傷のふさぎ方(feフレイ)
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いなくなったと思った人間が現れることが、どんな衝撃を与えるのか。
引っ越したはずの友人に立ち寄った街で会うだとか、配属された勤務地にその人がいたとか、別の人間に雇われて敵になっているとか。
一番喜ばしいことは、死んだはずの人間が生きていることだと思っていた。だがそれは違っていたらしい。失った悲しみをきっちり新しいもので覆い隠して、自分を満足させた時に現れたら、どう思うか。手放しに喜んで走り寄っていくような、無邪気な若さはいつのまにかなくなっていたようだ。
傷のふさぎ方
暗黒戦争より約一年。死闘を繰り広げ疲弊した祖国も、平和な時を戻しつつある。先日発表された騎士見習いの募集再開の知らせは、その平和を強く感じさせる。ようやく未来に向けて、若者たちを集えるようになったのだ。アリティアはまた大きく、強くなるだろう。過去の戦争の傷が癒え始め、また未来の危機に備える力をつけ始めたのだから。
クリスも、それは同じはずだった。戦争を乗り越え、軍の外に恋人ができた。忙しい中でも休日には彼の店に出かけた。部屋でじっとしている時間は作りたくなかった。ある人物が忘れられない。その男はもう何年も姿を現していなかった。もうこの世にはいないはずだった。
それなのに、不思議なことに男は今、訓練所で見習い騎士たちの試験官を行なっている。簡単なことで難しいことだ。男は生きていたのだという。
フレイという男は、出会った頃から苦労を背負いこむタイプの人間だった。嫌な役目も他の物が嫌がるのであれば引き受ける。はじめのうちはそんな姿に、なんて危うい人なのだろうかと心配の気持ちさえ抱いたが、気がつけばそれは愛となっていた。
そんな性格は彼を不幸に陥れた。幼きマルス王子を逃がすため、囮に志願したのだ。なぜ彼ばかりいつも。止めることもできずフレイは行ってしまった。フレイは命は取り止めたが、怪我のショックから記憶を失ったと伝え聞いている。そして騎士見習いの募集が決まったころ、記憶を取り戻しアリティアに帰還した。クリスはもちろん、それを聞いた時には腰を抜かすほど驚いた。その時にはタリスへ使いに出ていたから、とにかくもどかしくてたまらなかった。だが戻るまでの時が彼女を冷静にした。新しい生活、新しい男。そこにフレイの居場所はもうない。クリスが城の外に恋人を作った話は出回っているし、彼に情もある。すぐにきっぱり縁を切ることはできずに城に戻るしかなかった。
再会した彼は、恋人として過ごした頃のことなどすっかり抜け落ちたような様子だった。愕然としたが、それがフレイの気遣いとすぐにわかってしまう。
「ご無事でしたか」
「君も変わりないようだな」
そんな一言だけで、再会は終わった。
「午後よりフレイ殿による講義を行う。付いてきてくれ、教室まで案内しよう」
実技教官のカインの声。実技の後に講義か、と落胆するような声が上がる。フレイの困ったような笑い声が静かに聞こえてきた。
引っ越したはずの友人に立ち寄った街で会うだとか、配属された勤務地にその人がいたとか、別の人間に雇われて敵になっているとか。
一番喜ばしいことは、死んだはずの人間が生きていることだと思っていた。だがそれは違っていたらしい。失った悲しみをきっちり新しいもので覆い隠して、自分を満足させた時に現れたら、どう思うか。手放しに喜んで走り寄っていくような、無邪気な若さはいつのまにかなくなっていたようだ。
傷のふさぎ方
暗黒戦争より約一年。死闘を繰り広げ疲弊した祖国も、平和な時を戻しつつある。先日発表された騎士見習いの募集再開の知らせは、その平和を強く感じさせる。ようやく未来に向けて、若者たちを集えるようになったのだ。アリティアはまた大きく、強くなるだろう。過去の戦争の傷が癒え始め、また未来の危機に備える力をつけ始めたのだから。
クリスも、それは同じはずだった。戦争を乗り越え、軍の外に恋人ができた。忙しい中でも休日には彼の店に出かけた。部屋でじっとしている時間は作りたくなかった。ある人物が忘れられない。その男はもう何年も姿を現していなかった。もうこの世にはいないはずだった。
それなのに、不思議なことに男は今、訓練所で見習い騎士たちの試験官を行なっている。簡単なことで難しいことだ。男は生きていたのだという。
フレイという男は、出会った頃から苦労を背負いこむタイプの人間だった。嫌な役目も他の物が嫌がるのであれば引き受ける。はじめのうちはそんな姿に、なんて危うい人なのだろうかと心配の気持ちさえ抱いたが、気がつけばそれは愛となっていた。
そんな性格は彼を不幸に陥れた。幼きマルス王子を逃がすため、囮に志願したのだ。なぜ彼ばかりいつも。止めることもできずフレイは行ってしまった。フレイは命は取り止めたが、怪我のショックから記憶を失ったと伝え聞いている。そして騎士見習いの募集が決まったころ、記憶を取り戻しアリティアに帰還した。クリスはもちろん、それを聞いた時には腰を抜かすほど驚いた。その時にはタリスへ使いに出ていたから、とにかくもどかしくてたまらなかった。だが戻るまでの時が彼女を冷静にした。新しい生活、新しい男。そこにフレイの居場所はもうない。クリスが城の外に恋人を作った話は出回っているし、彼に情もある。すぐにきっぱり縁を切ることはできずに城に戻るしかなかった。
再会した彼は、恋人として過ごした頃のことなどすっかり抜け落ちたような様子だった。愕然としたが、それがフレイの気遣いとすぐにわかってしまう。
「ご無事でしたか」
「君も変わりないようだな」
そんな一言だけで、再会は終わった。
「午後よりフレイ殿による講義を行う。付いてきてくれ、教室まで案内しよう」
実技教官のカインの声。実技の後に講義か、と落胆するような声が上がる。フレイの困ったような笑い声が静かに聞こえてきた。
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