弱虫ペダル
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「黒田くん、部活よかったの?」
「んー?」
「放課後の分くらい、私ひとりでやってもよかったのに」
「いいんだよ。うちはそういうの厳しいんだ。塔一郎にも日直だってのは言ってあるしな」
そう答えて、SHRで黒板に書き込まれたいくつかの行を消しながら
提案したのが他の奴だったら、正直ありがたい申し出だと思ったろうなと考える。
3年になって、自分の部活での役割をいくら上手くこなしてたとしても
自転車に向き合う時間は あればあるだけいいと思うようになった。
そりゃ勿論 実際は『それだけ』じゃねぇ。元が器用だからバランスよくやってる。メンタルの問題だ。夏を前にそういう気持ちになるっていう気分の話だ。
けど今は、それを抑えてでも『この時間』こだわる理由がある。
「でも大会?もあるんでしょ?」
「まぁな。けど積み重ねだ。やるこたきっちりやってる。焦る必要なんかねェよ」
「……黒田くん、3年になってまた少し雰囲気変わったね」
「そうか?」
「昔に比べたら雰囲気柔らかくて、話かけやすくなったなぁって」
「…話しかけにくいと思われてたのかよ」
「……他の人からすればそんなことなかったと思うよ?」
「フォロー下手くそか?」
「う〜、ごめん…!」
今さらそんな事実聞かされたところでどうしようもねェし、どうだっていいんだよ、他の奴は。
お前に話しかけにくいと思われてたことがショックなんだよオレは。分かんねェだろうけど。という目でみょうじを見れば
自分の失言の対応で慌てふためくさまが、まァ…可愛いんだ。結局。
そんな姿と一緒に、書き途中で止まった日誌が視界に入るが、そのまま見てねェフリをする。
久々こんな風にゆっくり話せんだ。少しくらい許されてもいいいよな…と、心の中の塔一郎に手を合わせた。
「いや、ほら、黒田くん成績いいし、頭の回転も早いし、スポーツもできるし、スクールカースト上位っていうか…」
「別にいいって。1年の最初なんて相当 調子乗ってたしな。分からなくもねェよ」
「でも、ずっと面倒見良いとこは変わらないよね」
「できるとやってやんなきゃってなるだけだ」
「…黒田くんに憧れてる後輩、部活にたくさんいそう」
「どうだかな。まァ、憧れられたところで男ばっかだ。何も起こらねェよ」
何食わぬ顔でそう口にしながらも、内心はどうにも浮かれちまう。
褒められて嬉しいって単純か?幼稚園児でもあるまいし…と、なんとか冷静さを保つ。
「でも自転車部ってファンの女の子結構いるよね。昨年1回見に行ったとき、凄かったし」
「あー前の3年のな。マジで凄かったよ、色んな意味で」
「黒田くんにもいるでしょ?彼女いないの皆不思議がってるもん」
「いねぇとは言わねェし応援もありがたいが、そこからどうとかは考えたことねーな」
図らずしもそういう話題になるのはなんつーか、高校生らしいっちゃらしいが…皆って誰だ?一番重要なのはそこにお前が含まれてんのかどうかなんだよ。と、なんとかその辺聞き出せねェもんかと思案する。
もちろん、何でもなさそうな顔を保ちながらだ。
「…余裕がすごい…」
「何だそりゃ」
そう言って軽く笑いながら、表情筋まで器用な自分に感謝する。
カッコ悪ぃからな、バレバレとか。上手いことやんねーと。
折角ここまでイイ奴やって 気さくな挨拶も、他愛ない会話もできるとこまで持ってきてんだ。
勿体ねぇだろ、付き合うとこまで繋げなきゃ。
「でも、なんだか少し勿体ない気がしちゃうね」
「勿体ない?何が?」
反射でそう返しはしたが、まさか同じ言葉が出てくるとは思ってなくて驚く。
「黒田くん、格好いいから」
「、」
いや、次の言葉のがもっと衝撃的だったけど。
それが何を意味すんのか。イマイチ、ピンとはこねェのに
じわじわと、やたら嬉しくて。
「ならオレと付き合うか?」
ついさっきまで上手いことやんねーと、慎重に進めねーと、って思ってたのに。
出てきたのはこれだった。
「…え?」
「インハイ終われば受験っつっても息抜きだってしてーし、高校生活に色恋の一つもねェんじゃ確かに『勿体ない』しな」
「…え…私?!」
「他に誰かいるか?」
みょうじの思いもしなかったって反応に、早まったか?と一瞬よぎる。
でも勝算は悪くねェはずだ。好感はあるはずだし、格好いいと思われてんなら仮に好きまでいってなかったとしても 試しにとかなんとか丸め込んで…いや、言い方アレだな…。とにかく焦んなよ、ここで。と一旦 みょうじの反応を伺う。
「……」
「オレじゃ不満か?」
「まさか!…憧れは、あるから…でも、私でいいのか…それこそ、勿体なくないかなって…」
頬を抑えながら答えあぐねてたみょうじに問いかければ
しどろもどろに、けど概ね同意を示した答えに
オレはもう勝ちを確信して、上機嫌に『憧れ』の部分を拾う。
「憧れな。好きとは違ェの?」
「………違わないかも」
答えを待つ少しの沈黙すら、心が弾む。
「じゃあ決まりだな!」って思いきり笑ったら
まだ戸惑うみょうじに「手止まってる」なんて、さっきは見てないフリした日誌の続きを書くように促して
自分は「クリーナーかけるの忘れてた」と黒板消しを手にこっそりガッツポーズをキメる。
そこからはサクッと日直の仕事片して、職員室寄って、下駄箱までみょうじを送ってきたのに
何故かぽけっとしてるみょうじに、肩を組んだ。
「気ィつけて帰れよ、なまえ」
「?!」
「どうした?」
「な、名前…」
「呼ぶだろ普通に。付き合ったんだし。特別なヤツは名前で呼ぶ主義なんだよ」
「〜、距離感…!」
「近いって?わざとだよ。あえてやってんだ」
「何で?!」
「…はは!当ててみ?」
顔を赤くして動揺しまくる姿に嬉しくなって思わず笑う。
「か、からかってるでしょ…!」
「あー、なくはねェな」
「いじわる…?!」
「それはない」
「えぇ…?」
そう答えてから、困ってるのも可愛いと思う時点で意地悪に含まれなくもねェか?とも思ったが、まァ…今日はいいだろ。と出てくるはずのねェ答えを悩むなまえの頭をくしゃくしゃと撫でて「答え合わせは今度な」と帰るのを見送った。
知る由もない
その答えは、いつか伝える「ずっと前からお前が好きだった」なんだからな。
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