26歳
名前変換
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先生が毎日のようにコーチ頼みに来てたのも ついこないだのような気がすんのに
気がつきゃ、もう年が 明ける。
店の奥にあるテレビから来年の抱負だの目標だのを語る芸能人の声と一緒に聞こえてくるのは
「繫心、アンタ来年こそは結婚するんでしょ?なまえちゃんも居るんだし!」
予想を裏切らないかあちゃんからの話題に頭を抱える。何かにつけて言われてきたそれが、この年の暮れに出てこねぇはずがねぇ。
今までは付き合ってる奴も居ない分
『アンタ早くいい子見つけないと!』って具体性がねぇから流しやすかったが…
具体的な相手を想定されるとなんつーかやりづらい。
急いで身支度を整えながら
「今はそれどころじゃねぇよ。春高あんだから!」とそれらしい言い訳をして逃げるように家を出た。
実際今はそっちの方が重要だしな。
そう思いつつも
春高の宮城 予選、代表決定戦、
できるだけの準備と練習を繰り返して
コーチがんなこと言うのはどうかと思うが、
それでも、奇跡の連続だったように思う。
そんな奇跡が、続いて…
もし、
『春高で優勝したら』
その勢いで『言う』くらいはいいんじゃねぇかと、
思ってたりもするもんだから
そこを突かれると反応に困るわけだ。
と、そんなことを考えてたら 名前を呼ばれて現実に引き戻される。
「烏養くん 遅い~」
「あ?時間には間に合ってんだろ」
「私の気持ちの問題に決まってるじゃん!」
「そうかよ。そりゃ悪かったな…で、どこ行くんだ?初詣っつーにはまだ早ぇだろ」
「正月と言えばコレでしょ~!」
そう言って、にこやかにグラスを傾ける仕草に
思わず「オッサンか」と口にして笑う。
初詣も行くから神社の近くね!って どこに連れてかれるかと思えば
いつものように 飲み屋って感じの店に入って
いつものノリで ダラダラと呑み進めるのが、らしくていい。
そんな中でふとなまえが、
いいことを思い出したというように声をあげて
それに俺は煙草の灰を落としながら耳を傾ける。
「あ、そいえば聞いて!同僚がしてた興味深い話!」
「おー」
「26歳って節目の歳で運命の機転になるらしいよ~!」
「ふーん」
「今年に起きたことや出会ったものは今後の人生に深く影響するんだって!」
「ほー」
「烏養くんも監督みたいに監督になったりするのかもよ~?」
「…俺が監督ねぇ…」
ふわっと余所に煙を吐きながら、考えてはみる。
つっても、一応跡継ぎの身だしな…この歳になって他の職業なんか考えたこともねぇし…。
コーチだって気まぐれに受けただけで
一生続ける、なんてつもりでやってるわけじゃねぇ。
実際、春高終わった後どうなるかなんて分かんねぇしな…
と想像の及ばない思考は
煙と同じように空気に馴染んで消えてった。
「その話聞いて私思ったことがあってさー」
「ん?おう…」
「……」
「…何の間だよ」
俺は、特にその話題に興味を持ったわけでもなく
適度に打った相槌に
なまえが、不満そうなのかというば そういうわけでもなく
じっと俺を見た後に、一瞬意地悪く微笑む。
「私、結婚してあげてもいいよ。烏養くんなら」
「………はぁ?」
「え~!プロポーズしてあげたのに何その反応~」
「は?いやお前…はぁ!?」
「烏養くん動揺しすぎ~」
「…お、お前…酔ってんのか?」
「だから動揺しすぎ~」
「しねぇ方がおかしいだろ!」
「あ~面白い!」
笑い転げるなまえに「面白くねぇ!」と返して落ち着かないながら必死に何かを考える。
酔ってねぇのは見りゃ分かる!
こんだけ笑うってことは冗談で言ってんのか?
でも、普段いくら茶化すことはあっても嘘なんか…いや、俺が気づいてねぇだけかもしんねぇけど!
それにしたって、
「なんかねー、さっきの話きいた時 なんとなーく『あ~、きっとこのままなんだろうな』って思ったんだよね」
「……」
「烏養くんが監督じゃないにしてもバレーしててさ、私はのんびり店番とかしてそーだなって!」
そんな、あっさりした理由を
思いきりのいい笑顔で言われると
ごちゃごちゃしてたもんが
なんかいっきに空になる。
思わず『そうだな』って言ってしまいそうなくらいに。
「どうせ烏養くんもありだなって思ってるでしょ?」
「いや、俺は…」
「うそ、この流れで思ってないとか言うの?」
「違うっつの!最後まで聞け!俺は…あれだ。春高…優勝したら……だな、」
言おうかと、思ってたんだよ、なんて
それすらも
最後まで言わせてもらえないまま
「私そんな不確定なの待つ気ないけど」
「おっっ前な…!!」
「だって烏養くんも、このままって気 するでしょ?」
いたずらにそう聞かれて 言葉に詰まったとしても、
もう俺の口からは
しないなんて
とても出てくるはずがない。
「、そうだな」
平静を装って、諦めたように、呆れたように応えてみせても、それでも その日の酒は美味かった。