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ここに居た頃は
シャカと話してると
誰かに見られてる気がして、
よく、その感覚をたどってた。
そこにはだいたい、なまえが居たから。
「…クオンくん…?」
「おー!なまえ!遅かったじゃねぇか!」
「久しぶりだな」
「うん…あ、ごめんね、話してるところだったのに」
「まぁ、気にするな」
「そうだぞ!久しぶりだろ!お前も混ざれ!」
「ううん、邪魔しちゃ悪いし…師範に顔見せに行かなくちゃ」
「それもそうか!」
「じゃあ、また後でな」
オレがシャカと話していても こんな風に入ってくることは ほとんど、って言っていいくらいなくて
いつもこっちを見てただけ。
オレと目が合えば、ぎこちなく目を細めて
オレの視線に気付いたシャカが なまえの方を向けば、
目を反らす。
だから思った。
“あぁ、シャカのことが好きなのか”って。
「どうした?クオン」
「いや」
「そうか!お前も相変わらずだな!」
「何がだ」
俺の方が、とは思わなかった。
まぁ、なまえのことを好きな気持ちはあったけど
修行に出ると言った時『頑張って』と言ってくれたので十分だったし
シャカのことを誰よりも認めていたのは俺自身だったから、なまえがシャカを好きならそれでいいと思った。
まぁ、久しぶりに道場へ顔を出してみて
気持ちがなくなってるわけじゃないんだな、ってのは感じたけど。
変わらず、そのままでいいと思ってる。
「おっ、そろそろ修行の時間だな!お前も久しぶりにやってくか?」
「いや、今日は遠慮しとく」
「そうか!じゃあサクッと行ってくる!」
「あぁ」
修行の時間になればどんなに話が途中でも 切り上げて走っていくシャカの後ろ姿を見て、少し前のことのはずなのになつかしい気さえして小さく笑う。
言う通り、相変わらずだな…シャカも
オレも、なまえも。
そう思いながら誰も居ないスタジアムを眺めていれば
またなつかしい視線を感じて、俺の方から声をかけた。
「もういいのか?」
「!うん、」
目を合わせれば、ぎこちなく 目を細める。
本当に変わってないな。
「まぁ、座れば?」
「ありがとう」
「体はもういいのか?」
「うん。もうほとんど大丈夫なんだけど、一応…運動もかねて来てる感じ、かな」
「そうか。良かったな」
「…ありがとう、クオンくん」
珍しく、にこりと笑うなまえに
まだここに通ってる理由は
わざわざ聞く必要もないんだけどな。と思いながら眉を下げれば
不思議そうに首を傾げるから、
「それより、シャカとは少しくらい進んだのか?」
「……え?」
呆れたみたいに小さく息を吐いて
そんなことを聞いた。
「いつもシャカを見てただろ」
何も変わってないことなんかすぐに分かったけど
何もないと一生変わらなさそうだからな。
「えっ……それ、は…その…」
「まぁ、別に無理には聞かないけど」
言いづらそうに俯いたなまえにそう言って
ここに居た頃でもこんな話することはなかったからな。
先は長そうだ、なんて思いながらまたスタジアムを眺めた。
それ以外 特に話すこともなくて
さて、シャカ達が戻ってくるまでどうするか…と考えはじめた時、隣から小さく声が聞こえて耳をすます。
「…見てたのは、クオンくんだよ」
「……」
「シャカじゃ、なくて」
「…オレ?シャカとは目を反らしてたのにか?」
「それは…シャカ、すぐに呼んだり『また見てたのか!』とか大きな声で言うから…」
「……まぁ、シャカだからな」
簡単に思い浮かぶ姿に そんな風に答えながら
聞き間違いかとも思ったけど、どうやら違うらしくて
「クオンくんは、何も言わないでいてくれたから」
俺の勘違いだったのか、ってことに気付いたら
さっきまで『そのままでいい』と思ってたくせに
かんたんに、それならオレが、ってのに変わる。
「だから…つい、」
「まぁ、俺もお前のこと見てたけど」
「…うん、」
「おーい!戻ったぞー!!」
大声をあげながら戻ってきたシャカを見て
「その答え合わせはもう少し先になりそうだな」と隣に座るなまえにだけ、聞こえるよう呟いて立ち上がる。
「よし、バトルするか!?クオン!」
「また今度な」
「クオン、やっていかぬのでござるか?」
「…普通、大会前に手の内は見せないのでは?」
「そういうことでもないんだが……まぁ、次やるのは大会までとっといてくれ」
「よし、分かった!」
「え、クオンくん大会出るの…?」
どこで当たっても負けんぞクオン!と 盛り上がっていたところに
ただひとり、驚きの声が隣からあがって シャカが改めて俺の方を見る。
「なんだ、言ってなかったのか?クオン」
「まぁ、必要ないかと思って」
チーム戦はソードフレイムズが出るし、個人戦にはシャカも出る。
だから応援には当然行くだろうし、応援する相手も決まってるだろうから わざわざ言う必要もないと思ってたんだが…
まぁ、今はそうとも限らないわけか。
「個人戦もチーム戦も両方出る。チームは違うけどな」
「そうなんだ…」
俺の言葉に嬉しそうな顔をして
「…頑張って。応援、絶対行くね」
シャカ達も居るからか
控えめに、ではあったけど
改めて俺に向けられたその言葉が、やっぱり
嬉しくて
「まぁ、よろしく」なんていつも通り答えながら、ここに戻ってくる日を少し 待ち遠しく感じた。
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