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「悠人くん、」
「なんですかぁ?なまえさん」
自転車で全国行くために
オレがオレだと証明するために選んだこの箱根学園も、
結局周りはくだらない人ばっかりで
『新開隼人の弟』
ただそれだけで
噂されて、騒がれて、指さされて、写真までとられる。
それにカッとなって振り払った手が
先輩のスマホに当たって落ちて、壊れたけど
何日経ったって、謝る気には到底なんなかった。
そりゃ謝るよう言ってきた先輩もいたし
なまえさんが『アイツ昔からあんなだったのか?』とか言われてるのも聞こえてたけど
自転車やるのに 周りなんかどうせ全員敵なんだし、どうでもいいか と
『そんなことないんだよ』と聞こえたなまえさんの答えすら、
雑音かのように聞き流した。
「初日の…ことなんだけどね。何があったのかな…って、」
「…別に、てゆか知ってますよね。先輩達みんな話てたし。改めて話すようなコトないすよ?」
「…でも、悠人くんが怒るようなことだったんでしょう…?」
まだ少し 距離をはかるように声をかけてきたなまえさんに
笑顔を保ったまま 話す気がないことを示しても
どうやら引いてくれる気はないらしい。
「…誰か先輩にでも言われましたぁ?謝らせてこい、って」
「そういうわけじゃないよ?でも 今の空気のままじゃ、悠人くんも居心地悪いと思うし…」
「……」
「悠人くんの話聞いたら、私からちゃんと話して…原口くん達にも謝ってもらうようにするから…」
入部してから今まで、取り立てて話すでもなかったのに
こんな時だけ口出してくんのかよ…とは思っても、なんとか苦笑いにとどめる。
そりゃぁ、昔のオレなら 話 聞いてもらいましたよ。
それで謝ったかもしんないすね。なまえさんがそこまで言うんだったらって。
出会った時も 中学なってからも
兄貴を知っててオレの話を『まとも』に聞いてくれたのは なまえさんくらいだったから。
「別にいいすよ、謝ってもらわなくて。オレも謝るつもりないですし。変な気も遣わなくていいすよ?」
でももういいでしょ、そういうの。
隼人くんだって居ないんだし。
「なまえさん、関係ないんですから」
オレに構う意味、もうないでしょ。
そう思って出てきたのは突き放すような言葉だった。
思わず声がワントーン下がってて
明らかに 迷惑だ って空気も含んでたはずなのに
苦笑いひとつこぼして誤魔化すだけ。
「…そんなこと言わずに、ね?隼人先輩のことはあっても、本当はみんな悠人くんと…」
「…なまえさん、変わんないすね」
その反応に、
まだ食い下がるその態度にイラついて、これ以上何も聞きたくなくて
ため息と嫌味を混ぜて遮るように吐き出せば 止まらなくなる。
結局はオレより周りに気を遣ってることとか
隼人くんの名前を出してくることとか
それだけじゃなくて、
この1年間連絡してこなかったことも
そのくせ今更構おうとするのも
微妙なこの距離感も
全部がイラついて、しょうがなくて
「楽しいですかぁ?そうやって周りの顔色窺うのって」
「、」
「オレのこと分かってるみたいに言いますけど、この1年のことなんか何も知らないでしょ」
「そう、だけど…」
「夢でも見ちゃってます?可愛かった後輩がそのままだって。変わってますよ、オレ。強くもなってます。周りにもあなたにも どう思われようが関係ないくらいに。ここでやってくにはそれで十分でしょう?」
出会った頃とは逆転した身長差で
上から威圧するように近づいてそんなことを言えば
オレを映す瞳に影が落ちて
なまえさんは小さく、悲しそうに
オレの名前を呟いた。
「…もういいですかぁ?今日からオレ、上級の練習あるんで」
その反応がまた 心底、イヤで堪らなくて
返事も聞かず ペダルに足をかけてその場を後にした。
まるで、
逃げるように
この激しい苛立ちと、それに混じって チクッと痛むなにかから。