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彼女が 俺の隣で楽しそうに笑っている。
その姿を見ているのがあまりにも幸せで、
「、……やべぇ!!!」
寝坊した。
ああ~くそっ、寝坊は厳禁だってあれほどなまえにも言われてたってのに…と こぼしながら、買ったばかりの服に袖を通す。
今日のために用意したもんだ。
髪だって いつもより気合い入れてキメる予定が…
既に待ち合わせ場所に居るであろう なまえの姿を想像して
掴んだ整髪料をポケットにねじ込んだ。
「悪い、なまえ!!遅れちまった!!」
少し遠いが、なまえの姿が見えた時点で
大声と スピードをあげる。
なまえが街に出れば、聖騎士の鎧を纏っていようがいまいが声を掛ける男は数知れず…。
ギルに比べたら、と本人は笑うが女騎士じゃ断トツの人気だ。
それが私服で待ちぼうけとくりゃ…1人2人で済んでりゃいいが…
「ではまた近いうちに寄らせて頂きますね。連れが来ましたので本日はこれで」
ほらまた、そうやって何でも軽く約束すんだろ
と、聞こえてきた言葉に 思わず自分が遅れたことを棚に上げて
男と話すなまえの後ろ姿を恨めしく見つめた。
「ハウザー、あなた……」
「…?」
「…失礼…?人違いを…」
怒られる覚悟はしてきたが、夢とのあまりの差に
俺へ振り返ったなまえの表情を見ることもなく目を閉じて
大人しく叱られるつもりが
また背を向けそうになるなまえを慌てて引き留める。
「ま、待て待て!俺だ!ほら!!」
「…ハウザー?」
両手で髪全体を後ろに流してへらっと笑って見せても
まだ信じられないというように俺の名前を呼ぶなまえに
「寝坊した、悪い」と小さく呟けば
仕方ないというように小さく息を吐いて
何も食べずに出てきたんでしょう、と軽食のとれる店へとひっぱりこまれる。
「鏡、持っていてあげるから髪整えたら?新鮮だけど、なんだか違う人と居るみたいで落ち着かないの」
「おう、サンキュー!」
注文した後、自分の鞄から出した手鏡を見せて俺へ向けるなまえに ポケットから整髪料を出して向き合う頃には
特に怒ってる様子もなくホッとする。
魔神だのなんだのが落ち着いて やっと二人で出掛けられるんだ。
まぁ、完全なオフってわけじゃあねえけど…こんなチャンス次いつ来るか分からねえ!
今までそれどころじゃなかったが、今日こそはこの関係もハッキリとさせてだな!とか意気込んでたら油断した。
「どうせ遅れるなら髪セットしてきてもよかったのに」
「そーはいくか!ギルやグリアモール相手ならまだしも…ほっとくとさっきみたいな口約束がいくつになるか分かったもんじゃねーからな!」
「心配してくれたの?」
「……」
無意識に嫉妬じみた事を口にしちまったが
にこにこと嬉しそうにされると、言ってるこっちが恥ずかしくなってきて
最後の言葉には返事をせず黙々と手だけを動かした。
大抵、男の方が一目会いたさに『ぜひうちの店にも』みてーな話で。
心配するような事でも妬くような事でもねえのは分かってるんだぜ?
けどなまえの場合、社交辞令じゃなくマジで行くからな…。
なまえにその気がねぇのは分かってても相手は男だ。
勘違いする奴がいるかもしれねえと思うと気が気じゃねえし…
ただでさえ聖騎士なんて激務だってのに、聖騎士長補佐としても苦労かけてんだ。
いらねー約束事までさせて負担を増やすのは阻止しねーと。
と、そんなことを考えていたら視線を感じて目を合わせる。
「そういえば、寝坊した言い訳は?」
鏡の向こうから顔を出してじっと見られるとやりづらくて
思わず手を止めて目を反らす。
「言い訳なんかねえよ」
「本当に?」
「ただの寝坊だって!」
「本当は?」
「……今日が楽しみで寝つけなかったんだよ!」
視線と問いかけに耐えきれずそう言えば、なまえは鏡に隠れて小さく笑う。
なまえのやつ、意外とこういう悪戯っぽいところがあるんだよな…。
けど誰彼構わずってわけでもねえし、楽しそうにされるとなにも言えねえ~と複雑な気持ちで、整え終わった髪型をチェックする。
「そうだ、ちょうどハウザーが来た時に話してた人、お家が食事処をやってる方なんだけど」
「……」
「今日遅れたお詫びに、そのお店も付き合ってくれる?仕事終わりにでも」
…そりゃあ 俺が遅れなきゃなかった約束だからな、責任は取るぜ?
理由はどうあれ俺を誘ってくれんのも素直に嬉しい。
けど今他の男の話出されんのはなんかこうモヤッとしてだな…。
「…」
「ハウザー?」
「…いいのかよ。お前に気があるんだろ?」
「もとより一人で行くつもりはないから、嫌なら他を当たるけど…」
「い、嫌とは言ってねぇだろ!?」
「そう?」
「…分かった!行く!行きますよ!それでいいんだろ!?」
ちょっとした仕返しのつもりで意地の悪いことを言ってみたが結局これだ。
ありがとう、とか言って微笑まれたら開き直るしかねえじゃねーか!
「その代わり、あの男に思いっきり牽制するからな!?」
「ふふふ、どうぞ?」
「くそー…面白がりやがって…」
「ごめんね、つい いじわるになっちゃう」
「…」
「でもやっぱり、ハウザーと居ると楽しいから」
だから、許して欲しい
とでも言わんばかりにそう言って
夢と同じように
楽しそうに笑うなまえを見ると、それでも幸せだと思っちまうんだからどうしようもねえよな。
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