一緒にいるための方法
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「宍戸さんとどんな話をされてたんですか?」
初めて、鳳くんにそう聞かれた時
私は、何を思うでもなく ただ話していた内容を教えてあげて
何度か同じことを聞かれるうちに
本当に鳳くんは宍戸のこと好きだね、なんて口にしながら、
それが 段々
跡部さんと、向日さんと、芥川さんと、って…
最初こそ レギュラーは上級生が多いから
会話のきかっけでも探してるのかと思っていたけど
日吉くん相手でも聞いてこられるとさすがに、
あれ?と思う。
「…鳳くん、何か聞いて欲しいことでもある?」
「え?いえ、そういうわけじゃ…」
「…そう?」
「あ、でもみょうじさんと話せるのは嬉しいです」
「そ、そう…?ならいいんだけど…」
きっと自惚れに決まってる。うん、そういうことにしておこう。
なんて ここで流せるほど、私の恋愛観はまだ出来上がっていないし
気になったことがあればいつでも言ってね、と日頃から言ってはいるけど…
きっと、そういうのでもない。
「ね、忍足どう思う?」
「…それ俺が答えてええんかいな」
「意見を聞いてるだけだから、いいの」
「…好きやろなぁ。よう自分のこと探しとるし。宍戸おらん時なんか特に」
「良かった、宍戸よりは優先順位低くて…」
「何に安心しとんねん…」
「だって…」
少し気恥ずかしくなって、外した視線をコートへと向ける。
そうすると忍足は 意味の分からんやつやな。といつも通りクールに流してくれるから、助かる。
でも忍足が言うんだから、やっぱり そうなんだよね…
と改めて思うと、なんだか落ち着かなくて
そんな気分をごまかすのに足先をパタパタと動かした。
「意外っていうか…」
「何がや」
「鳳くんってとにかく爽やかなイメージしかなくて…」
「宍戸へのあのべったり見とったら分かるやろ。あいつ結構嫉妬深いと思うで」
忍足はどういう意味で取ったのか
嫉妬、という言葉を出してきたことにちょっとびっくりして
え、あの質問ってそういう意味なの…?と
おおよそ向けられるとは思ってなかった感情の対処に頭を悩ませる。
「…そういう自分は、告白されたら付き合う気あるん?」
「え?ん…後輩として可愛いとは、思ってるよ?そこまで考えたことはないけど…。でもいいのかな…跡部ほどじゃないにしろ人気あるんだし、他に…」
「みょうじさん、忍足さん!おつかれさまです!」
「!」
「鳳か。おつかれさん。宍戸との自主練は終わったんか?」
「はい、今日は少し早めに切り上げて…。珍しいですね、二人がこんな所で話し込んでるの。どうかしたんですか?」
「え?!えっと…」
まさか後ろから本人がやってくるとは思ってなくて
咄嗟に嘘なんか出てこない私は忍足を見るけど、忍足は一瞥もくれずに
「まぁ、所謂 恋愛相談っちゅーやつや」
と言ってのけて、
私と鳳くんはその言葉に二人して固まってしまう。
え、恋愛相談だっけ、と脳内で一人混乱する私と
そういう話は苦手だと言っていた鳳くんは眉を下げて
今までの朗らかな空気はどこにいったのかというような雰囲気になってしまって困る。
「…そうだったんですね、」
「…えと…まぁ、そう かな。うん」
私としては相談ってつもりでもなかったんだけど…
聞かれてしまうと違うとも言えず、視線を外しながら話を合わせる。
…のはいいけど、この空気どうするの…?と忍足に視線で訴えると
今度は 任せとき、と言いたげ…かどうかは正直分からないけどふっと笑ってみせたから、安心したのもつかの間。
「告られて返事迷っとるらしーわ」
「忍足!?」
「そ、そうなんですか…?」
「え、えー…」
「まぁ、試しに付き合うてみるんもありなんちゃうかって言うてたとこでな」
「忍足…!」
ペラペラと嘘を並べていく忍足に
いさめる気持ちを込めて名前を呼んだところで勿論伝わるはずもなく
途方に暮れる私とは裏腹に
鳳くんが何かを決心したような表情で私を見るので身構えてしまう。
「……みょうじさんは、その……その人のことが好きなんですか…?」
「え、っと……」
そんな人居ないんだけど一体誰のていでこの質問答えたらいいの?と、肝心なところは助けてくれない忍足を恨みながら
「普通…?かな…?」と なんとか無難な答えを引き出してこの場をどうすればいいのか必死で考える。
「……だったら、」
「ん?」
「…俺のことも考えてみてもらえませんか!?」
「……え、」
びっくりしすぎて忍足を見ると、静かに微笑んだと思ったらひらひら手を振ってその場を離れていく。
ちょっと待って!そういう合図とかじゃないんだけど…!
「え、ま…っ」
「みょうじさんがその人のことを好きなんだったら、応援しなきゃいけないって思ったんですけど…」
「ま、待って、鳳くん…」
忍足を引き止めて、それは嘘だと弁明しようにも
恋愛話は苦手だと言っていた鳳くんが
普段 弱気になることの多い鳳くんが、
「みょうじさんがテニス部の先輩達と話てるだけでも 俺、気になって仕方がなくて…!なのに、知らない人と歩いてる所なんて、見ていられる気がしなくて…」
こんな風に言ってくれるとは思わなくて。
どうしたらいいか分からなくなってしまう。
「あ…、急にこんなこと言われたら困らせてしまいますよね…。でも俺…」
「お、忍足の冗談だよ!さっきのは!」
「え…?」
「恋愛相談…はそうかもしれないけど…告白されて迷ってるっていうのは忍足の冗談だから…えっと、」
「……」
「…だから、なんていうか……」
「…え、あ…!お、俺…すみません…!!あの、でも!俺がみょうじさんを好きなのは本当です!!」
「!う、うん。それは……うん、」
察したうえで、改めてストレートに言われてしまうと避けようがなくて
本当なんだなと思うと、今度はどう答えたらいいか分からなくなってしまう。
純粋に 嬉しい。
でも、後輩として見てきたから
この一瞬で付き合う想像なんてつくはずもなくて
というか照れる、普通に。
顔も見れないし考えもまとまらない…とぎゅっと目を閉じて祈るように手を組むと
そこにいつものゆったりとした鳳くんの声が入ってきて
少し、力が抜ける。
「…俺の方が年下ですし、宍戸さんみたいに男らしくもなくて、頼りないって思われてるかもしれませんけど…」
「、……」
そんな風に、思ったことないよ。
鳳くんの言葉に
そう言ってあげなきゃ、と顔をあげたら
「…本当に 好きなんです。俺、みょうじさんのこと、」
すごく優しい表情の鳳くんと目が合って
言えなかった。
「俺と、付き合ってくれませんか?」
「……」
「一生、大切にしますから」
ここまで言われると
ぎゅっとなった心臓から空気が回ってこないせいか、
断る言葉なんて何も思い浮かばなくて。
代わりにさっき聞いた
『試しに付き合うてみるんもありなんちゃうか』っていう忍足の言葉が、流れてく。
「……こ、これから…好きに、なるのでも…いいかな…?」
「!!勿論です!好きになってもらえるように俺、精一杯 頑張ります!!」
「ふ、普通にしててくれたらいいよ…?」
「いえ、俺が早くみょうじさんに好きになってもらいたいんです!」
「…そっか、」
「はい!」
私の返事で、下がっていた眉が嘘みたいに 朗らかな笑顔へ変わると それがなんだか眩しい気がして目を細める。
こんなに喜ばれてしまうと可愛くて何も言えないなぁ…。なんて思っていた矢先、
「あの、今日はもう帰りますか?良ければ家まで送らせて下さい!」
「え!?いいよ、練習疲れたでしょ」
「俺が少しでも長くみょうじさんと一緒に居たいんです!」
「……」
「あと、一緒に居られる方が疲れも飛んでいきます!」
「……じゃあ、そうしよっか、」
「ありがとうございます!」
鳳くんは格好いい顔して 言うことがいちいち可愛くて
そして、これでもかってくらい嬉しそうにするから
この調子で何も断れなくなったらどうしよう…というのが
これからのことで唯一考えられることだった。
「そういえば…告白されたのが冗談だったなら、忍足さんに何を相談していたんですか?」
「えっ!と……その…」
「あ、聞かない方が良ければ…無理には…」
「あー…鳳くんは私のこと好きなのかな?って話を、ちょうど…?」
「俺の話!というか気付いてたんですか!?うわあ、恥ずかしいなぁ…」
「…」
「…でも、それならもっと早く言えば良かったですね」
「?」
「そしたらもっと早くこうして、隣に居られたかもしれないじゃないですか」
そう言って向けられた笑顔が やっぱり
とびきり
眩しすぎて
目を細める帰り道
脳が完全にキャパオーバーの私は、家に着く頃には心臓が疲れ果ててそう…と他人事のように思うしかできなかった。
1/8ページ