テニスの王子様
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「裕太、転校してから全然連絡くれないよね」
つい、ほんのついさっきまで
姉貴が作ったラズベリーパイの二切れ目を
隣で機嫌よく食ってた気がしたんだけど
今 なぜか不満そうななまえの顔を
見てないフリして自分の皿のパイを口に運んだ。
「…そうか?」
「そうだよ」
「まぁ、別に連絡するような用事もないしな」
「帰ってくるのとか教えてくれたらいいじゃん!」
「なんでだよ…つーかどうせ兄貴から聞いてんだからいいだろ?」
「そういうことじゃないー」
「じゃあ何だよ」
「試合とかも教えてくれたら応援行くのに!」
「いや、別に来なくていいし」
騒がれたら気が散りそうだし、先輩達にも何言われるか…想像しただけで面倒くさいとは思っても
来なくていい、で止めた俺は多少大人になったと思う。
「……もーいい!パイもういっこ食べる!」
「お前それ3つめだろ…太っても知らねーぞ」
それでもなまえの機嫌を損ねるには十分だったようで
完全に機嫌悪くなったな…ってのは勿論分かってるし、放っておけばいいのも 頭では分かってるのに
つい口が いつも通りに動いて
しまった、と思った時にはもう遅い。
「…周くん、裕太が意地悪!」
「裕太に 乙女心はまだ難しいんじゃないかな?」
「そうだけど そうだけど~~っ!」
「はぁ!?ただの事実だろ!」
「そういうことじゃない!」
「じゃあどういうことだよ!」
「まぁまぁ、裕太」
兄貴になだめられて、納得できないにしろ一旦口を閉じる。
何が乙女心なんだか。
絶対俺のことバカにしてるだろ…
兄貴も普段は俺の世話ばっか焼こうとするくせに、なまえが居るとなんとなくそっちの味方だし。
まぁ、泣き付かれたらそうするしかないのかもしんねぇけど…
それがまたなんか…納得できなくてむしゃくしゃする。
「…お前子供の時からずっとそうだよな。すぐ兄貴に泣きついてばっか」
「…」
「なまえの困る原因はいつも裕太だからね」
「いや、どう考えても困ってるの俺だろ…いつも意味分かんねぇし、すぐ拗ねるし」
「…分かってないの裕太だけだもん」
「…やっぱり俺のことバカにしてるだろ」
「してるよ!裕太の鈍感!!」
「はぁ!?」
「試合の応援行きたいって言ってるのに!寮だからって全然連絡もくれないし!帰ってきても素っ気ないし!意地悪だし!優しくないし!!」
「あ~もう何なんだよ!文句があるならわざわざ来なきゃいいだろ!」
「…~ばか、だいっきらい」
「、えっ、おい…!」
いつもなら『やだ!』とか言って駄々こねるみたいにして兄貴を頼るくせに
絞り出すみたいにそう言って、家から出ていくなまえに思わず立ち尽くす。
僕が行こうか?、って兄貴の声ではっとなって
放っとけばいいだろ、って返してまだラズベリーパイの残る席についた。
ついた、はいいけど…
なんか心臓の音がでかく聞こえて落ち着かない。
言い過ぎたのか?でもいつもなら、とか
そりゃ俺は兄貴ほど優しくはないだろうけど、とか
考えてるのと同時に
「だいっきらい」の言葉に なんかすごい衝撃を受けてる自分がいて
戸惑う。
「僕もそうだけど、なまえも、いつも裕太が帰ってくるの すごく楽しみにしてるんだ」
「……」
「当たり前に居ると、気づけないこともあるよね」
「…~分かったよ、行けばいいんだろ」
「優しくね」
「……」
兄貴の言葉に そう言われても、って思ったのが顔に出てたのか兄貴は笑った。
小さい頃から一緒で、俺が転校するまでは学校も同じで
俺が寮から帰るたび家に来ては、試合がどうとか連絡がどうとかうるさく言って
まるで家族みたいで
そういうのが当たり前すぎて
それが好意かどうかなんて
考えたこともなかったけど
多分、そういうことで
『…なに?』
「…さっきは悪かった。ケーキ、まだ食べるんだろ?戻ってこいよ」
『……』
インターホン越しに、謝ると
家の中からパタパタと音がしてなまえが玄関から顔を出す。
「…もう怒ってない?」
「怒ってねーよ」
「…だいきらいは嘘だから」
「分かってるって」
「ほんとに?」
「本当だって!今度 試合の連絡もするから機嫌直せよ」
ちょっと赤くなった目で見られると、さすがに罪悪感が沸いて顔を逸らしながらそんなことを口にした。
「絶対だからね!?」
「分かったって!」
「…じゃあ、許してあげる」
「何で上から目線なんだよ…」
なまえの家から俺の家まで
たった数歩のこの距離を わざわざ迎えにいくなんて
普段ならきっとばからしいと思うけど
「裕太が悪いから!」
「…そーかよ」
口ではそう言いながらも、嬉しそうに笑うなまえを見たら
つられて笑う俺がいたりして
いつかなくなるかもしれないこの距離を
ちょっとくらい大事にしてみるか、なんて思ったりした。
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