自惚れのSpiegel
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「球は走ってるな」
「ふふーん!そりゃそうでしょ!なんたって……あーーっっ!!」
「…うるせぇ」
折角いい音が鳴ったってのに、
自慢気な顔を崩して、グラウンドにまで響き渡るんじゃねぇかってくらいの大声で叫ぶ鳴に 呆れた顔をする。
明日は試合だから調整だけにして、他の奴らの練習も確認しなきゃならねぇってのに…
「なまえは!?なんで居ないわけ!?」
「……」
「ここで見とけって言ったのに!!」
「マネージャーだって暇じゃねぇんだよ」
「マネージャーの優先順位なんて、一番に俺、二番に俺、三番に俺でしょ!?俺はエースなんだから!!そこんとこ何回言っても分かんないんだよね、あの人!!雅さんからも言ってやってよ!」
「……」
「あの人って私?」
ぎゃーぎゃー喚く鳴に、ため息をついていれば
そいつはさらりと元居た場所に戻ってきて、オレの代わりに鳴への相づちを打った。
「そうだよ!もー!どこ行ってたわけ!!」
「マネージャーも色々やることあるんだよ?」
「そんなん後でいーの!!見とけって言ったじゃん!!」
「見たよ、1球目」
「全部に決まってるじゃん!!ぜ ん ぶ!!」
そう、まだ始めて5球も投げたか投げてないか。
そんなうちからこの状態だ。
普段から我が儘で、我が強ければ独占欲も強い。
みょうじを専属のマネージャーの様に傍に置きたがるかと思えばそれはアピールするためで
付き合えば少しはマシになるかと思ったが…そんな気配は微塵も無さそうだ。
「俺が見とけって言ったら全部見る!分かった!?」
「作業がなかったらね?」
「そんなの他の奴にやらせとけばいーの!!俺が一番優先!!エースで彼氏なんだからね!!」
「確かに私 鳴くんの彼女だけど、今は部活中だもん。彼女の前にマネージャー。だから、マネージャー業優先!」
「なんでそうなんの!!」
「なんでも」
「意味分かんない!分かりたくもないけど!!」
「分からなくてもそうなの」
「あーもー!いいよ!じゃあ好きにすればいーじゃん!!なまえのバーカバーカ!!」
「「……」」
すっかり不機嫌になった鳴に、俺とみょうじは苦笑する。
みょうじがまだ常識的だからそのへんは心配してないが、そのせいで今みたいに機嫌を損ねることもしばしば。
お子さまエースの相手も大変だが、結局は二人して少し、甘やかしてしまう。
「みょうじ、あと5球で終わる。横からフォームの確認頼む」
「了解です」
「……」
フォームの確認なんてのは勿論口実だ。
甲子園後に崩したフォームだってもう完全に固まってる。
みょうじもそれは分かっているし、何も言わなくても残りは見ていただろうが
他の部員も居る手前、一応口実をつけておく。
「次、スライダー」
「……」
それすらも不満らしい鳴は明後日の方向を向きながら、あー!もー!と喚いたり、地面を蹴ったりしている。
「…おい」
「~…な!ん!で!雅さんの言うことは聞くわけ!?」
「原田くんが主将だから」
「……」
みょうじのその一言でオーラが変わる。
『雅さんには絶対負けないし渡さないからね!!』とでも言いたそうにガンをとばしてくる鳴に、もう何回目かも分からないため息をついてミットを構える。
誰も取らねぇよ
なんて、さっきよりもいい音を鳴らすミットを見ながらそう思った。