自惚れのSpiegel
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秋大の前はあんなに陽が差して眩しかった場所が、すっかり陰ってて
晴れてはいるけど 季節的にやっぱちょっと寒くて、着てたカーディガンの袖を引っ張っりながらポケットに突っ込んだ。
エースの俺をこんな寒いとこで10分も待たせるとかマネージャー失格だよ、なんて
こんな時だけマネージャー扱いしてたら、噂をすればってやつなのか聞こえてきた足音に
その足音が、なまえだって分かってはいるけど
その姿が見えるまで 待った。
「…遅いよ!」
「!ごめんね」
「せっかくちゃんと話くらいしとこうと思ったのにさ!中途半端とか気持ち悪いし!」
「…。うん、そうだね」
いつもと変わんない感じで来たくせに
一呼吸置いて そう返してきたなまえの表情は、いつもの困って笑う顔じゃなくて
穏やかに微笑む、みたいな…もう決めてるって感じの顔してて
ほんと 頑固すぎでしょ、って思わずにはいられない。
どこの捕手だよ!なんて心の中で悪態つきながら、絶対言ってやろうと思ってた台詞を声高に言ってやった。
「今まで…」
「俺、別れるつもりないから!!」
「……え?」
その間の抜けた返事を聞けば、完全に別れ話だと思い込んでるのがまるわかりで
『今までありがとう』とでも言うつもりだったんだろうけど、思いっきり遮ってやった。
「別れ話だと思った?!残念!全然違うから!そんなつもり毛頭ないから!!」
「え…、っと」
「だいたい彼氏なんて名ばかりだったじゃん!あんなの全然付き合ってるっていわないから!」
「め、鳴くん…?」
「部活中はマネージャー優先だとか言って仕方なくしか相手してくんないし、引退したら今度は勉強優先でさ!全然彼氏になれた気なんかしないし、なんなら俺より雅さんとの方が仲良いし!分かったとか言って何も分かってないし!!勝手に諦めるし!!なんか別れた気になってるし!!」
「……」
戸惑ったように俺を呼ぶなまえなんて お構い無しにまくし立てる。
俺だって一瞬くらい考えなかったわけじゃないよ?
なまえがどうしても俺が嫌で別れたいって言うならその方が良いのかも、とか。ほんとに、ほんっとに一瞬だけど!
でもさ、違うじゃん。
嫌われてる感じとかしなかったし
何考えてたかは分かんないけど『別れたい』なんて言わなかったじゃん。
「何を思って勝手にそうなったか知らないし、分かんないし、分かりたくもないし、腹立つし、ほんと面倒くさいけど!…でも、それ以上に俺はなまえが好きだから別れてやんない!!分かった?!」
「鳴くん…」
「返事!!」
明らかに、何て言うべきか迷ってるなまえに返事を急かす。
一言、お得意の『分かってるよ』って言えば それで全部丸く収まるっていうのに
こんな時ばっかり「でもね、」と続けるなまえに
どこまでも思い通りにならないことを痛感してほんと嫌になる。
「私より素敵な人に会えるかもしれないよ?」
「分かんないじゃんそんな先のこと!だいたい会えなかったらどうすんの?!責任とって結婚してくれんの?!」
「け、結婚…?でもほら、鳴くんは才能も人気もすごいけど、私は偶然マネージャーしてただけで、普通の、」
「オレがすごいのなんて産まれた時からだから!今さら何言ってんの!それにすごいとか普通とか関係ないじゃん!!」
「…釣り合わない、って話で…」
「はぁ?すごい俺に選ばれてる時点てすごいんだよ!!何言ってんの?!」
「……」
「好きだって言ってんじゃん!そんなに俺が嫌いなわけ?!」
「そうじゃないっ、…そうじゃないけど、」
俺には到底考えもつかない。
そうやって相手の将来考えて身を引くとか、絶対できない。
それができるのが、もしかしたら大人ってやつなのかもしれないけどさ
ここで 『嫌い』 だって嘘がつけないなまえは
きっとまだ
俺とたった1つしか違わない子どもなんだ。
「なまえってほんと勝手だよ」
「…」
「その分俺だって勝手なこと言うけどさ」
俺たち、考え方は全然違うけど独りよがりなとこ、似てると思う。
これでいいんだって一人で思い込んで突っ走ってコケてさ…
雅さんが言ってた、『勉強させてもらってると思えば』って
自分で気づくならいーよ?でも他人に気付かされるとかなんか腹立つじゃん。
でもさ、どうせ他人から気づかされるなら
なまえからがいいって思うから、
俺の足りないとこ、教えてよ。
勝手にどっか行くな。
俺のわがまま、ちゃんときいてよ。
「なまえがどれだけ別れるって言ったって、俺はなまえが好きだから絶対別れないし手放してなんかやんない」
「鳴くん、」
「俺 本気だよ」
普通、別れたくなかったら謝ったりするのかもしれない。
悪いとこがあったら直すから、って
考え直して欲しい、ってすがったりするのかもしれない。
でも俺はやんないよ。
どこまでもわがままに
俺らしく
こんな俺だから、好きになってくれたんだって
信じてるから。
「っていうか!一回OKした時点でなまえの負けだから!俺がそんな簡単に別れるわけないじゃん!!それくらい分かってるでしょ!?」
「……、」
自分の心臓の音をかき消すように、最後のダメ押し。
俺は俺のまま、なまえもなまえのまま
独りよがりでもいいじゃん。
コケるなら一緒にコケてさ、
嘘さえつかなきゃ、俺たち絶対やっていけるから
『分かってるよ』っていつもみたいに
言ってよ、ほら。
早く。
「……うん、分かったよ、」
「!!」
「私の負け」
そう言って、困ったように なまえが 微笑む。
「…~ほんとに分かってる!?俺のこと一番優先してくれないとか超不満だし!雅さんの方が仲良いの無理だし!樹とだけ話してんのも腹立つし!ほんとは卒業とかして欲しくないし!留年でもして同じクラスになればいいと思ってるし!膝枕じゃ全然足りないし!結構色々我慢してあげてたんだよ!その辺ちゃんと分かってんの!?」
「…う、うーん…?」
「あーあー!カッコ悪いから言わなかったんだよ今まで!!それを我慢して言ってあげてんの!俺に我慢させるなんてなまえってほんと大物だよ!!しかもそれを分かってないんだから付き合わされるこっちの身にもなって欲しいよね!!」
「……」
「はい!笑って誤魔化す!…俺高いんだよ!今まで我慢させた分のツケ、一生かけて返してもらうから!ま、でもその代わり幸せには困らないだろうから安心していいよ!!」
なんて、これでもかってくらい啖呵を切って
なまえは完全に苦笑いなんだけど
でもそれが、いつも通りで
嬉しい気がする俺の方が、実はなまえのペースにのせられてたりすんのかな。
なんて
でも、やっと追いつけた気がして
「好きでしょ、俺のこと!!」
より声高にそう言えば、
優しく微笑みなおすから
「……うん、好きだよ。鳴くんのこと」
これで、やっと
つかまえられたのかな。
「言うの遅いよ!…しょうがないから、今回はそれで許してあげるけどさ!」
→sequel