言い訳ロマンス
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分かっていた、はずだった。
自分の技術が足りていないことも、
鳴さんに信頼してもらえていないことも、
そのままでは、いけないということも。
分かっていて、出来ることをやってきたつもりだったのに
ただ、全てが 足りなかったんだと
今、気付いた。
鵜久森と青道の試合を見て思い知る。
昨日負けたのは、”無力”だったせいなんかじゃない。
俺が、何もしなかっただけだ。
『遠慮することないよ』
みょうじさんが言ってくれたその言葉も、理解しているつもりで
”仕方ない”とか”前からこうだったから”なんて気持ちがどこかにあって
そんなのでいくら今の関係を変えようとしたって、変わるはずないのに
結局 俺は、自分のことだけしか見えていなくて
何も、できてなかったんだ。
「あ、二人ともおかえりなさーい!試合どでした~?」
「ただいま。7-8で青道だったよ」
「へ~接戦ですね~」
「監督は?」
「お昼終わったとこなんで、まだ中だと思いますよ~?」
「そっか、ありがとう。じゃあ俺はそっち行ってくるから、樹は先に昼食べてていいからな」
「あ、はい!」
そう言って福井先輩が監督の元へ向かって、俺がみょうじさんの方を見れば
不思議そうにしつつも話を振ってくれる。
「?試合どだった?収穫アリ?捕手の人って鳴先輩が気に入ってる人だよね?」
「うん、…色々びっくりした…かな。それで思ったことがあって…」
「なーにー?」
「…ごめん、みょうじさん」
「え…、ん!?私?私、多田野くんに謝られるようなことされた覚えないよ!?」
うん!絶っ対ない!!って驚くみょうじさんからすれば、きっと俺はまた必要ないことを言っているんだとは思うし、気にされていないのも分かってるんだけど
これから改めて頑張る前に、どうしても…自分の中で気になるから、一言謝っておきたかった。
「鳴さんとの事…アドバイスしてもらってたのに 俺、全然活かせてなくて…昨日も」
「なんだ!やっぱ謝るようなことされてないじゃん!もー びっくりさせないでよー! まだまだこれからだから!!すぐ上手くいかなくて当然なんだからね?なんたって相手はあの鳴先輩だよ~?多田野くん超苦労するんだから~」
「…うん、それでも」
「頑張る、でしょ?…次の甲子園行きも逃すようなら、その時は改めて聞くから!でも、謝られるのなんて全然嬉しくないし~そんなのより、」
「…?」
「甲子園、連れてってよね」
あぁ…やっぱり、
好きだな。
って、心の中にそれだけが浮かぶ。
好きになってしまうのが怖くて
鳴さんの言葉を否定して、自分の気持ちに気付かないフリをして、近づきすぎないようにしてきたけど
多分、もうずっと前から手後れだったんだ。
満足そうに笑うところも
さりげなく助けてくれるところも
色んな事が見えてるのに、子供っぽく振る舞うところも
全部、
好きなんだ、
俺は、みょうじさんのことが。
「…うん。絶対、連れていくよ。てっぺんまで!!」
「わおっ!言うね~」
「うん。鳴さんの目標がてっぺんだから。 俺も絶対そこまで行かないと!」
「…だね!」
今日で、諦める。
諦めることを。
俺の言葉に満足そうに笑ってくれるみょうじさんを
好きに、ならないはずがなかった。
たとえこの想いが叶わなくても良いから
それでも
俺は、彼女を好きでいよう。