American lemonade
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タタン、タタンとエンジンによって揺れるバイクに跨ったまま
真っ直ぐ 前を見据える。
「白秋戦のビデオ…?」
「礼は言うなよ、セナ。決勝で泥門と西部、一緒に闘うって約束 守れなかったせめてもの償いだ」
あの白秋との試合の後、目が覚めたのは病院だった。
俺の怪我は、避けかけてた分 キッドさん達程たいしたことはなくて
それでも『暫く安静に』と言われてしまえば、
こうしてセナ達にデータを渡すことくらいしか思いつかなかった。
「っしゃ、任せとけ陸!鉄馬先輩やキッド先輩の骨折りやがった復讐戦だ!汚ねーMAXの峨王、絶対ブッ倒してやる!!」
「お、おー!」
けどそれは、そんなことを望んでじゃない。
「…何か、勘違いしてねえか?アメフトってのはな、球技じゃない。格闘技なんだ。敵の投手を潰しに行くなんて当然の戦略だ。峨王はやるべきことをやった」
俺たちが負けたのは、ただ力が足りなかったから。
それ以上でもそれ以下でもない。
「悪いのはキッドさんを守れなかった俺たちだ。勝ちたいなら、自分たちの力で守るしかない。 戦場のルールは一つだけなんだ」
次、白秋との決勝戦を控えたセナ達に
キッドさんのことも
セナとの約束も
なまえとの約束も
結局、何一つ守れてない俺が言えるのは
『頑張れ』でも『気をつけろよ』でもない。
そんな言葉、フィールドに立ってしまえば何の意味もないことを俺は知ってる。
泥門が全員揃って先へ進む道があるとすれば、
「『勝て…!!』」
それしかないんだ。
勝てよ、セナ。
そんな祈りにも似た感情を、自分が口にして初めて気付く。
あの時『勝って』と言ったなまえも
こんな気持ちだったんじゃないかって
今気付いたって仕方ないのか、と思いながら発進しようとすれば
セナが慌てて俺を引き止める。
「待って!!陸!…なまえには……」
セナの口から
見ぬかれたように出てきた名前に、思わず目を伏せて
本当は、合わせる顔なんかない。
泣いてなきゃ、いいけど。
無理か、
泣き虫だからな
きっとまた、泣かせたんだろうな
なっさけないな、俺。
本当は目が覚めてから、何度もそんなことを考えてた。
「……元気にしてるか?」
「元気どころか…あの試合の時だってメチャクチャ泣いてたぜ、なまえのやつ!」
「うん…すごく、心配してるよ。平気だって言うけど、しょっちゅう上の空だし…でも、陸から連絡があるまで会わないって言ってきかなくて」
「…そうか」
『怪我、大丈夫ですか?
治ったら、会いに行きたいです』
試合の後送られてきてたそのメールには、まだ返事を出せてない。
「…ま、見ての通り、まだ治ってないからな。今会っても心配させるだろ」
テープが貼られている頬を、メットのシールドの上からコツコツと軽く叩けば
「うん…そうだね、」と俯きながら零すセナに苦笑する。
『合わせる顔がない』なんて考えながら
これ以上かっこ悪いとこは見せられないなんて強がりながら
それでもやっぱり、会いたい とも思う。
目を細めて、俺に、微笑んでくれたら ってそう思う。
だからいつも無意識に、約束じみた言葉を一方的に口にして
待たせてばかりで
「これくらいすぐ治すって」
こんなわがままな俺を、なまえはいつまで待っててくれるんだろうな。
「…だから、それまでなまえのこと頼んだぞ。セナ」
「…うん」
6年前と同じ言葉で、
もう少しだけ、
セナに任せて
改めてグリップを握りなおせばグオンンとエンジンが鳴る。
「じゃ、」
『またな』
あえて続けなかった
その言葉は
今はなまえへだけの約束のことば
Laila-ライラ-
【今、君を想う】