本当の家族
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なんとなく違和感は感じてたんだ。
WRGPの初戦を勝った日も、打ち上げ用に準備してくれてた料理を並べるだけ並べてさっさと仕事に戻っちまうし。
アキの事故があって、俺が怪我をおして試合に出ると決めた時も、何も言わなかった。
遊星とジャックがナスカに行ってる間だって
「今度、子供たちがこっちに来た時は他にも色々連れて行ってあげたくて」とか言って
俺とはゆっくり話す時間もないくらい、やけに仕事を入れてて。
チームが優勝して、一番に祝ってくれると思ってたお前がそばにいないのに
俺は、優勝に浮かれてて
よく考えれば、ずっとどこかおかしかったってのに
それに気づいたのは、なまえが帰ってこないことに焦ってからだった。
WRGPも終わって、アーククレイドルの件も片付いて
なんとかまとめた考えと気持ちを、なまえが戻ってきたら話そうと思ってたのに。
才賀から子供たちと一緒に無事にハウスへ戻ってると連絡があったきり、3日経っても、4日経っても、一向に帰ってくる気配がなくて
「子供たちにせがまれているんじゃないか?」と言う遊星にはありうるなとも思ったが
ジャックは「お前の過保護に嫌気でもさしたのだろう」なんて言いやがるから
本当は怪我でもしてるんじゃねーかとか、何かあったんじゃねーかとか考えてた俺は強く言い返せなかった。
正直…そんなことならまだいい。
なまえのやつ、もしかしてこのまま帰ってこねぇつもりなんじゃ…
その考えが頭から離れなくなると、気が気じゃなかった。
避難もとうに落ち着いて、交通状況だって元に戻ってる。
帰る手段がねぇってんなら才賀がこっちに迎えの連絡よこすはずだし
ガキ共にせがまれてってのはなくはねぇが…それに流されるのはなまえに帰ってくる意思がないからじゃ…と、結局そこにいきつく。
5日…たった5日いないだけでこんなに不安になるもんなのかよ…。
マーサのとこにいるなら心配する必要はねぇ。
ガキ共だっているから一人じゃねぇし、もう 昔のなまえとも違う。
俺がいなくたって、平気なはずだって…分かってる。
分かってんのに…
そばにいたくて、しかたねぇ。
そう思うと もうダメで。気づけばヘルメットを手にとってた。
「クロウ?今から出かけるのか?」
「…ハウスまで迎えに行ってくる」
「まったくお前は。行くならもっとさっさと行けばいいものを!マーサに雷を落とされても知らんぞ」
「もう夜も遅い。明日にしたらどうだ?」
「いや、今から行く」
「放っておけ遊星。言っても無駄だ」
「…そうだな。気をつけて帰ってこいよ、クロウ」
「あぁ」
そんな風にガレージを出て
車のほとんどいねぇ夜の道路にブラックバードを猛スピードで走らせた。
ハウスに着いたのは 大人でも寝つくような時間で
扉の前に立った途端、どうしてか冷静になる。
いや、『帰らない』と面と向かって言われる可能性が今になって頭をよぎったせいだ…。
遊星の言った通り明日にすりゃあよかったと思っても もう遅い。
勢いで来ちまったけど ガキ共も寝てるだろうし、朝まで適当に時間潰すか…?とブラックバードと玄関の間をウロウロしていたら
バンッと勢いよく扉が開いてビビる。
「マ、マーサ!?何で…!?」
「ライトとエンジンの音が中まで筒抜けだよ。まったく、こんな時間に非常識な子だね」
「わ、悪かったよ…」
「……クロウ…」
「!」
マーサに叱られて、慌ててブラックバードのエンジンを切っていれば後ろからかけられた声に 反射で振り向く。
扉の奥にはなまえがいて、無事だと分かってても安堵からため息が出た。
「…バカ野郎、心配したじゃねーか」
「、……ごめん、」
「……」
やっぱり、なまえの様子はおかしくて。
今にも泣きそうななまえに『帰るぞ』と、言葉をかけていいのか迷う。
言葉が出ないうちに、頭は嫌な想像ばっかするし、心は重くなる一方で
それでも離れたくなんかなくて、心と一緒に重くなった足を引きずるように動かしたところで見かねたマーサが俺に問いかける。
「それで、こんな時間に来て 泊まってくのかい?」
「あー…いや、今日はこのまま帰る。ガキ共にはまたすぐに来るって伝えといてくれ」
「ったく、いくつになっても落ち着きがないったらありゃしないよ」
こりゃあ次来た時も小言を言われそうだなと思いながら、返す言葉もねぇんで黙ってりゃ
「アタシはもう寝るから、アンタたちもとっとと帰ってさっさと寝るんだよ!」となまえを扉の外に放り出して玄関を閉めちまうんだから、マーサには敵わねぇなぁ…と頭をかいた。
「…少し話でもしてから帰るか」
「……うん」
二人で海岸沿いのブロックに座りこんで
久しぶりにダイダロスブリッジを見上げれば、その先でシティと繋がった新しい橋がやけに眩しくて目を細める。
昔とはすっかり変わっちまった景色を懐かしく思っても、変わっていくものは仕方ねーんだと、諦めて口を開く。
「なんで 帰ってこなかったんだ?」
「…子どもたちが寂しがっちゃって…」
「まぁ、そんなことだろうと思ってたけどよ⋯それだけじゃねーんだろ?」
「⋯心配かけてごめんね」
「⋯別にいいけどよ」
「⋯⋯考える時間が、欲しくて⋯」
なにを、と聞かなきゃならねぇのに
予想のついてるその先を、やっぱり聞きたくはなくて
どうするかなんて決めてきたはずなのに
この期に及んで まだ俺は、お前の言葉を受け止める自信がねーんだから どうしようもねぇ。
「私、ひとりで暮らそうと思ってるの」
それでも現実は待っちゃくれねぇもんだ。
なまえのその呟きは、予想してたって俺の口をつぐませるのには十分で。思わず拳を握りしめる。
「ずっとクロウに面倒見てもらうわけにもいかないし…いつかはそうしなきゃいけないって思ってて」
「……」
「本当はシティに行くときに 離れるべきだったの…わかってたのに、ごめんね」
「…お前が謝ることじゃねーだろ。俺が誘ったんだし」
俯いたまま話続けるなまえの言葉を なんとか飲み込んで、そう返事をする。
シティに誘った時 やけに悩んでたのは、あの頃にはもうそんな風に考えてたからだったのかと思うと
何年も一緒にいたってのに、お互い 肝心なことは何も言えてなかったんだなと気づかされる。
「ううん…結局、私自身がクロウにしてあげられることも全然なかったし…。クロウが私に何かして欲しいなんて望んでないのも…わかってたけど…」
受け入れると決めたって、失う恐怖心があったのは確かで
それが伝わってたとしたら こんなに情けない話はねぇ。
結局ずっと俺が面倒みてやらねーとって、そればっかだったからな。
けど俺は、お前に何も望まなかったわけじゃねぇんだ。
「せめて、クロウの邪魔にならないようにだけはさせてほしいの」
お前に、そばにいて欲しいって
俺が望んでたのは
たった
ひとつ
それだけなのに。どうして それだけが叶わねぇんだ。