折り重なる
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文字通り、朝から晩まで一緒に過ごす。
テーブルには買い出しの時に目についた綺麗な白いバラを。
なまえには赤いバラを、いつも通り差し出して
なまえがデッキを調整する間、彼女のための飲み物や食事を用意して
あぁ、これ毎日でもいいな。なんて思う僕を
眉間に皺を寄せて見るなまえに にこりと微笑んでみせる。
「…やっぱり家に招待して食事を作らせるって『お礼』としておかしいと思うんだけど」
「僕は一緒にのんびりできて、手料理まで食べてもらえる充実した1日になってるから十分お礼になってるよ」
「……あなた おかしいわよね」
「そうかな?」
「ええ、理解できないわ」
そう言ってまたスマホに視線を落とすなまえは、何かを待っているように見えた。
たまに僕をじっと見ては眉をひそめて問いかける。今日何度めかのそれにはきっと目的が別にあって
他に話したいことでもあるんだろうと察しはついていたけど
僕にも大事な話があったから 夜まで聞かずにいた。
今日が途中で終わってしまったら勿体ないから
なんて、自分勝手な理由なんだけど。
きっとそれも許してくれるだろうなまえへ
デザートの代わりに少し甘くしたミルクティーを差し出す。
「ね、なまえ」
「?」
「愛してるよ、ずっと」
きっとなまえが話したかったのもこれだよね、と言うように
驚いた顔をしたなまえへ また微笑んでみせる。
あの『夢を見た日』から、僕らが抱えてしまったものは
今まで通りとはいかないもので
君も僕も答えが決まりきっていたからこそ
擦り合わせてこなかったその『答え』を
出さなきゃ隣には居られない、そういう時が来てしまった。
「……私は、プロを辞めるつもりなんてないわ」
「うん、勿論 分かってるよ。だからこれはただの愛の告白じゃないんだ」
「…何を言ってるの?」
真意を確かめるように僕を見るなまえの
決まりきった答えを覆すのに
「プロポーズだよ」
僕が選んだカードはこれだった。
「……もう一度聞かせてもらうけど…あなた何を言ってるの?」
「僕はいくらでも待てるから、なまえがプロを辞める時には僕と…」
「ちょっと待って!」
「ん?」
「…昔から あなたの好意は知っていたつもりだけど、学生の時 私はあなたよりシャドバを選んだわ。今だって変わらない」
「そうだね」
「…あの頃 ハッキリ『あなたと付き合う気がない』と言えなかったことは申し訳ないと思っているけど、だからこそ私に今更あなたを選ぶ権利なんてないし、あなたはもっと別の人間に目を向けるべきだわ」
なまえは、まさか結婚話まで出してくると思わなかったのか戸惑った様子だけど
僕も学生の頃の話を出されるとは思わなくて
うーん…と見慣れない天井に目をやった。
ずっと気にしてくれていたのは嬉しいけど…他なんて目に入るはずもない。
「なまえの言いたい事は分かったよ。でもなまえに権利がないなら僕が選んでいいってことだよね?」
「どうしてそうなるのよ…!そうじゃなくて、私は貴方を選ばないから これ以上私に無駄な時間を使うのはやめなさいって言ったのよ!」
はっきりと、強く
僕を引き剥がそうとするその言葉でさえも
僕の時間を大切にしてくれている君を感じて愛しく思う僕が
今更、君以外を考えられるわけがない。
「…それは無理だよ」
「!」
「なまえが『誰のモノにもならない』なら、僕はライバルとして隣に居られるからそれでよかったし、この世界が本当に終わるとしても 最後に君が一緒に居てくれるならそれで構わないと思った」
「……」
「でも夢だから 都合良く一緒に居られただけで。目が覚めて…僕の知らないうちに君を失う可能性もあったんだって気づいたら堪らなくなってね」
「、」
「だから どれだけ時間がかかっても 僕はもう一生、君を待つつもりだよ」
そう伝えて微笑んでみても、なまえの顔は曇ったまま。
悲しいことにつくづく僕の言葉は 彼女を笑顔にするのに向いていないようで困ってしまう。
どう言えばいい返事を引き出せるか思案していると
なまえがポツリと呟く。
「…大袈裟なのよ。あなた、いつも」
「そうかな?」
「一生なんて、どうせ ありえないわ」
「どうして?」
「…あなたは器用だから、私が居なくたって それなりに生きていけるでしょう」
刹那、胸が締め付けられる。
でも その痛みにも似た感覚は、決して悲しみからじゃなくて
例えば迷子がやっと誰かを見つけた時のような、たどり着いて安堵するような、そんな感覚。
あぁ、やっと君に許してもらえそうな答えが見つかった。
「…そっかそっか。最初から、そう言えばよかったんだね」
「一人で納得しないでくれる?」
「勿論、君に聞いてもらわなきゃ始まらないよ」
そんな僕の言葉に
聞いたところで何も始まらない、と言いたげな表情を浮かべるなまえへまた微笑んで。
「僕はね、なまえが居ないと生きていけないんだ」
「…白々しい…」
「嘘じゃないさ。君がいないなんて考えられないし、僕がなまえじゃないとダメなんだよ」
「……」
「僕は君の隣でずっと君を愛して待ち続ける。何年先でも何十年先でも構わないから」
「…」
「シャドバの次には僕を選んで欲しい」
テーブルに飾っていた白いバラを花瓶から抜いて
片膝をつき、なまえに差し出す。
いつもとは違う色に込めるのは
『 永遠に君しか居ない』
なんて、そんなこと。
なまえの揺れる瞳には、どんな風に映っているのか 分からないけど
視線を合わせて、微笑んで、最後に添える言葉は決まってる。
「僕の一生のお願い、叶えてもらえると嬉しいな」
「……あなたにそこまで好かれる理由が正直分からないわ」
「あぁ、好きな理由?全部、って言いたいところだけど…強いてあげるなら、僕を甘やかしてくれるところかな」
「何よそれ。あなたに優しい人間なんていくらでも居るじゃない」
「そうだね。でも僕が望んでいるのは『優しさ』じゃなくて『甘さ』だ」
「…違いが分からないわ」
「結果は同じに見えるかもしれないね」
「…結局、私には分からないんじゃない」
納得は、していない。
でも、
仕方がない、って顔をして
いつも通りに僕の手から薔薇を受け取る君が
「…でも、いつか あなたを…理解できる日がくればいいとは 思ってるわ」
一度口にした言葉を、覆さないと知っているから。
「…ありがとう。その日が来るのを楽しみに待つとするよ」
この言葉がきっと
約束になる
「…もしかして今日あなたが来た目的ってコレ?」
「うん」
「………」
「なまえは雰囲気に流されるタイプじゃないから、他に誰も居ない場所の方が 本音が聞けると思ってね」
「……あなたって どうしていつもそう…」
「ん?」
「…もういいわ」
「僕はなまえからの言葉なら何でも喜んで受け止めるよ?」
「じゃあ少し黙って」
「…それは難しいなぁ…」
「……」
→sequel