星結び
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幼い頃の私は、毎年夏がくるのを心待ちにしてた。
憧れの博士に会えることも勿論だけど
グリーンの存在はとても大きくて
『オーキド研究所の研究員』なんて、ただの子供の夢物語だったものが
グリーンと友人になれたことで身近な目標へと変わった。
幼い頃は私が将来について語れば、不服そうな顔をしていたし
採用が彼の意思で左右されることなんてありえないと分かっていても
『お前の努力でどうにもなんなかった時は、オレがじいさんに掛け合ってやるよ』と笑いながら、自身も研鑚を積み続けるグリーンの存在は常に私の背中を押し続けてくれた。
20年近くもの間、彼が変わらず友人でいてくれたおかけで語学に不安を抱くこともなかった。
グリーンは口数が多いから、他の子たちと比べて得られる情報量も格段に多かったし
レッドくんの影響も強いだろうけど、面倒見のいい彼は説明や伝える手間を省かない人だったから。
その分、好意も分かりやすくて
私は、彼の存在を、好意を
利用してるんじゃないかと思うことすらあるほどに
長く、待たせすぎた自覚がある。
紅茶の入ったカップを手に「私、グリーンには本当に感謝してるの」と、
想いを告げてくれてからも変わらず様子を見に来てくれていたグリーンに伝えれば
察しのいい彼は真面目な顔をして聞く姿勢を見せてくれる。
「私の夢を優先させてくれるその心遣いだけじゃない
昔からずっとこまめに連絡をくれることも
たまに顔を見せに来てくれていたことも
その時その時、本当にうれしく思ってた。
ただ毎日忙しくて
新しく知ることも、勉強することも山ほどあって
いつも、同じだけ 返してはあげられなくて
今まではそういう関係じゃなかったから それでもよくて
でも関係が変わったら、今までと同じじゃだめかもしれなくて。
『自信がない』って言ったのも、本心なの。
実際 研究員になってみて、これから先も きっと私は
グリーンがくれる愛情を すべて返せるような人にはなれないと思うから
あなたの今までに報いたい気持ちは勿論あるけど
でもそれで失うようなことになるのが…一番、怖いと思って」
考えたことを、ありのまま
伝えて、いつの間にか紅茶を見つめていた視線を上げたら
グリーンは少し怒っているような、悲しみも滲んでいるような、物言いだけな、 表情をしていて
それでも、最後の言葉を待ってくれているようだった。
「1週間考えたけど、これが今出せる私の答え」
そう、一言だけ付け加えると「……は?」とさっき顔に乗せていた感情が 全て消えてしまって
今度は困惑と、疑いと、少しだけ安心したような、そんな感情が見えて思わず目を細める。
「いや、待て…つまりどういうことだよ?」
「ひとりじゃ『はい』にも『いいえ』にも辿り着けなくって。これ以上待たせるのも申し訳ないから、とりあえず今まとまってる言葉を伝えたの」
「…はぁ〜〜…そりゃあ、おまえのことだから『はい』か『いいえ』で返ってくるとは思ってなかったけどよ…フラれてんのかと思うだろーが」
「手放しで『はい』ではないことを考えると、その認識も間違ってないとは思うけど」
「ふざけんな、そんな答えで終わらせるわけねーだろ」
「ふふ」
それを聞いて、思わず笑いがこぼれる。
『はい』と応えるべきだと思ってはいても
ほんの些細な懸念事項が、私を立ち止まらせる。
それでも、私の答えが100%の『いいえ』でない限り
グリーンは自分の望む答えを諦めたりしないって分かってたから。
「グリーンならそうすると思った」
「〜分かってんなら『はい』でよくね?」
「それとこれとは別の話だと思うの。どちらかといえば私側の問題だし」
「何にしろ おまえを納得させりゃ、オレさまの勝ちってことだろ?」
私からするとすでに概ね負けているようなものだけど
グリーンの少し楽しそうな表情を見れば、私が無理に答えを出す必要がないと判断したのは間違いではないと思える。
「つーか おまえ、オレさまのこと好きだよな?」
「好き」
「人として、だけじゃねーよな?」
「ちゃんとパートナーとして考えての返事」
「答え もうそれでいいだろ。それ以外 何も求めてねーよ」
「付き合うってそんな簡単な話じゃないと思うの」
「どこが」
「別れたらそれ以前の関係に戻るのは難しいものなんでしょう?私、あなたと友達ですらいられなくなるのは嫌なのよね」
「それは別れ方によるだろ。俺らの場合そんな拗れ方しねぇと思うけど?つーか、そもそも別れる前提なのが意味分かんねーんだよな。どこから来てんだ?それ」
「私、『いいパートナー』である自信がないの」
「同じだけ返すってやつか?オレさまはそんなの求めてねーって」
「…明確に付き合うとなったら変わるかもしれないじゃない…?」
普段と変わらないテンポで進んでいた会話も
一番気にかかっている部分で どうしても言葉が曇る。
そこだけは、昔からずっと申し訳なく思っている部分だったから。
まぁ…グリーンの『付き合うならオレだろ』という雰囲気を 否定するでもなく過ごしてきて、今さらな話だって言われると そうなんだけど…
「付き合ったところでそこは変わんねーよ。オレが構いたいから構う!それだけだ。つーか、それを重視するならとっくの昔に他の奴選んでるだろ」
「……それは確かに。グリーンなら機会だっていくらでもあるはずだし…」
「…こっちは初めて会った時からおまえのこと好きなんだぜ?今更気なんか変わらねーし、そういうおまえだから今でもこうやってそばにいるんだろ」
「…グリーンが構わないというならいいんだけど…」
「ま、これだけ待てたのはオレさまの深い愛情があってこそ為せる業だけどな」
「ふふ、それは伝わってる」
「…どうだかな」
概ね出たであろう結論に、ふたりで笑い合って
「なまえ」とグリーンが私の名前を呼ぶ。
「オレが一生お前を愛してやる」
「…」
「だから、オレさまを信じろ」
グリーンとの新しい関係を築くのに自信がついたわけでもないし
今の関係を失いたくない気持ちも変わったわけじゃない。
私が私なりに精一杯愛したとしても、きっとグリーンには及ばないだろうけど
それが許されるなら、根拠は別に なくてもいいの。
今までに、もう たくさん貰ってるから。
「…信じてる」
星の数ほど
あなたと言葉を交わして、笑っていられるなら私は 新しい関係も築いていけると思うから。
→sequel