ダンボール戦機
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「風邪ひくぞ」
学園から寮への帰り道、見慣れた姿に声をかけた。
たいしたことないと言っても雨の中だ。
傘もささずしゃがみこんで 何をしているのかと、背後から傘を傾けると
俺の顔を見たなまえはふわりと微笑んで手を伸ばすから その手をとって立ち上がらせる。
そして俺は手を離そうとしたが叶わなかった。
指先を握る力は決して強くはないが動揺するには十分で
手に向かった視線を慌てて横に逸した。
「傘、忘れてしまって」
「そうか、」
「このまま連れて帰って下さい」
「このままって…」
「このまま」
「…本気か?」
「勿論」
「……」
きれいに微笑むなまえに沈黙で返しても、手を繋ぎ直すだけで困る。
このまま、手を繋いだまま
それで寮に戻るのはどうなんだ…?と考えて
同じ寮で、同じ国の配属で、付き合っていれば
不自然でもなければ咎める者もいないだろうと分かってはいても思いとどまる。
こういうところが優等生と揶揄されるのは分かっているが性なのだから仕方がない。
動こうとしない俺に、なまえは諦めてくださいとばかりに微笑み、繋がれた手で親指をそっと撫でた。
その手が少し冷えていることに気づいてしまうと諦めがついて
なまえの望む通り、手を繋いで寮までの道を歩き出す。
「そういえば鈴音ちゃんとタケルくん、ご一緒では?」
「報告書に時間がかかりそうで先に帰したんだ。会わなかったか?」
「スワローで随分雨宿りしていましたから。おかげで課題は終わりました」
「俺は帰ったらやらないとな…」
「私が使った資料でよければお送りしますよ」
「いいのか?助かるが…」
「勿論、」
「相合傘のお礼に」と付け加えられるとまた動揺して、他愛のない会話でできたいつも通りの空気に沈黙を落とす。
これにも早く慣れないとな…。
からかうなよ、と言ったところで はぐらかされるのは目に見えているし、あまり強くも言えない。
こういう態度が俺にだけだと分かっているし、
『最後には 仕方ないという顔をして、許してくれるカゲトラさんが好きなんです』と なまえに言われた事を 俺が覚えているからだ。
あれ以来、少し叱りづらくて困っている。
まぁ、その言葉がなくとも きっと最後には許してしまうんだろうが…と隣に視線を向けた。
俺の手の温度が移ったのか、さっきよりも暖かくなった手を引いて
左手で支える傘の先から落ちる滴が当たらないように腕を寄せて
さっきのいたずらじみた言葉を受け入れる。
きっと今 俺は『仕方ない』という顔をしているんだろう。
なまえが、嬉しそうに微笑んでいるから。
「私、手を繋ぐたびに思うことがあるんです」
「?」
「いつか…こんな風に手を繋いだまま、眠りにつける夜が訪れたら幸せだろうなって」
「………は!?」
「暖かくて、穏やかで、安眠間違いないと思うんです」
「……そうか…?」
「ふふ、顔、赤いです」
「!?」
「カゲトラさんも年頃ですもんね」
「違う…!!別に、そういうつもりは…っ!」
傘と手で両手が塞がっていて
しどろもどろになりながら顔を背けて否定しても、説得力は皆無だろうがそうすることしかできない。
本当に、やましいことを考えた訳ではなかったし
本当に俺の顔が赤いのかどうかも分からないが
「ごめんなさい。つい、可愛くて」
そう言って、俺の肩に頭を寄せるなまえに
「からかうなよ」と、さすがに言わずにはいられない。
「ふふ、カゲトラさんとなら『そういう夜』もたまらなく幸せでしょうけど」
目を伏せて、穏やかにそんなことを言われると
さすがに俺もわけが分からなくなりそうでぐっと目を閉じ、色々と遮断した。
「…頼むからやめてくれ…」
「はい。少しやりすぎてしまいましたね。全て本心ですが」
「追討ちをかけようとするな…」
「冗談ではないと分かってもらいたいだけですよ?」
「……」
ストレートなのか、そうでないのか…何事もない様子でそう答えるなまえに沈黙を返して
これに慣れる日は来るのか…?と不安を覚える。
正直 来る気はしないんだが…
何年経とうと
俺はこれを 甘えられていると感じるんだろうなとは思う。
「…風邪、引かないうちに帰るぞ」
「そうですね」
ただいまと言う頃には
離れているであろう手をそっと握りしめて、早く普通の甘え方を覚えてくれてるといいんだが…なんて考えた。
←
1/1ページ