死神
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アカギの後に続き、お風呂に入った私は髪を乾かしながら悩んでいた。
布団が一組しかない。
犬吠埼寧々には、友人と呼ばれるような人間がいなかった。そのため、誰かが泊まりに来る機会がなく、一人で過ごすこの家に、布団は二組も必要無かったのだ。
そうこうしているうちに、髪の毛は乾いてしまった。普段、男を引っ掛けて金をせしめてはいるものの、なんとなく、アカギとひとつの布団に入って寝ることで、私の中の"何か"が変わってしまう気がしてならなかった。
とうのアカギ本人は、相変わらず窓際の壁にもたれかかって目を瞑っている。朝焼けに照らされた彼は、やはり白髪の所為もあってか、死神のようだ。ただ、それと同時に神秘的でもあった。
覚悟を決めて、押し入れから布団を出し、いつも自分が寝る位置に敷いていく。もちろん枕は一つしかない。アカギは、枕が無いと寝れないタイプなのだろうか。ぐるぐると考えながら、布団に入る。
「アカギ...」
「...何。」
「あの、別に変な意味で言う訳じゃ無いんだけど、一緒に寝る?や、まだ肌寒いから...風邪とか、引いちゃうと困るだろうし、それに、」
私が言い終わる前に、アカギは意外と素直に布団へ入ってきた。しかも、何故か向かい合わせになる状態で。
アカギは何も言わず、ただじっとこちらを見つめる。私も、彼の顔を、目を静かに見つめる。聞こえるのは、私の心臓の音と、時計の秒針の音と、鳥の囀り。
「物欲しそうな顔してる」
そう言って、アカギは私長い髪を少し掬って指に絡めて遊び始める。物欲しそうな顔ってなに、別にアカギのことが欲しいだなんて思っても無いし、一言もそんなこと発してはいない。
「別に、そんなこと思ってないし、考えても無いよ。」
「そう...。」
相変わらず、アカギは私の髪の毛に指を絡めて遊んでいる。よく見ると、その行為はとても色っぽく、頭がクラクラとする。なんでこんな状況になってしまったのか、数時間前の私を呪った。
「寧々」
「っ、」
いきなり名前を呼ばれ、声にならない声が出た。アカギは絶対にからかっている。私の反応を見て面白がっている。主導権を握られていることに少し腹が立って、仕返しの意味で私は自分の身体をもう少しだけ、アカギに押し付けた。
アカギは一瞬驚いたような顔をしてみせたが、クスリと笑う。
「いつもこうやって男誘ってんだ。」
知っていた。赤木しげるは私が夜な夜な、男を引っ掛けて遊んでいる(と言っても生活のため)ことを知っているのだ。
「...知ってたの。」
「ああ。なんだか噂になってるぜ。犬の付く苗字の猫みたいな女が居て、夜な夜な遊びまくってるって。」
そう聞いただけ、とアカギは付け加える。
「あんたも、俺と同類。」
「...同類?」
そう言うと、私の顎に手を添えて猫の顎を撫でるような素振りをする。くすぐったくって、少し身をよじった。
「飽いてんだ、この世界に」
「そう...そうかもしれないね。」
アカギの言葉を否定する気にはなれなかった。
そう、私は飽きていた。
自分自身に。日常に。人生に。あの母親が待つ家、薄暗い押し入れで身体を小さくして眠る日々に。
そんな中、私は昨晩赤木しげると出会った。
もしかしたら、もしかしたら、彼は私の"飽き"を満たしてくれるかもしれない。
「アカギ、嫌だったら断ってね」
私は、ごく自然にアカギの胸に頭を押し付ける。アカギは断ることなく、そっと私を抱き寄せてくれた。
おやすみ、と言ったアカギの声が聞こえたところで、私の意識はゆっくりと飲まれていった。