言い訳ロマンス
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鳴さんのわがままはいつものことだけど
今日は どうしてこんなことになったんだろう…なんて、
月並みな相槌を打ちながら考えてみても
たいした答えを見つけられずに 隣を歩くみょうじさんをちらりと見れば、ばっちり視線が合ってしまって俺は少したじろぐ。
「コンビニ、そいえば何買いに行くの?」
「え?あー…アイスとか…」
「鳴先輩?」
「うん」
「たまには自分で行かせなきゃだめだよ?多田野くんが何でもきいてあげると余計調子に乗っちゃうんだから!」
何でも聞いてるわけじゃないけど、と言っても結局はほとんどか…なんて思いながら苦笑いすれば
少し拗ねたように「笑うとこじゃなーい!遠慮なしだよ!」と言われて、昨日アドバイスして貰った事を思い出した。
「…そういえば 昨日はありがとう、鳴さんのこと」
「?お礼なら聞いたよ」
「そうだけど」
「どーいたしましてって言ったでしょ?」
「そうなんだけど」
「どういたしましては『何をしたわけでもない』つまり、気にするなよ~ってこと!OK?」
「…うん。オッケー」
改めて伝えようとしたお礼は どうやら必要なかったみたいで
それ以上聞いてくれそうにないみょうじさんへ 復唱するように返事をすれば、にっこりと満足そうに笑われて思わず目が泳ぐ。
「いいよー、私にも遠慮しなくて。歳もクラスも部活も一緒なんだし、もっと仲良くしよ!」
「え!?いや、遠慮っていうか…」
「遠慮だよ。よく黙ったまま困った顔してるしね?」
「……そうかな」
「相手のこと、よく知らないから遠慮なんてしちゃうんだよ。鳴先輩とも、きっとそうだよ」
「……」
よく、見てるなぁ…とまた思わず視線を逸らす。
俺と鳴さんは
確かに仲が良いのとは違うと思う。
でも、
『だめですよ、鳴先輩!原田先輩が居ないからって調子に乗っちゃ!』
俺がいくら鳴さんと仲良くなったとしても、みょうじさんが鳴さんにかける言葉は
俺には到底言えそうにないけど…と真っ暗になった空を見上げる。
『調子乗ってんのはそっちじゃん!毎日生意気に突っかかってきやがって!!』
『そーんなこと言って足元掬われちゃっても知りませんからね~?』
『はぁ!?誰に向かって言ってんの!?』
『鳴先輩でーす!』
『ねぇもうコイツ殴っていい!?いーよね!?』
『短気は女の子にモテませんよ~、鳴 先 輩!』
『だ か ら!誰に向かって言ってんの!?』
『鳴先輩でーす!』と、今日も同じやりとりを繰り返していた二人を 止めに入ったところまで思い出して
いつも通り、
やっぱり自分は邪魔をしてしまってるんじゃないか…という考えに至ってしまう。
「……ほーら、また困った顔して黙ってる」
「あ…、ごめん」
気にはなってるんだ、ずっと。
鳴さんには、これでもかってくらい否定されるけど
何だかんだ言ってても、やっぱり二人は仲良いんだよな と思うと
最近また 仲裁に入るのに躊躇したりして。
「謝るより考えてる事どんどん言ってこ!」
「…いや、それはちょっと…」
俺は近くに居すぎない方がいいんじゃないか
なんて、俺がそんなこと考えてたって仕方ないことも分かってるのに
それを直接聞くのは、少し、怖い気がして
「えー何でも優しく聞いてあげるのにな~?今なら何でも聞かなかったことにしてあげてもいいし、ほら、鳴先輩との練習だと思って!ど?」
それでもきっと 聞くなら
タイミングは、今しかない。
「……じゃあ、ひとつ変なこと聞いてもいい?」
「ん?なになに?」
「…みょうじさんは鳴さんのこと、どう思ってる?」
「……ん!?」
「あー、えっと、みょうじさんは鳴さんのこと…好きなのかもって…だとしたらいつも邪魔して悪いなとか、止めに入らない方がいいかなと思って…」
「えー!ないない!!原田先輩からお願いされてるだけだよ!」
「え?」
「鳴先輩にあれこれ言える人少ないから、調子に乗りすぎないように見ててやってくれって…あ、これ内緒なんだけど!」
「…そう、なんだ」
ほっとしたような、
残念なような、
だから夏終わってから毎日あんな感じなんだ、とか
原田先輩に頼まれてたんだ、とか
俺の事はきっとその延長線上でしかないんだろうな、とか 色んな思いがぐるぐると巡る。
でも、聞いて良かった。
今ならまだ、
『諦められる』
なんて言葉がどこからか浮かんできて
…何を、
諦めるんだろう。
と、ふと考える。
「でもそっか、多田野くんにはそんな風に見えてたんだ。それとも、そうあって欲しい感じなのかな」
「え…?」
「なんとなーく、ニュアンスがそんな感じしたかな~って」
そうあるべき?みたいな感じっていうか…と呟いたみょうじさんの言葉で
緩慢だった考えがするすると解けていく感じがする。
そうあって欲しい?
みょうじさんが、鳴さんを好きであって欲しい?
それなら『諦められる』?
鳴さんなら仕方ないって思えるから?
そう、
だとしたら、
「コンビニつーいた!」
「あ…」
「じゃ、多田野くん!また明日ね~」
「うん。また、」
手を小さく振り返しながら、
ほとんど出かかっていた答えを これ以上考えないように無理矢理押し込める。
鳴さんのことは 原田先輩に頼まれただけで
本当に何とも思ってなかったとしても、
だからって、
俺が相手にされるわけじゃない。
もしかしたら、なんて
そんな考えは
あまりにも 都合が良すぎるから。このままでいいんだ、とそれ以上考えるのをやめた。