告げた。炎の紋章のもとに集い氏戦士たちもそれぞれの国に帰り、荒れ果てた祖国の再建に力を尽くした。アカネイアの七王国と呼ばれた国々のうち、グラグルニアは既に滅亡。アリティア、オレルアン、マケドニア、タリスは深い傷跡を残し、大国アカネイアもまた再建途上にあった。
そんな、まだ戦乱冷めやらぬアカネイア王都パレスで、ひとつの重大な出来事が起こった。オレルアンの王弟ハーディンがニーナ王女と結ばれ、アカネイアの第24代国王となったのである。ハーディンは強引とも思えるやり方でまたたくまに国力を回復し、強大な軍隊を作り上げた。そしてアカネイア神聖帝国の再興を宣言し、自ら皇帝となったのである。
一方そのころ、戦乱にあれたアリティア王国もマルス王子らの努力によってようやくおちつきを取り戻し始めていた。また、未来のために若い力を集おうと、騎士見習いの募集も再開された。マルス王子とシーダ王女の婚礼も発表され、アリティアの人々はその幸せそうな姿に喜びを分かち合った。だがしかし、婚礼を間近に迎えたある日、突然帝都パレスより一通の命令書がもたらされた。
――――――
親愛なるアリティアの王子マルスに告ぐ、アカネイア占領下にあるグルニア王国で大規模な反乱がおこった模様
ついては貴国にその鎮圧の手助けを要請したい
直ちに全軍を率いて出撃し、グルニアの反乱を鎮圧されよ
アカネイア皇帝
――――――
アリティアにとってアカネイアは父なる国。やむなくマルスはカインらに祖国の守りを命じ、グルニア遠征に旅立つことになったのだった。
***
「あっと、あれと、これと…」
「セシル、荷物整理?」
「ええ、これが正式な初陣だもの、しっかりしなきゃね」
第七小隊の寮では、二人部屋になってしまったここで、セシルとクリスが遠征の支度にとりかかっていた。あの裏切りから約ひと月。ようやく気持ちが落ち着いたころ、それは突然の遠征要請だった。
「それにしても、シーダ様かわいそうに、もうすぐご結婚だったというのに」
「仕方ないわ、アカネイアからの要請だもの。早く済んで、お二人が落ち着いて暮らせると良いのだけれど…」
2人は少し沈んだ表情を浮かべる。
「…そういえば、クリス今日は訓練はいいの?」
「ええ、カイン殿にも今日は休めって追い払われてしまったわ。でも餞別もいただいたの」
「なになに?」
「ほら」
「わ、すごい!」
クリスがにこにこと嬉しそうに見せたのは、銀の剣だった。
「こんな高価なものもらっちゃったの…?」
「まだ私には扱いが難しいから、鞍につけておこうと思うのだけれど、いざというとききっと助けてくれるわ」
「ふ~ん」
高価な武器に目を輝かせていたセシルは、にやりと笑ってクリスを見た。
「な、なに?」
「ずいぶんと目をかけてもらってんのね」
「そういうんじゃないわよ。私が無理いって指導していただいてるだけで」
「そう? カインさんもあんたと訓練してる時、楽しそうだけどね。今じゃあんたとカインさんの気合入れる声が城中に漏れ出てるって話有名よ、アリティアの七不思議ってね」
「え、うそ!?」
はい、支度おしまい。セシルはリュックを閉めて、寝台の上に放り投げた。
**
第七小隊にとってアリティアを出国するのは初めてのことだった。経験したことのない長い遠征は、終わりない旅にすら思えた。闘うことや訓練とは違う苦痛がそこにはある。一同は先輩騎士たちに励まされながらグルニアへの道をひたすら進むしかなかった。そうしてやっとのおもいでグルニアにたどり着くと、はじめにグルニアの占領を任されているアカネイアの将軍ラングが姿を現した。ラングが言うには、反乱軍を指揮するのはロレンス将軍だという、その事実にマルスは驚きを隠せない様子だった。さらにラングはロレンスのかくまうグルニアの王女と王子を捕らえ、反乱軍の家族を殺し村を焼くことを宣言した。
そこまでする必要がいったいあるのだろうか。しかもロレンスは、先の戦争で味方だった男だという。クリスにはまだ、経験として国の状況はわからないが、ラングのあまりに高圧的態度と言い、いったい何が正しいのかわからなくなっていた。ただマルスのそばで、静かに話を聞いていた。
「ジェイガン…ハーディンはなぜあんな男にこの国を任せたのだろう」
「お気持ちはわかります。ですが反乱は事実、まずは敵を何とかせねばなりません」
グルニアは山に囲まれた村だった。砦に向かうには狭い道を行かねばならなかった。アリティア軍は進軍していった。狭い道までたどり着くと、大きな斧を持った兵たちが待ち構えていた。苦戦したが、今は第七小隊だけではない。ゴードンとドーガもいることは心強かった。途中、マルスは民家を訪れ、この国の状況を探った。その途中志願し仲間になったシスター、マリーシアのおかげで、一同は治療を施してもらうこともできた。
クリスが最も驚いたことは、住民たちは敵であるはずのアリティア軍におびえなかったことだった。アリティア軍が意味もなく危害を与えないと知っているかのようだった。そして、ラングがいかにひどい仕打ちをしてきたか、反乱は民を思うロレンス将軍にとって仕方ないことだったことが明かされた。
「いったいどうなっているのかしら…」
「わたしにも、何かが間違っているような気がしてならないよ」
ロディが静かにそういった。
「見えた!砦だ!」
ドーガの声で皆の意識が集まった。斧の軍団を超えた先には、ロレンスと、その近衛兵たちのみが砦の前に待ち構えていた。
「みんな、僕とジェイガンに行かせてくれ。単数で行けば何か気が付いてくれるだろう。クリスもきてくれ!」
大方の敵はもう倒れていた。そこでアリティア軍はその場に待機し、たった三人だけが砦にち被いていった。槍を構えていた敵軍だが、こちらの様子を見ると槍を上に向けた。
「マルス王子、おぬしなのか…」
そのまま何事もなく近づいていくと、やはりそこにいたのはロレンスだった。マルスは戦いたくないと意思を示し、村の仕打ちをハーディンに伝えるから、と訴えた。しかしロレンスは首を横に振るばかりだった。
「王子は何もわかっていない。ハーディンほどの男が訳もなくあのようなくだらぬ男を司令官にするとお思いか。これはアカネイアが我らを完全に占領下にせんと、反乱を誘っておるのだ。」
「そんな、まさかハーディンが!?」
「もう王子の知るハーディンではないのだ。しかし王子、ご厚意には感謝する。わしの最後の頼みを聞いてほしい。この砦にはグルニア王家の幼い王子と王女がかくまわれている。そのこたちをどうか助けてやってほしい。それさえ聞いてもらえれば、思い残すことはないのだ」
「あ……」
クリスには、ロレンスが何をしようとしているのか分かった。だが固まったように、体が動かなかった。最後にロレンスは、眼帯をしていない片目でクリスを見た。
「騎士よ、若いそなたはアリティアの希望。王子と王女も、私にとって最後の希望なのだ――」
「将軍、」
「頼んだぞ――」
次の瞬間、白髪の男は真っ赤な血と共に、地に伏していた。周囲の近衛兵たちは、止めることもできず、ただうつむき歯を食いしばっていた。追い詰められた将軍は、自ら命を絶ったのだ。
**
近衛兵たちの案内で城へ入ると、少女と少年が涙を流して抱き合っていた。
「ロレンス死んじゃった、僕たちどうすればいいの」
そういってすすり泣く姿に、クリスはめまいがするほどの怒りを覚えた。こんなに幼い子たちが、領土争いの犠牲となったのだ。
「いや!近寄らないで!けだもの!近寄るなら私も死にます!」
クリスは、手に持っていた剣を下ろした。それから膝をつき、王女より目線をひくくして見つめた。
「クリス…?」
「お辛いでしょう…」
「いや!何が分かるのよ! あなたたちがこなければロレンスは…!」
「おっしゃるとおり、私はここに来るまで、何もわかっておりませんでした…。ロレンス将軍は、若い私をアリティアの希望とおっしゃってくださいました。そして、自分にとって、あなたがたも希望であると。だから、お辛くても、どうか死なないでください」
ユミナ王女は、驚いたように目を見開いてから、とうとう涙を流してすすり泣いた。
「王女、マルス様が――」
「ほうほうご苦労であったな、マルス殿。反乱者も捕らえたようだ」
クリスの声を遮ったのは、あのラングだった。ユミナはラングを睨み付け、弟を背中にかくまった。
「ラング将軍、待ってくれ。この子たちに罪はない、僕に任せてはくれないか」
「そうはいかん、捕虜はわしの城へ連れていく。それより貴公にはこのままマケドニアに向かってもらう。軍の反乱で、ミネルバ王女が捕らえられたとのことだ。」
「ミネルバ王女が…? わかった、だがその子たちは――」
「くどいぞ! 王女と王子を捉えよ、城に連れていく!」
カッと目を見開いて怒鳴ったかと思うと、ラングの脇にいた騎士があっという間に二人を捉えた。クリスはあまりのことに思わず立ち上がった。
「いや!離して!」
「ユミナ!」
「ユベロ! お姉ちゃん、助けて!きゃあ!」
「王女、王子!」
騎士たちはあっという間に馬にまたがり、二人を連れ去ろうとした。
「待てラング!」
「王子、ご命令いただければ私がすぐに!」
「王子、クリスそなたも落ち着くのだ!」
ジェイガンがクリスの肩を持ちなだめる。そうしているうちに、ラングの小隊はあっという間に姿を消してしまった。
「ジェイガン様! 私は我慢なりません!」
「落ち着くのだ、いま歯向かえば我々は反逆者、ここは我慢するのだ。ミネルバ王女を助ければ、マケドニアは我々の味方となるであろう、いまはその時ではない!」
「く……」
クリスはぎり、と歯をかみしめるしかなかった。最後に見た、ロレンスの暖かな目の光りが脳裏に浮かんだ。