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「…やっと来たか、悠人」
「あ、もしかして見えてましたぁ?」
「あぁ」
「いやぁ、邪魔しちゃ悪いかと思いまして」
「なまえが、最近 悠人調子よさそうだねって言ってたよ」
葦木場さんとなまえさんが話してたから
少し遠くで、それが終わるのを待って葦木場さんの元へ来ると
葦木場さんには気付かれてたみたいで 少し呆れたようにそう教えてくれた。
「…葦木場さんて、なまえさんと仲良いすよね」
「仲?そうだな。なまえには よく聞いてたからな、中学の頃の新開さんの話」
「…あぁ、隼人くんの…」
「どうした?」
「いえ、葦木場さんとだとどんな話すんのかなって」
あぁ、と出た声がワントーン低い音で自分にも届いて
それを誤魔化すように適当に話をつないだけど
「なまえと話したいなら、話しかけてくればいい」
「…そすね」
どういう意味でとったのか、葦木場さんはオレにそう言って
でもオレは正直今 自分が、なまえさんと話したいかどうかは分からなくて
一度視線を落としてから 曖昧な気持ちでそう答えた。
「中学、同じだったんだろ?」
「はい、まぁ」
「ケンカでもしたか?」
「…そういうわけじゃないすけど」
「なまえなら怒ってないから大丈夫だ」
「いやぁ、ケンカじゃないすよ?…まぁ、謝んなきゃとは思ってますけど、ちょっと言いすぎたんで…。そのせいで話しかけにくいだけで……」
くるくると思ってない方向へ進んでく話に、オレの口からはポロリと本音が転がって
それに葦木場さんがやさしく「そうか」って答えてくれると
なんか、許されてる気がして
不思議と
心が少し軽くなった。
なまえさんも葦木場さんと同じでやさしさの強い人だから
…許されないってことはないと思う。
いや、どうだろ。葦木場さんとの話題にするのにオレの話してるだけでホントは怒ってたりするのかもしんないし。
でももし、怒ってなくて、普通に話せるようになったとしたら
前みたいに戻るかもしんなくて
そしたらまた、たまんなく好きになるかもしんなくて
でもそれが オレだけだったら、とかまで
分かりもしないのに考えて つい免罪符を口にする。
「…まぁでも、謝る機会ならそのうち」
「今じゃなくていいのか?」
「、」
ドキリとした。
心でも読まれたかのような、葦木場さんのその一言に。
謝るのは早い方がいいってのは分かってる。
分かってて、それでもオレはまだ時間があると思った。
今は無理でも、なまえさんはまだ2年だからって
でもそうやってオレは、前にも言わなかったことを後悔したはずで
忘れた気になってた。
なまえさんのせいにして
その苦しみは、八つ当たりに変えただけ。
それをまた、繰り返そうとしてる。
そんな自分に気づくと自分の子供加減に
「…本当によく聞いてたんだ、オレ。なまえから 中学の頃の新開さんのこと」
また少し、怖くなった。
そんな自分の考えに思考を持っていかれて、葦木場さんの始めた話への反応が遅れる。
「でもそれと同じくらい、悠人のこと聞いてたよ」
「……え?オレ、ですか」
「話してると絶対出てくるんだ、悠人が。自転車強くて、新開さんのこと大好きな可愛い弟がいるんだって。でも心配だっていつも言ってた」
「……」
「新開さんの存在が大きすぎて周りとギクシャクすることも多いからって。自分じゃ力になってあげられなかったのが気がかりだって、よく暗い顔してた」
「……」
「その時のオレはまだ、おまえには会ってなかったけど…きっとあの表情を笑顔に変えられるのは『悠人』だけなんだろうなって、いつも思ってたよ」
「オレが…?」
「あぁ。悠人と会って改めて思う。オレでもない、新開さんでもない、他の誰でもない」
「…」
「新開悠人だけが、できることだよ」
隼人くんじゃなくて
葦木場さんでもなくて、
オレだけが、できること…
葦木場さんの言葉が、あまりにもストンと自分の中に落ちてきて
色々考えてたのがウソみたいに何も浮かばなくて
それがホントかどうかも分からないけど
なら、オレが行かないと。
って ただそれだけを思わせた。
「…すいません葦木場さん…オレ、行ってきます」
「うん。いってらっしゃい」
やさしくそう応えて 長い手を振ってくれた葦木場さんに、頭を下げて走り出す。
謝ろう、今度は。
何を聞けなくたっていい
誰を好きだとか関係ない
たとえ許してもらえなくたって
ちゃんと、伝えよう。
オレが
あなたに
笑っていて、ほしいから。