看板の無い喫茶店
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「緑茶の香りはね、気分を落ち着けてくれるんですよ」
そうかも知れねぇな…段々頭が冴えてくる。俺がやっちまった間違いが分かってきた。
「心が解れて来ると、一番大事な事が見えて来るでしょう」
「……あァ…」
そうだ、俺は大事なモンを見落としてたんだ。
アイツに気持ちを伝えてねぇ。
諦めるのはそれからだって遅くねぇんだ。
男は後ろを向き、棚にカップを丁寧に仕舞っている。
そして仕事の合間に独り言を呟くように、ぼそりとこう言った。
「…彼女を口説くつもりなら、プレゼント位は用意した方が良いですよ…アクセサリーとか…」
「…あ?」
男は振り返るとほくそ笑む。
俺は目を細めてその顔を見た。
青というより水色に近い瞳は、近くにいる俺の体を通り越し、遥か遠くを見ているようだ。
まるで何もかも見透かされているような錯覚に陥り、何となく居心地が悪くなる。
「余計な世話だ…帰る」
残った茶を一気に飲み干し、上着と得物を取り上げると席を立った。
「……旨かったぜ」
これからは酒の代わりに、たまには茶でも啜ってみようか。
焦げ茶色の木目に備わる真鍮の取っ手を持つと、暖気を溜め込んだ金属が手にやんわりと張り付く。強く押し出すとカランカラン、と鐘が鳴った。
「お代………」
客が去った後、男はポツリと呟き、やれやれと首を竦めた。
END
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