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「ずっと前から思っていたんだけど」
店員が、見た目に騙されて彼女の前に置いたショートケーキを
にこりと笑って僕に差し出す2つ年上のその人は
昔から、ちょっと変わった人だったけど
「…?」
「蛍くんは、ショートケーキの上に乗ってる苺みたいね」
「……」
歳をとって、更にそれが増したんじゃないかと思う。
「嫌そうな顔」
「…そんなこと言われて喜ぶわけないデショ」
「……」
「だいたい、こんな図体のデカイ男を苺に例えるなんてどうかしてるんじゃないの」
昔馴染みで性格もよく知ってるから、『なまえサン』とは呼んでも 敬語なんか使わない。
学校が違うからほとんど見ることもなくなったけど、見かければたまにこうしてケーキ屋に付き合わされる。
断りきれないのは、
綺麗に作られる笑顔と選択肢のない誘い文句、それにショートケーキが部活後の脳の判断を鈍らせるせい、だと思う。
居心地は、別に悪くないけど
基本的には静かで、何もないから。
「そう?だって、ショートケーキの苺って少し酸っぱいでしょう?」
「……」
そんな彼女が疑問形で何かを話始める時は『話がある日』
珍しい、とふわりと反発するスポンジを崩しながら一応耳を傾ける。
「甘味を引き立てるためにわざと酸っぱくて、
それでも主役のようにそこに居て…キラキラとしてるの。ひとつだけ、特別みたいに。」
「…」
「だから最後まで大切に置いておきたくて、でも、誰かに取られたくはないの」
「…変な本の読みすぎじゃないの」
ケーキを口に入れる直前に、そう一言返して。
にこにこと、そんな何かの小説にでも書かかれてそうな言い回しで苺について語られても困る。
でも彼女が話しているのは
苺の存在感についてだとか、苺をいつ食べるだとか
そんなことじゃなく
僕のこと。
「…蛍くんは頭が良いから伝わると思ったんだけど」
「ツタワリマセン」
「私、好きよ。ショートケーキ」
…意味は分からないでもないけど、
僕には関係ないとでも言うように「…ふーん」と返せば
彼女は腑に落ちないというような顔をして首を傾げる。
「…おかしいなぁ、私、告白したつもりなのに」
「それで伝わると思ってるとこがヤバいでしょ」
「そう?」
「もっと周りと自分を見比べなよ、おかしいから」
私 おかしいんだ、なんて今気付いたみたいに言うから呆れた顔をすれば
そんな僕を見て彼女はまた綺麗に笑う。
「…ほら、私って皆に甘やかされることが多いから…蛍くんのそういう酸っぱい態度がちょうど心地よくて。私には蛍くんが特別輝いて見えて、誰にも譲れそうにないから」
そうして真っ直ぐに言い直される言葉は
「ずっと私の傍に居て欲しいって、そう言ったの」
「……」
「私、蛍くんが好きだよ」
とてもじゃないけど、真っ直ぐ打ち返せそうにない。
「…よくそんなこと言えるね」
「だって本当は蛍くんが甘いことも知ってるから」
「……」
「私の恋人になって、蛍くん」
この人の言葉はただでさえ返事の選択肢が少なすぎるのに
作ったみたいに綺麗に笑う、その表情のせいで
選択肢が1つしか与えられてないような錯覚に陥る。
だからこの人の周りには、甘い奴が多いんだ。
ひねくれてる僕はどの選択肢にも当てはまりたくなくて いつも逃げるように言葉を探す。
「…どうしてもって言うなら、肩書きだけ なってあげないこともないよ、仕方なくね」
「なら、どうしても」
「……プライドとかないの」
「辞書にないかも」
「肩書きだけって、意味分かってる」
「それでも蛍くんはお願いすれば傍に居てくれるだろうから、私には何の問題もないと思うの」
「……」
ただ、どんな言葉を選んだとしても
その行き着く先は、結局この人にとっては全部同じなんだろう。
「呆れた顔」
「……もう好きにしなよ」
「ありがとう」
「…別に。そっちが勝手に言ってるだけだし」
「でも、ちゃんと付き合ってくれるでしょう?」
「…仕方なくって言ってるデショ」
「…」
「笑うな」
やっぱり、蛍くんは苺みたいね。なんて にこりと微笑む彼女の表情に
あぁ、もう、仕方ないなと
少し酸味のある赤い果実を
飲み込んだ
彼女には抗うだけ、無駄なんだろうと悟りながら。
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