死神
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私、犬吠埼寧々は全力で走っていた。脇目も振らず、夜の街をひたすらに走っていた。13年間生きてきて一番をつけるくらいの力で走っていた。それはそれは必死だった。何故なら、何故ならそれは───
「待てゴラァ!女!タダで済むと思うなよ!」
追われているからである。ガラの悪い不良に。否、ガラの悪い不良というよりは"客"である。
「この状況で待てと言われて素直に待つ人間は居ないと思うんです!というかもういい加減諦めて下さい!」
私、犬吠埼寧々は齢13にして情婦の真似事をしていた。目的はお金である。私の家は俗に言う貧乏というヤツで、なおかつ家庭環境が最悪だった。帰る家は物理的には存在するが、世間一般の表現が当てはまるような家ではない。温かいご飯が出てくる訳でも、ふかふかの布団が用意されている訳でもなく、物心ついた頃から寝床は薄暗い押し入れで、ご飯は見かねた近所のおばあさんが賄ってくれていた。挙句、母親は毎晩知らない男と事情に及んでいる。そんな最悪最低な環境だった。
今日もいつも自分が"客"を捕まえる縄張で、そこそこ金を持ってそうな男を見繕った。が、風呂も入らず、私の身体を触って興奮した男が生で挿入しようとしてきたため、なんとか丸め込み、男を風呂に入れた隙に財布から金をちょっとばかし失敬して早々に退散。が、私が財布から金を抜き取った瞬間、タイミング悪く男がお風呂から上がり、慌てて逃げ出した次第である。
「っ、はぁ、!」
さすがの私も普通の人間なので、そろそろ体力が限界を迎えようとしている。おまけに今夜は嵐。既に制服はずぶ濡れ、靴もぐしょぐしょ、走りにくいことこの上ない状況。
連れ込み宿から抜け出し、全力疾走すること15分、なんとか街頭のない通りに入り、狭い路地裏に身体をすべり込ませる。心臓がバクバクと脈を打って五月蝿い。しばらく近くで男が私を探す怒鳴り声が聞こえたが、さすがに土砂降りの中、暗い街中を追い続けるのは難しいと判断したのか、しばらくして男の気配は完全に消えていた。
ふぅ、と溜息を吐き、そのまま思いっきり息を吸い込んだ。ある程度呼吸を整えた私は、そのまま路地裏を抜けて、反対側の通りに出た。
先程、男を引っ掛けた通りを超えた先に自宅はある。(自宅、と私は呼んでいるが実家ではなく隠れ家のような場所)今、このタイミングで自宅に帰るのは危険だ。ずっと雨に晒された身体は冷えきっており、さすがに温かいお風呂に入りたい。びっしょりと濡れた制服のポケットにはくしゃくしゃになったピン札が数枚。
宿に泊まるには心もとない。これからまた"客"を捕まえてどうこうする気力もない。仕方が無い、反吐が出るがあの母親が居る家に帰るしかないか、と歩き出した瞬間。人とぶつかった。
「わ、ごめんなさい...」
謝って、ぶつかった人物を見上げる。
そこには、街灯に照らされ、心底興味がなさそうな瞳でこちらを見つめる白髪の少年がいた。
「...いや、俺もあんまり前を見て無かった。悪いね。」
抑揚の無い声で彼は言う。
なんというか、彼の髪色がそう思わせるのか、或いは彼自身が纏っている空気の所為なのか、私にははっきり分からないが、まるで死神みたいだ、と思ってしまった。
「私、犬吠埼寧々。貴方は?」
「待てゴラァ!女!タダで済むと思うなよ!」
追われているからである。ガラの悪い不良に。否、ガラの悪い不良というよりは"客"である。
「この状況で待てと言われて素直に待つ人間は居ないと思うんです!というかもういい加減諦めて下さい!」
私、犬吠埼寧々は齢13にして情婦の真似事をしていた。目的はお金である。私の家は俗に言う貧乏というヤツで、なおかつ家庭環境が最悪だった。帰る家は物理的には存在するが、世間一般の表現が当てはまるような家ではない。温かいご飯が出てくる訳でも、ふかふかの布団が用意されている訳でもなく、物心ついた頃から寝床は薄暗い押し入れで、ご飯は見かねた近所のおばあさんが賄ってくれていた。挙句、母親は毎晩知らない男と事情に及んでいる。そんな最悪最低な環境だった。
今日もいつも自分が"客"を捕まえる縄張で、そこそこ金を持ってそうな男を見繕った。が、風呂も入らず、私の身体を触って興奮した男が生で挿入しようとしてきたため、なんとか丸め込み、男を風呂に入れた隙に財布から金をちょっとばかし失敬して早々に退散。が、私が財布から金を抜き取った瞬間、タイミング悪く男がお風呂から上がり、慌てて逃げ出した次第である。
「っ、はぁ、!」
さすがの私も普通の人間なので、そろそろ体力が限界を迎えようとしている。おまけに今夜は嵐。既に制服はずぶ濡れ、靴もぐしょぐしょ、走りにくいことこの上ない状況。
連れ込み宿から抜け出し、全力疾走すること15分、なんとか街頭のない通りに入り、狭い路地裏に身体をすべり込ませる。心臓がバクバクと脈を打って五月蝿い。しばらく近くで男が私を探す怒鳴り声が聞こえたが、さすがに土砂降りの中、暗い街中を追い続けるのは難しいと判断したのか、しばらくして男の気配は完全に消えていた。
ふぅ、と溜息を吐き、そのまま思いっきり息を吸い込んだ。ある程度呼吸を整えた私は、そのまま路地裏を抜けて、反対側の通りに出た。
先程、男を引っ掛けた通りを超えた先に自宅はある。(自宅、と私は呼んでいるが実家ではなく隠れ家のような場所)今、このタイミングで自宅に帰るのは危険だ。ずっと雨に晒された身体は冷えきっており、さすがに温かいお風呂に入りたい。びっしょりと濡れた制服のポケットにはくしゃくしゃになったピン札が数枚。
宿に泊まるには心もとない。これからまた"客"を捕まえてどうこうする気力もない。仕方が無い、反吐が出るがあの母親が居る家に帰るしかないか、と歩き出した瞬間。人とぶつかった。
「わ、ごめんなさい...」
謝って、ぶつかった人物を見上げる。
そこには、街灯に照らされ、心底興味がなさそうな瞳でこちらを見つめる白髪の少年がいた。
「...いや、俺もあんまり前を見て無かった。悪いね。」
抑揚の無い声で彼は言う。
なんというか、彼の髪色がそう思わせるのか、或いは彼自身が纏っている空気の所為なのか、私にははっきり分からないが、まるで死神みたいだ、と思ってしまった。
「私、犬吠埼寧々。貴方は?」
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