言い訳ロマンス
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「樹~」
何か、
「はい、何ですか?鳴さん」
声のトーンで怪しいなとは思ったけど
「お前さ~、なまえと仲良いよな~…付き合ってんの?」
「……は?」
それにしても予想外の問いかけに、俺は思わず間延びした返事をした。
一瞬止まった思考に、鳴さんの問いをもう一度繰り返してみても、やっぱり全く意味が分からなくて。
何でいきなりそんな話が…しかも相手がみょうじさんって…ないよな…。
確かにクラスは同じだけど、誰にでも声かける人だし、特別仲良いってわけでもない…というより
寧ろ鳴さんの方が仲良いんじゃ…。
と そこまで考えてブルペンに響き渡る鳴さんの声で我に返る。
「はい!ボールこぼしたー!!そんな集中力で本番ちゃんと取れんの!?しっかりしてよね! つーか、『は?』って何!付き合ってんのって聞いてんじゃん!何その意味分かりませんって顔!!」
「いや…!練習中にいきなりそんなこと聞かれると思いませんよ、普通!」
「めちゃくちゃ動揺してやんの~!これもしかして俺当てちゃった?当てちゃったんじゃないの!?やっぱそーなの!?ねえねえねえ!」
「違いますって!だいたい自分 今、平野さんの球受けてるんで邪魔しないで下さい!」
「本当に本当かな~~?いいんだよ別に隠さなくったって!内緒にしといてやるから正直に言ってみ~?ほらほら!」
「そんな大声出しといて内緒もなにもないですよ…。本当に全然そんなんじゃないですから!クラス一緒なだけですよ!」
「……」
「……」
「なにそれ!つっまんないの!!」
「……」
そんな鳴さんの反応に、暇だったんだなとため息をついて。
確かに3年生の引退が決まった後から、前より声をかけてくれる頻度は増えた気がするけど
鳴さんは多分からかって遊びたいだけだろうし、質問の意味を深く考えるのはやめよう…。と思い直してミットを構えれば
次の投球を指示する前に、みょうじさんの声が聞こえてきて 思わず固まる。
「いったい何がつまらないんですかー?」
「おっ!噂をすればなまえじゃん!」
「私が可愛いって噂ですか~?それならもう知ってますけど」
「んなこと誰も言ってないし!!じゃなくて、お前さ~樹と仲良いいよな?付き合ってんの?」
「ちょっと鳴さん!!」
嫌な予感が的中して、思わず立ち上がる。
何言ってんですか!と詰め寄ってみても、まぁまぁいいじゃん!と目を輝かせる鳴さんを止める術を俺は持ってなくて。
申し訳なさと焦りに苛まれながら、みょうじさんの方を見れば きょとんとした表情で鳴さんを見ていた。
ほら、やっぱり意味分かんないんですよ!
「…別にそゆんじゃないですけど」
「ほら!さっき俺もそう言いましたよね!?」
「いやいや~!なまえの方は違うかもしんないじゃん?な!」
「な!の意味が全く分かんないスよ…」
みょうじさんの返答に、安心したような少し残念なような…複雑な気持ちを抱えながら
とりあえず鳴さんにはそろそろ静かに見ていて欲しい。と思う。
まぁ、多分今日も無理なんだろうけど…。
相手がみょうじさんじゃ、
「話がよく分かりませんけど、どうしたんです?騒がれるわりには彼女が出来なくて、ひとりで寂しいんですか~?」
「はぁあ?!!それ俺!?俺に向かって言ってんの!?」
「鳴先輩以外に居るわけないじゃないですか」
「はぁあ~!?」
「……」
いつも通りの展開に、やっぱり…とため息をつく。
ブルペンに居る他のメンバーも、また始まったなって感じの苦笑い。
二人は、俺らの代が入ってすぐ もうこんな感じで、
『俺がかっこよすぎて惚れるなよ~!新入生諸君!いや、寧ろ褒め称えて崇めてくれていいよ!!』
なんて高らかに笑いながら言い放った鳴さんにもびっくりしたけど、
『原田先輩、あの人は一体何を言ってるんですか?』
と綺麗な笑顔で原田さんに尋ねたみょうじさんの方が俺はびっくりして。
『…アイツは放っておいていい』
『そういう感じなんですね。分かりました~』
『ちょっと!そこ!聞いてんの!?』
それ以来、話始めればだいたいこんな調子で
いつも原田さんが止めてくれてたんだよな…と思ったところで先輩の姿はなくて
もしかしてこれ、俺が止めないといけないのか…?ということに気付くと頭が痛くなってきた。
「意味のわからないこと言って、せめて後輩にくらい構ってもらいたいんですよね」
「それこそ意味分かんないね!!俺 昨日も告られたんだからね!?テニス部の子に!!」
「それ妄想じゃないですか?」
「ちがうし!!紛れもない現実だし!!」
「じゃあ、そういうことにしておいてあげますね。可哀想なので」
「お前ほんと何なの!!」
「何ってやだなぁ。鳴先輩の可愛い可愛い後輩じゃないですか~」
「ゆのあを可愛いと思ったことなんて!たったの!1度だってないね!!超ー可愛くないね!!」
「光栄です~!」
「なんも褒めてねーーーし!!」
「だって鳴先輩に可愛いと思われても私に何の得もないじゃないですか~」
「ホント腹立つな!!」
「ちょ、ストップ!ストップ!!」
終わりそうにない喧嘩?の間に意を決して入り込む。
背が多少 鳴さんよりあるおかげで、なんとか遮れそうだけど…鳴さんが俺の言う事を聞いてくれるわけないよな…と次の言葉に頭を悩ませながら二人の様子を伺う。
「止めてんじゃねーよ、樹!!」
「なーに?多田野くん」
「……」
「そこ邪魔だってば!!」
「………鳴さん、落ち着いて下さいよ。練習中ですし…」
「な ん で 俺 だ け!!」
「そうそう、ジャグ交換しに来たんでしたー!ついつい鳴先輩と遊んじゃって…それじゃあ、皆さん頑張って下さいね~!」
「アイツ逃げやがった!!」
ヒートアップしてる鳴さんとは違って、
しれっとジャグを置き換えて笑顔で戻っていったみょうじさんは、きっと鳴さんをからかってるだけで。
鳴さん"と”遊んでるっていうよりは、鳴さん"で"遊んでる、って言った方が正しい気がするけど…なんて思いながら まだ騒いでいる鳴さんをなだめる。
そうしながら、
やっぱり鳴さんは特別なんだろうな…なんて思った。
俺にとっても、チームにとっても、
そして、
みょうじさんにとっても。
俺達と鳴さんじゃ、きっと何かが違ってて
その何かが何なのかは、俺には分からないけど
俺や他の先輩達とは、もっと普通に話すから
だから俺は二人の方が仲が良いんじゃないかと思ってて…
だから、
邪魔したくない、と思ってる。
あと、
自覚したくない、とも。
だって俺は
一生ただのクラスメイトにしかなれないだろうから。
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