星結び
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なまえと出会ったのは、外国語をカッコイイと思い始めるような歳の頃で
「ボンジュール」という聞き慣れない挨拶と共に微笑んだ金髪の少女が
言うまでもなく誰よりも特別に映った。
カタコトで「コンニチワ?」と続けたなまえに
オレはせきを切ったように話はじめて、それからはつきっきりだった。
分からない言葉があれば教えてやったし、家に呼んで一緒に飯を食ったりもした。
その年以降、なまえは毎年じいさんのサマーキャンプに来るようになって
1年に1度のそれをオレはめちゃくちゃ楽しみにしてたけど
いざ顔を合わせると、なまえは決まって将来はじいさんの元で研究がしたいって夢を語るばかりで、それが幼心にも面白くなかったのは覚えてる。
ガキの頃はそうやってなまえがじいさんの話をするたびに不機嫌になったもんだが、途中からそんな余裕もないくらいで
『じいさんの孫』って立場を利用してでも そばにいられるんなら、なんて思っちまうくらいオレはなまえを好きになってった。
それでもオレは図鑑を埋める旅に出たし、なまえも夢に向けてひたすら勉強を続けて…
旅に出てた頃はなかなか連絡が取れねーで苦労したっけ。
まぁ、途中なまえの通ってるスクールに留学した時期もあったし
ジムが落ち着いてからはちらほら他の地方に出向くついでに会いに行ったりもしてたから
ガキの頃よりはよっぽど顔を合わせてたけど
今年はついに、じいさんとこの研究員になったことで
カントーに家を借りて住むことになったからしょっちゅう出入するようになった。
別に鍵とか持ってるわけじゃねぇけど
なまえが実家から連れてきたサーナイトが予知で視てるのか、いつ行ってもオレを歓迎してくれる。
それが例え、なまえが寝ていようが論文に熱中していようが関係なくだ。
今日は後者らしいが…サーナイトが淹れてくれた紅茶も飲み終わっちまったし、軽く1時間は経ってる。
邪魔したいわけじゃねぇけど…まぁ怒るようなタイプでもねぇしいいか、とソファーから立ち上がって隣の部屋の扉をくぐる。
ペラペラと紙を捲る音だけが響く部屋で 何時間も熱心なこった。
「オレさまが来てるってのに、その論文はそんなに面白いのかよ?」
「うん、これ すごく興味深くて……。…グリーン?」
「おう」
「いつから…」
「1時間くらい前」
「…ごめんね、全然気づかなくて」
「まったくだぜ」
やっと来客を認識したなまえに肩をすくめてそう返せば
開けたままにしていた扉から、ふわっとさっき飲んだ紅茶と同じ香りが漂ってきて
「休憩しろってよ」とサーナイトの言葉を代弁してやった。
「って、お前…白衣のまんまじゃねーか」
「あぁ、内容が気になってそのまま読み始めたから…」
「おいおい、飯はちゃんと食ったんだろうな?」
「読みながら。予知してたのか、サンドイッチを用意してくれてて」
「ったく…」
サーナイトを持たせたおばさんの気持ちがよく分かるぜ、と呆れながらソファに背中を預けた。
どうもこいつは昔から勉強や研究以外を二の次にしがちなんだよな…。
まぁ、だからこそ この若さでじいさんとこの研究員になれてんだけど
ガキの時から夢を叶えることだけ考えてコレだから、もう治らなさそうなとこが問題なんだよな…と考えながら紅茶を飲むなまえを眺めていたら、目が合って微笑まれる。
「今日はどうしたの?」
「別に。様子見に来ただけだぜ?誰かさんがちゃんと生活できてるか」
「サーナイトがいるから何とかなると思うけど…」
「それでもおばさんは心配なんだろうさ」
「…ママってば、私よりグリーンを信用するのよね」
「そりゃあ オレさまの方がしっかりしてるからな」
「それはそうなのよね」
「そこ認めんのな」
あまりにもあっさり認めるもんだから、おまえはそれでいいのか?と思う。
歳だけで言えばなまえのが上。といっても1つじゃ差なんてないようなもんだし、何ならオレが面倒見てやってる感じだけど。
レッドといいなまえといい、何でオレの周りはこう手のかかるやつが多いんだかと不思議に思う。
「だって グリーンがいなかったら、こんなに早く移住できてなかったと思うし」
「ま、オレさまは顔も広いからな」
「助かるけど、頼りきりなのよね」
「オレとおまえの仲だろ。いまさら そんなつまんねーこと気にすんなよな」
「ふふ、じゃあお言葉に甘えるね」
「おまえの頼みなんて、レッドを雪山まで探しに行くことに比べりゃ楽勝だぜ」
そこからレッドはどうしてるかとか、ゆっくり話せてなかったアローラはどうだったのかとかそんな話をしていたらいい時間で
いくらでも話せちまうもんだから、ついつい長居しちまうんだよな。と重い腰をあげる。
「そろそろ帰っけど、今から論文の続き読もうなんて思うなよ?」
「読もうと思ってたんだけど」
「寝ろ!研究所朝からだろうが」
「まだ眠くないし、少しくらい…」
「ダメだ。読み始めたら徹夜すんの目に見えてんだよ」
「それは否定できないのよね」
「はぁ…ったく、仕方ねーな」
そうして、夜の散歩に連れ出す。
ピジョットに乗せてやれば「確かに風の冷たさとものすごいスピードで少し疲れたわ」なんて言うから「じゃあ帰ったらすぐ風呂入って寝ろよ」と、降りるのに手を貸しながら釘をさす。
連れてきたのは別にどこって程の場所でもない
見晴らしのいい、ただ星が綺麗に見えるだけの高台だが
「夜のデートにはピッタリだろ?」
そうニヤリと笑って言えば、間抜けな反応をしたあと
瞬きを数回するだけで何も言わなくなったなまえに シラけた視線を向ける。
「なんでそこで黙るんだよ」
「私相手でデートになるのかと思って」
「それ以外に何があるんだよ」
「うーん…なんだろうね?」
「……」
にこりと、それだけ。
『オレとおまえの仲』なんて言ったところで、なまえとはずっとこんな感じだ。
オレの気持ちなんか、とうの昔に察してるだろうに。
そりゃ…じいさんの研究所の一員になるって、今までマジでそれだけを見てやってきたのも知ってるし
留学した時だって周りから浮いた話も、諸々断ってるってことしか聞かなかったし
色恋沙汰なんて頭になかったかもしんねーけど、そろそろよくねぇか?なんて少し恨みがましい気持ちで
星を仰ぐ
なまえの横顔をただ、見つめた。
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