アリティアの蒼き剣(feカイン 凍結)
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「今日は待ちに待った騎士叙勲の日だぜ!ここまでこれたのはお前のおかげだ!あー隊長譲ってよかった!」
翌日朝起きて食堂へいくと、なにやらまたルークの様子が変だった。礼を言われたのは初めてだが、悪い気はしない。
彼の言う通り、一晩明けた今日は騎士叙勲の日だった。そして、それを終えれば遂にマルスへあの返事を返す資格を得たことになる。
「騒がしいわねぇ」
「あ、おはようセシル、ていうかみんな、起きたのね」
ぞろぞろとやってきた一同はルークとクリスの隣に席を置いた。一同は地歩版空けて実感がわいてきたのか、クリスに礼を言った。あまり褒められるのは得意ではないのだが、うれしいことだ。クリスもひとりひとりに礼を言った。
「カタリナ、あなたとあの時ぶつかってよかったわ」
最後に、疲れているのか少し大人しいカタリナにそう言うと、彼女はなにか感慨深そうに「あれからあっというまでしたね」と言った。
「私、忘れません。いままであなたと一緒に居られたこと…」
「なにいってるのよ、死に際みたいなこと言わないで。ここからがスタートなんだから、ね!」
「あ、はい、私どうしちゃったんでしょう、すみません」
カタリナは困ったように笑った。たぶんまだ実感もわかなくて、そんな改まった気持ちになっているだけだろう。食堂にいると今まで戦ってきた教官たちが声をかけてくれた。オグマ、ゴードン、マリク、シーダ、それにリフも。最後に声をかけてくれたのはドーガだった。
「クリス、おめでとう」
「ドーガ様、ありがとうございます」
「おお、そうだ、クリス、もう様付けはだめだぞ。これからは同じ軍で職務に就くのだ」
「では、ドーガ殿と呼ばせてください」
「うむ、そうだな」
「では俺もそうしてもらおう」
「わっ、カイン様!」
いつから食堂に来ていたのだろう。昨日までの教官が突然顔を出してそう言った。
「カイン、おどかすなよ」
「ははっ、めでたい日だ、目くじら立てないでくれよな」
ドーガはふぅ、とため息をついた。
「では、カイン様のこともカイン殿、とお呼びしてよいのですか?」
「ああ、そうだ。いつまでも様様って、ちょっと居心地もわるいしなぁ」
「ふふ、ドーガ殿、カイン殿」
クリスは繰り返して、嬉しそうに笑った。あこがれの人たちと、すこしだけ肩を並べられた気がして、うれしかったのだ。
「おーい、クリス、なんか気持ち悪いぞ~」
ルークがそっと呼び掛けたが、当人はドーガとカインが言った後もしばらくニヤニヤしていたのだった。
***
叙勲式は、王座の間で行われた。訓練に関わった騎士たちが並ぶ中、合格した数名がまっすぐに並びその時を待っていた。時刻になると、ラッパが吹かれ、紫色の布の上に騎士の勲章を乗せたものを持ったジェイガンとマルスが入場した。そして、隊長の名が呼ばれた。
「クリス、前へ」
「はい」
前へ進み出て、マルスの前にひざをつく。後ろの皆も、同様に膝をついた。マルスはそっとクリスのあたまに手をかざした。
「アリティアの祖、アンリとマルスの名において、汝らを騎士に叙任する」
そしてジェイガンの持つ騎士の勲章をその手に渡した。クリスは立ち上がり、後退して列に戻った。そして全員に勲章が渡ったかというその時、神聖なその場の扉が勢い良く開かれた。全員の視線がそちらに向いた。
「ま、マルス様、ジェイガン様!」
「神聖なる叙勲式の最中であるぞ」
ジェイガンが低い声で問いかける。明らかに飛び込んできた騎士は緊急を要しているように見えたが、ジェイガンの声は落ち着いていた。
「襲撃です! 何者かが侵入しました!」
「なに――賊は何人だ」
「わかりません、気づけば城内に…」
全員が腰の武器に手をかけていた。ジェイガンは皆の焦りを落ち着けるように言った。
「わしが指揮を執る。第七小隊はここでマルス様をお守りせよ!」
「はっ!」
第七小隊以外がばたばたとかけて、王宮の扉の前に集まった。マルスは第七小隊に囲まれ、顔をしかめている。その時、クリスはふと気が付いた。カタリナだけが、皆から一歩離れていることに。声をかけようとしたとき、彼女は小さな声でこう言ったのだ。
「…外の兵は動けないです。薬を盛られていますから。命は無事ですが数日間はうごけないでしょう。」
「か、たりな…?」
「場内を自由に動ける内通者がいれば、一服盛るのも、仲間を手引きすることだってできます。だから信用されるまで何日も機会を待つ、そういう命令だったんです。――私はアイネ、マルス様を殺しに来たんです」
「あなた――!!」
その目は、一瞬でマルスに向けられた。
なにか考える隙もなかった、ただお守りしなくては、とマルスの肩を強く推した。
「サンダー」
「マルス様!」
「クリス――!」
魔法にはめっぽう弱い、生身だから当然だ。だからそれなりの覚悟をしていたはずなのに、地面に打ち付けられた以外、痛みはなかった。様々な悲鳴や声が聞こえて、一瞬何が起こったかわからない。ただ混乱に乗じてカタリナが王宮を走り去っていくのはわかった。
「何をしておる、取り逃がすな!」
ジェイガンのどなり声が聞こえるころには、彼女は見えなくなっていた。
「カイン!」
かばったはずのマルスの声に、クリスは八と振り返った。そして、状況に合点がいった。
「か、いん、様…」
そこには、マントを焦がして膝をつくカインの姿があった。マルスをかばった自分を、カインが守ってくれていたのだ。
「どうして…!」
「ばか、もう様は、つけるなと、いったろう、」
「そんな、あんな至近距離で…リフ殿! リフ殿!」
呼びかけるまでもなく、叙勲式に参加していた僧侶が走りやってきて、カインの傷を確かめた。
「カタリナが敵ってどういうことよ! マルス様を殺そうと…」
セシルの悲鳴のような言葉がすべてだった。あまりに衝撃で、クリスは頭が動かなかった。
「騒ぐな!」
ぐ、と足に力を込めて、カインが腹から声を出した。
「俺たちの役目は、マルス様をお守りすること、気持ちはわかるが、とにかく今はここを突破する。ジェイガン様…」
「うむ、ここはアリティア城の最奥、出口まで敵が潜んでいるだろう。全員固まって指示に従え。扉を開けよ! カイン、先に行くぞ!」
扉が開かれた。奇襲はなく、待ち伏せられているようだ。ドーガやゴードンたちは先頭に立ち進んでいく。カインと第七小隊、そしてマルスがそこに残された。
ふっと淡い光が降り注ぎ、カインの傷が完全とは言えないが治癒された。すぐに追いかけようとしたカインだが、まだサンダーの直撃した左足がうまく動かないようだった。
「このまま君たちがまともに闘うのは危険だ、ここは僕に任せて。僕が隙をついて脱出すれば、奴らの狙いは僕だろうから」
マルスが剣を引き抜く。だがクリスは首を横に振った。
「マルス様、カイン殿もお待ちください。私も共に戦います。マルス様、私もマルス様をお守りしたいのです。私情は押し殺します、行きます。リフ殿、もういちどライブをお願いできますか」
そしてもう一度青い光が降り注ぐ中、煮え切らない顔だったルークが声をあげた。
「ま、待て!お前ばっかりいいかっこさせねぇからな!」
「そうだ、私たちはもう騎士になったのだ、ならば使命を果たすまで」
「ぼくもです」
「あたしたち第七小隊、どんな相手にだって勝ってきたわ。だからやってやるわ!」
「みんな…覚悟はいいのね?」
皆が受け取った騎士の紋章をマントにつけた。それを合図に、第七小隊は本隊を追い走り出した。