自惚れのSpiegel
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「何話してんの?」
「あ、鳴くん。お疲…」
「俺を放置して樹と何話してんの!」
「「……」」
話し相手が原田くんだった時も
『何で雅さんとばっか話すんの!!』
って感じだったからこういうのは慣れた事だけど
相手が多田野くんになるとより不機嫌になるのはどうしてだろう、と思いながら曖昧に笑う。
「はい、笑って誤魔化す!!なまえっていっつもそーだよね!!それで俺が誤魔化されるとでも思ってるわけ?だいたい何で一番最初に俺のとこ来ないの!?もう引退したんだしマネージャーより彼女でしょ!」
「部活に来る限りはマネージャーだよ?まだ卒業したわけじゃないしね」
「あーもー何それ!ホント頑固!!こっちは殆ど部活だってのにさ!!それなら早く卒業しちゃえばいいんじゃないの!!」
「め、鳴さん……!」
私に対して口が回りだすのは拗ねてる証拠で
こんな時、何度 原田くんと顔見合わせて苦笑したっけ…なんて思う。
どこよりも一番長かった夏が終わって、3年生メインの国大も終わって
数日、顔を出さなかっただけで、もう 少し懐かしいような気持ちになる。
慌ててフォローしようとしてくれてる多田野くんが次の正捕手だけど、どうやら口を挟む隙はなかったみたいで。
鳴くんに振り回されないか心配だから、鳴くんへの接し方をちょこっと教えてあげてたところだったんだけど…
「ランニング終わった?」
「今そんな話してないよね!!」
「暖まってるうちにストレッチしなきゃ。ほら、手伝うから」
こっちおいでよ、と大きな手を引いてあげれば「またそうやって誤魔化す!!」なんて叫びつつも大人しく着いてくる。
別に、多田野くんと何を話してるかは問題じゃなくて
嫉妬というよりは、独占欲。
ただ何よりも優先されていたいだけ。
「誤魔化してないよ。鳴くんの話してただけ」
「はい!またそれだよ!ホントかどうか分かんないけどね!!」
「あんまり多田野くんにはわがまま言って困らせないようにね?」
「なんで俺がそんなこと気にしなくちゃなんないわけ!知らないよ!っていうか人の話聞いてないよね!!」
「聞いてるよ?」
「どーだか!!」
ふんっ!と鼻を鳴らして柔軟しながら器用に外方を向く鳴くんに、今日は一段とご機嫌ななめだな…とこっそりと苦笑する。
でも、子供みたいに怒ってるのも可愛いんだとついつい思うのは、やっぱり好きだからかな。
そう思うと、分かっていたことなのに少しだけ
寂しい気がした。
「…卒業したら 鳴くんが投げてるとこ、あんまり見られなくなるから寂しいね」
「…俺は別にこれっぽっちも寂しくないけど!?居たってどうせ彼女じゃなくてマネージャーだし!?」
「…そっか」
「なまえはいっつも俺より他 優先だし!」
「…そうかなー」
「そうだよ!なんだかんだ許してあげてる心の広い俺に感謝しなよね!!」
「ふふ、ありがと。今日は終わるまでここで見てるから、いい音聴かせてね」
「…しょーがないなぁ!ホント頑固でわがままなんだから!!」
「…お前がそれを言うか…」
「雅さん!」
「原田くん」
「なーに!雅さんも寂しくなって俺の投球見に来たの?まったくしょーがない先輩達なんだから!早く俺離れして欲しーよ!!」
「ぶん殴るぞ」
「ま、しょーがないから見せてあげるよ!樹!準備できてんだろーな!?」
「あ、はい!いつでもいけます!!」
そんな多田野くんの声が飛んでくる横で原田くんがため息をつくから、私はつい小さく笑ってしまう。
マネージャーで居られるこの時間も
懐かしくなるこの空気も
あとほんの少しだけ
「ほらほら投げるよ!ちゃんと見てんの!?」
「うん、見てるよ」
だから、
忘れないように
この時間を
ミットに響くこの音を
忘れないように
大事に、大事に、焼きつける。