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「はい、シカマル。お茶でよかった?」
「ああ、サンキュ」
目の前にすっ、と差し出されたグラスを受け取って
そういやコイツは昔からこうだったな、と思う。
「まぁた!あんたがそうやって甘やかすから、コイツはいつまでもこんななのよ!」
「わ、痛いよイノー」
オレが中忍になって、コイツと顔を合わせる機会も大分減った。
こうやって、一緒になって飯を食うのはいつぶりだったか
班が違うと会わねぇもんだな…休みも合わねぇし。
昔は家が一番近かったから、ガキん頃なんかはよく遊んだりもしてたけど…
「飲み物くらい自分で取りに行かせなさいよねー!」
「自分のもあるし、ついでだよ?」
アカデミーに入ってからもそれはさして変わんねーで
暇な休みは将棋の相手させたり、昼寝したり…
まあ、コイツと居ると楽でいい。面倒くさいことが多少なりとも減る。
…ただしそれは、イノが居ない時だ。
「ダメダメ!寧ろ、飲み物なんて男に持って来させればいいのよ」
「「…」」
相変わらずのイノに、オレとなまえは視線を一度合わせて黙る。
今まさにチョウジがその役割を担ってんだけどな。…帰ってこねぇけど。
コイツと一緒に席を離れたはずだがどこで寄り道してやがんだか…と思っていればなまえが口を開いた。
「…でも、相手がサスケくんだったら、イノ持っていくよね?」
「はぁ?!そんなの、あったり前じゃない!!」
「ね?それと同じことだよ?」
「「…………。」」
今度はオレとイノが黙る。
イノと視線は合わせない。理由は簡単、めんどくせぇからだ。
そういやこのやりとりも、昔からだったなァ…。と眉を潜めて予想通りの展開に、俺は軽く耳をふさぐ。
どうしたってイノの小言から逃げられねぇのは明白だからだ。
「ホンット!アンタにはもったいないんだからね、シカマル!分かってんの?!」
「うるせぇよ、店で叫ぶなって…」
「もー、私が勝手にしてるだけだから、そういうのじゃないんだってば…」
休みの日の小言は親からだけで十分だっつーの…とため息をついて、なまえが持ってきた茶に口をつけた。
「はい、イノ。飲み物おまたせ」
「おっそいわよチョウジ!」
「いやぁ~、あっちに美味しそうなケーキが並んでて、後でどれ食べようかなって悩んでたら…」
「ちょっとアンタなに先に飲んでんのよ!!」
「いいだろ別に、どうせ飲むんだからよ」
イノを宥めるなまえをよそに、横でチョウジがケーキの種類について語り始める。いつもながらに騒がしいもんだ。
早くも面倒くさくなってきたオレは、チョウジのケーキ談義に全部食えばいいだろ、と返して頬杖をついた。
飯も程々に、やっぱり新しく出来たお店はいいわねーなんていつの間にか上機嫌なイノと馬鹿みたいに食ったのにデザートは別腹だなんだと騒ぐチョウジがケーキを物色する、と席を離れた途端 辺りが静かになる。
やっと一息つけるのかと、ため息を吐いて
空になったグラスが目にとまれば、自然にいつもの言葉が出る。
「はー…めんどくせぇ…」
「…なんか、ごめんね?」
「あいつらがああなのは、いつものことだろ」
「…そだね」
小さく笑った後に、私ね、と続けるコイツの話を
聞きたいような、聞きたくないような。
「イノは『勿体ない』なんて言ってたけど、でも だんだん、私の出来ることなんてなくなっていくし…シカマルはもう中忍にもなってるし、」
あんま意味は繋がってねえけど、コイツの言い出すことなら だいたい見当はつく。
それくらい長く、あいつらと同じくらい、お前とは顔を合わせてたんだ。
「もうだめなんだろうなぁって思ったりもするんだけど、」
だいたい、気付かないワケがねぇ
まっすぐ向けられる想いがくすぐったくて
オレはいつも適当に流すしかできなかった。
「もう少しだけ、」
けどそれもいい加減、面倒くせぇなって
思わせる。
「あと、少しだけでもいいから、」
多分その言葉の続きなら、オレの方がよく知ってる。
それでも、その続きを上手く繋げられないなまえの次の言葉を待って。
「……」
「…やっぱり、今のなし…何が言いたかったのか 分からなくなっちゃったや」
「…」
「何か飲み物、入れてくるね。シカマルのも」
そう言って席を立つなまえに、
オレはオレなりの言葉で
なまえが言えなかった続きを投げる。
「お前は一生、オレの世話焼くんじゃねーの」
なまえの方を見ずにそう言えば、すぐに足を止めたのが分かる。
イノが聞いてたらムードがないだのなんだの、うるさく騒いだだろうな…
だいたいオレは、そんな気なんて回せねぇし、器用でもない。コイツに関しては、尚更。
「……いいの?」
「いいんじゃね、どーせ…」
「?」
「オレの世話を焼きたがる物好きなんか、お前くらいしか居ねぇだろうし」
優しさも、愛情も、
俺はきっと、満足にはやれねぇけど。
それでも、
「お前がオレでいいっつーなら…」
「……」
「…オレは、お前でいーよ。面倒くさくなくて」
反応がねぇから、視線だけでなまえの方を見れば
すげぇ嬉しそうに微笑んで
「私は、シカマルがいいよ」
そう言って、テーブルを離れていく。
オレはその後ろ姿を見送って、
小さく笑う。
「…敵わねぇな、」
多分、一生
お前にゃ、勝てる気がしねぇよ。
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