折り重なる
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昔から、考え始めると止まらない質だった。
自分にとって納得できる 何かしらの答えが出るまで考え尽くさないと気が済まなくて
でもそれが、楽しくもあった。
そんな思考を巡らせることに楽しみを見出す私が
次々と生まれる戦略に対応策、いくら考えてもそれが尽きないシャドバに何よりも夢中にならないはずもなく、ここまで来た。
プロプレイヤーになったことに勿論 後悔はないし
もし、やり直したとしても同じ人生を辿るだけ。
そう、思うのに
あの 『夢を見た日』から
牙倉セイヤとの関係性にだけは未だに答えを出せないでいる。
プロリーグも近いし、そっちに頭を使いたいんだけど
何の答えも出てないせいでシャドバをしていない時は思考をそっちに持っていかれてしまうから、今に限っては悪癖ね…とため息をついた。
昔から好意には気づいていたけれど
あの頃はプロプレイヤーになるのを選んだことで『何かしら』の答えとした。
当時からプロプレイヤーは人気商売の側面もあったし
例え私がどれだけ嫌いになったとしても、彼は私を嫌いになりはしない。そういう相手だったから
否定なんて無意味な事だと思えて『誰のものになるつもりもない』なんて言葉で躱したのがいけなかった?
でも今更、何をどう言えばいいかなんて 分からないのよ。
向こうだって改めて何か言ってくるわけでもないし、そもそも何を考えているのかも分からないし……と
相変わらず好き勝手に飛ばされてきているメッセージを本人の代わりに睨む。
…さっさと帰ってプロリーグ対策に時間使った方がいいわね。
と、半ば投げ出すように
送られてきていたメッセージに素っ気ないスタンプをひとつ返して
頭を切り替えようと収録先を出たところでタイミングよく響いてきた通知音に眉をひそめる。
「……何をしているのかしら?」
「いやぁ、そろそろ収録終わる頃かなーと思って。来ちゃった」
「あなたのそれは一歩間違えればストーカーよ」
「あはは、通報しないでくれてありがとう」
「…用件は?」
「最近 顔見てないなーと思ったら寂しくなっちゃって」
「好き勝手にメッセージ飛ばしてきておいてよく言えるわね」
「何か考えたいんだろうなと思って、これでも我慢した方なんだけどね」
「…」
ほら、筒抜け。
だから顔を合わせたくなくて スタジアムにも顔を出さなかったのに。
私はあなたの考えなんて分からないのに
あなたは私を『分かっている』んだもの。
「用件がないなら帰るわ」
「そういえば対策バトルのお礼、考えたんだけど」
「…何?」
「なまえの家に行きたいな」
「……はぁ?」
「あ、何もしないよ?」
「そんなこと聞いてるんじゃないわよ…」
「嬉しな。僕って信用されてるんだね」なんて言葉を聞いて更に頭を抱える。
本当に何を考えているんだか……
考えるだけ時間の無駄だと理解していても、そう思わずにはいられない。
「外で食事だと時間あっという間だから、家だとゆっくりできるかなーと思って」
「ゆっくりって…私の家 何もないわよ」
「なまえらしいね」
「…食事だって結局外になるし、」
「あ、僕が作ろうか!色々作れるよー」
「どういう状況よそれ…」
「次の新パックが出た後なら対策バトルも何時間だって付き合えるし」
「…それは、別にいつも通りでも…」
「駄目かな?」
その一点に関しては魅力的だけど…とつい思うのを抑えて言葉を濁しても、それを見透かすようにダメ押し。
「当日のお礼分も含めてってことで、どう?」とまで言い出す頃には諦めに入る。これも悪い癖だわ。
「…分かったわよ」
「え、いいの?本当に?楽しみだなぁ」
「ご飯、何作ろうか?」なんて嬉しそうに微笑むのを見て
やっぱりこのままにはできないわね、と心底思う。
ちょうどいいじゃない。
お礼を済ませて、終わりにするには。
考えるだけ時間の無駄なら
私はあなたを『選ばない』って
はっきりそう、言えばいいのよね。
それでこの関係がどうなったとしても、きっと
「…任せるわ。好きにしたら?」
楽になる
貴方を縛ることも貴方に縛られることもなくなるはずだもの。