26歳
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『10倍返し』に
悩みに悩んで
なまえの家の扉をくぐる 俺の手にあるのは
結局、いつものケーキ屋の紙袋。
「あ、いつものだ!烏養くんっぽ~い」
「うっせ!期待すんなっつっただろ」
「あはは、いいよ私ここの好きだもん。ありがとー!」
後で食べよーと紙袋を受け取ってキッチンに消えてく その後ろ姿に心の準備をする。
サーブのためにボールをあげる、それと同じくらいの
ほんの数秒の話だ。
えっ、という声と共にキッチンから慌てて戻ってくるなまえに
決めてきた言葉を 言うだけだ。
「烏養くん!これって…」
「お前が10倍返しっつーから…せ、籍入れんなら…そういうのも要んだろ…」
「うそーっ烏養くんこんなキザなことできたんだ!?」
「キザ言うな!!」
ケーキが入った箱の上にそっと乗せておいた
なまえが持つその小箱には、指輪。
予想通り 多い一言と、変わらない空気に
お前はやっぱそうだよな、と安堵しつつも
どこか、
驚かせられたことに満足してる自分がいたりもする。
「つけてつけて!」
「はぁ!?別に自分で…」
「つけてくれるまでがプレゼントだよ!こういうのは!」
「あー分かった分かった…」
こんなやりとりで、ムードなんかあるわけもねえ。
それでも、言われるがまま 玄関先で
出された左手に黙って指輪を通すのが
どうしても照れくさくて、誤魔化すように口を開く。
「つーかこれ仮だからな!今度 自分で選べよ!」
「?どゆこと?」
「店行ったけど…俺にはどれも同じにしか見えねえし、サイズも分かんねえで決めかねてたら、店員がプ、プロポーズリングっつーのがあるってこれを薦めてきてだな…」
「…プロポーズ」
「っ~~後で好きなの選び直せるっつーからこれにしたんだよ!つけるのお前だしな!」
「…繋心て、そういうとこあるよね~」
「……」
気恥ずかしさと、
そりゃどういう意味だ、って気持ちと
突然呼ばれた名前がやっぱりしっくりくること、
あと指輪越しに俺を見るなまえの笑った顔が
ただただ嬉しそうなこと
全部が混じって妙な顔をしてるんだろうとは 自分でも思う。
「…だって同じ苗字になりますし?」
「なんも言ってねえだろ…」
「照れてるんだ~」
「んなことで照れるか」
「じゃあ嬉しいんだ~。前一回呼んだ時、ちょっと残念そうにしてたもんね」
「気のせいだ、気のせい!」
「そういうことにしといてあげよ~」
「あーあーもう好きにしてくれ…」
さっさと飯行くぞ!と言葉を続けて
逃げるように部屋から出た扉の前でしゃがみこむと
途端に動悸がして
言葉にならないものを、息と一緒に大きく吐き出す。
そうしたところで なかなか治まりそうにないのは、
そんだけ緊張でもしてたのか。
そんな俺の気も知らずに
なまえは部屋から出てくるなり俺の手を引いて。
「繋心、明日休みなんだよね?」
「?おう」
「じゃ明日行こーよ!指輪と…婚姻届けも貰いにいかなきゃだし!」
「あー…」
「…婚姻届けの存在を忘れてたと見える」
「んな余裕なかったんだよ!指輪で精一杯で!」
「あはは」
今だって、いつもの居酒屋に向かう道すがら
俺の指に当たる、少し冷えた指輪の感触に
どうにも気持ちが
くすぐったくて
「落ち着け」
店へ入るのに手を離す、その暖簾をくぐった先の自分に向けて小さく呟いた。
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